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本編
836 天使型ガーディアン試作機であーる。
しおりを挟む「──ちょっと! コレクトでも追えないってどういうことだし!」
「俺だって知らないよ! コレクトだって頑張ってんだよ、なあ!?」
「クェェ」
俺も一度辛く当たってしまったのだし、あまりそう言ってやるな。
コレクトにだって追えないものがあるんだから。
「言い争いはその辺にして、次来るわよ! ワシタカでも捌き切れない量!」
ジュノーとの言い争いをイグニールに止められ、前を向く。
目の前には、ガーゴイルと思しき魔物の大群が一挙として押し寄せて来ていた。
「あーもう!」
飛空船に内蔵されているピクシーを展開し、迎撃に向かわせる。
倒しても倒して、空から引っ切り無しに降りて来るガーゴイル。
「なんなんだ、これ!」
港町に戻ってすぐのことである。
俺たちは、マイヤーを乗せた馬車を追って飛空船を飛ばした。
馬車とワシタカくんの飛行速度は天地の差。
コレクトで位置を特定しなくと、件の馬車を上空から発見。
しかし、ここで問題が二つ発生した。
一つ目は、肝心のコレクトが未だにマイヤーの位置を特定できていないこと。
二つ目は、今まさに上空から無尽蔵に襲いかかってくるガーゴイルたち。
「……まだまだ降りて来るし! もー!」
「処理できてないわね……ちょっと甲板から迎撃してくる」
飛空船に搭載されたドラグーンは、亜竜相手でも負けないってのに……。
イグニールまで出る羽目になるとは……。
なんとなく、察しはついた。
空──馬車の目指す先の空。
大迷宮の一つ、塔型ダンジョンの天界神塔があるんだ。
明らかに、明らかにだ。
そこから襲いかかって来ていると俺は見ていた。
「また、ダンジョンか! ちくしょうめ!」
しかもガーゴイルって……。
天界神塔って名前なら、天使にしろよ。
禍々しいったらありゃしない。
「トウジ、これ」
「ほわっ!?」
飛空船のリビングに戻って来たイグニールが、何かを俺に投げ渡した。
ガーゴイルのもげた頭部だった。
「なに驚いてるのよ。ほら、緊急だからさっさと見て」
「は、はい」
これでガーディアンだったら確定だな。
そのためにイグニールは持って来てくれたようだ。
しかしまあ、たくましいっすね、うちの嫁さん。
【天使型ガーディアン試作機】
これは確かに天使であーる。
誰になんと言われようが、天使であーる。
「天使型ガーディアン試作機だって。決まりだな、この状況はダンジョンコアの思惑だよ」
「……天使型?」
話の趣旨はそこではないのだが、さすがのイグニールもそんなツッコミを入れていた。
この世界の天使という認識は、俺の元いた世界のものと似ているらしい。
「へー、これ天使なんだし?」
「いや、天使じゃないんだけど」
「じゃーなんだし」
「ちょっとややこしくなるから、師匠はパンケーキ食っててもらえるかな……?」
「なんだしそれ! 説明が面倒臭いからって、パンケーキで釣るのやめるし!」
「ポチ」
「アォン」
ポチは速やかにキッチンにパンケーキを作りに行った。
「説明責任果たしてもらうし! でもパンケーキも食べる! ポチ待つしー!」
師匠もキッチンに飛んで行った。
やっぱり師匠は師匠だね。
さて、このガーディアンが天使か悪魔か議論は置いといて、ダンジョンコアの話に戻る。
「……マイヤーはダンジョンコアに攫われたってことで間違いないのね?」
「だと、思う」
レヴィアタンを倒せる存在なんて、ダンジョンコアとその守護者しかありえない。
俺の知る限りだと、って条件を付け加えるとだが。
「……でも、なんでマイヤーが」
「そこなんだけど、俺とつながりがあるってだけで、狙われても仕方ない気がする」
現状、ビシャスや奴らを手を組んだダンジョン勢力と敵対関係にある。
悪意と呼ばれるビシャスのことだ。
俺の一番嫌がる方法として、マイヤーを誘拐するのは想像できる。
マイヤーを一人にしてしまった、この状況を逃すはずがない。
本当にどうしようもないことをした。
でも、レヴィアタンの腹から助けてくれたことは感謝すべきかもな。
あれは本当にどうしようもない、災害なのだから。
殺して腹から取り出しているあたり、誰もが予期せぬ不幸だったのだろう。
「やっかいね」
「なにが?」
「敵対してるダンジョンって、これで向こうは四つってことでしょ?」
「ああ……」
天界神塔、魂枯砂漠、夢幻楼街、奈落墓標。
対する俺たちは、断崖凍土、深淵樹海、極彩諸島の三つ。
でも、こっちの勢力ではなく。
あくまで友好関係を築いて、敵対しないってだけだ。
「三つも四つもあんまり変わらないよ」
「そう? ただでさえ厄介なのに、それが増えたらたまったもんじゃないわよ?」
イグニールに言われると、なんだか俺もそんな感じがして来た。
くそ、厄介だな!
「この状況ももっと厄介だし、まったくもう! 厄介厄介!」
「子供みたいにごねないの。で、どういう厄介かしら?」
「ガーディアンって特殊な例を除いて、普通ダンジョンから外に出さない」
権限持ちの守護者ならば自由だが、敵対者を倒すという命令しか与えられていないガーディアンは出さないものだ。
そもそもが弱く、労働力とか、戦闘では物量で押し切るのが有効な使い方。
ダンジョンないなら倒されてもリサイクル可能で、八大迷宮の一つともなれば、それを理解していないわけがない。
「つまり?」
「アドラーのところで、国をダンジョン化する計画を話してたけど……」
「ああ、なるほど」
理解してくれたようだ。
そう、すでにタリアスはダンジョン化された国なのではないか。
そんな気がするのである。
「空から落ちたガーゴイルもとい、ガーディアンはどうなってる?」
「ギュア!」
「クエエッ!」
ワシタカくんの言葉を受け取ったコレクトがジェスチャーで教えてくれる。
消えたってさ。
俺がアイテムを回収するように、スッと。
「先代勇者がいた頃からあるダンジョンだ。断崖凍土だって、深淵樹海だって広さは国一つ分は優にある」
ありえない話ではなかった。
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