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本編
847 高貴な光、かもしれない青汁
顔立ちはそっくりなのに、耳だけが違っていた。
そこだけが、違う人種だと俺の脳に理解させる。
「手を取って、早く」
彼女は船から身を乗り出して俺に手を差し伸べた。
「ごめん、首の骨が折れてて、手足が動かせないんだ」
「……貴方、すごく不幸だけど、同時に、すごく幸運かも」
小難しい表情を作った女の子は、俺の手をロープで船の縁にくくり付けた。
そのまま船を漕いで、岸辺に連れてってくれるらしい。
「聖域……この泉は、生ある者の命を奪う」
「そうなんだ……」
「そして奪った命をこの森に還元している。たぶん、貴方はほとんど死んでるみたいだから、生かされた」
「へ、へえ……」
水島は潜ったら死んだ。
だから、単純に水面から一定層下に行けば何かあるんじゃないかと思っていた。
話から察するに、HPが一定数以上ある状態だと、無条件で殺すっぽいな。
そんで泉にとって、HPが残り少ない死にかけ判定は生かすに値するらしい。
装備による一定回復があるとは言えど、今の万越えのHPからすれば微々たるもんだ。
もし上手いこと秘薬を飲んで回復していたら、とんでもないことになっていただろう。
「君は誰?」
「私はメイヤ。メイヤ・アルベルト。この聖域の管理者」
「メイヤ……アルベルト……」
「そう。メイヤは親からもらった名前。アルベルトは高貴な光というエルフの名」
おいおい。
名前までそっくりときたもんだ。
エルフ、という単語よりも先に。
俺は彼女の名前を聞いて少し驚いた。
「まったく、他人の空似とは思えないぞ……」
「何が?」
呟くと、興味を惹かれたのか金色の瞳が俺を射抜く。
「君によく似た人を知っててさ。顔立ちも、名前も、そっくりなんだ」
その耳、以外ね。
「顔立ちや、名前がそっくり……ならその子も周りと違った存在?」
「え? まぁちょっとは違うけど……」
あの方言っぽいのは、違いに入るのだろうか。
俺には関西弁に聞こえるのだけど。
この世界の人にはどう聞こえているのかは謎だ。
「親譲りの言葉遣いってだけで、別に一緒かなあ」
意思疎通はしっかりできている。
言葉遣いで差別する、なんて現代人には無いから普通だ。
「……親がいるなら、私とは違う」
「……なんかごめん」
「いい。私には親からもらった名前があるから」
メイヤを親からもらった名前だと言うのなら、彼女は孤児のような出自だったのだろうか。
30歳手前でもう手遅れな親孝行を考え始めた俺には、彼女の考え方が眩しく思える。
まさしく、高貴な光って感じ。
「それより、岸についてからどうするべきか考えた方がいい」
「どういうこと? 人間はみんな殺すとか?」
「エルフをなんだと思ってるの、貴方」
「すいません」
なんとなく排他的な部分を想像していたのだが、そうではないらしい。
「首の骨が折れて、四肢が動かない貴方をどうやって運ぶかが問題」
「ああそれか」
「聖域に魔物は近寄ってこないけど、村までは少し距離があるから」
その途中で魔物に襲われたら、少しややこしいことになるそうだ。
「矢の一撃を見た感じじゃ、相当強そうだけど」
「貴方を襲っていた魔物は弱い。もっと強い魔物がいる」
「なるほど。でも、岸まで送ってくれたら大丈夫だよ」
そこで彼女にインベントリから出した秘薬を飲ませてもらえば済む話だ。
秘薬は腕もくっつくことが証明されてるからね、骨折くらい治るっしょ。
「すごく呑気」
「そう見えるだけで心の中は全然呑気じゃないよ」
むしろ焦っている。
一周回って、冷静になっている、というだけだ。
今だってグループ機能で逐一みんなをチェック中だ。
マップでも動きがないか確認を続けている。
イグニールたちに動きはない。
彼女たちのHPにも動きはない。
アローガンスは、俺に一撃を見舞うだけで満足したのだろうか。
……うーむ、心配だ。
「吐きそう」
「大丈夫? 重度の怪我による症状かもしれない。首の骨が折れたんだから、頭にダメージがあっても不思議じゃない」
「あ、いや……そうじゃなくて、ちょっと心配事とか悩み事とか、それで吐きそうになっているっていうか……」
「……ほんと呑気」
「すいません」
この泉はかなり広く、しばらく船を漕いでようやく岸までたどり着くことができた。
彼女にずるずると岸辺まで引っ張りあげてもらう。
「あの、自分じゃ飲めないんで、飲ませてもらえせんかね」
インベントリから秘薬を取り出しつつ、そう尋ねてみると。
「わかった。ついでに私が100種類の葉っぱを混ぜて調合した秘伝の青汁も一緒に」
「いや、それは結構です」
「……むう」
きっぱり断ると、彼女は少し不満げな表情を作っていた。
いやいやいやいや、俺の秘薬の方が100%まともだ。
100種類の葉っぱを混ぜて調合した青汁って、聞くだけでやばそう。
いろんな毒素が混ざって、新たな毒素が生まれるレベルじゃないか?
「でも、もしかしたら首にも効くかもしれない」
「いや、結構です」
「もし四肢に麻痺が残ったとしても、効くかもしれない」
「遠慮しておきます」
かもしれない、で変な薬飲ますなよ。
車の運転じゃないんだぞ。
「滅多に試せない怪我だから、この際一緒に飲んでみることをお勧めする」
「……試したいだけじゃ」
「とりあえず貴方の薬と私の青汁を混ぜた。多分相互作用ですごい薬になったはず」
「ちょ」
「試しに飲んでみたら一瞬猛毒状態になった後に、それを上書きするように体力が回復した」
「いやそれ違う」
青汁の猛毒効果を、俺の秘薬が上回って回復しただけ。
つーか、手に持たせるだけでいいよやっぱり。
手に持った状態だったら使用すれば一瞬で使えるから。
あと、どんな変貌を遂げたか確認してやる。
「貴方馬鹿? 飲まなきゃ回復しないのは当たり前」
「そうだけどそうじゃないというか」
「ぐちぐちうるさい。さっさと飲め」
「わぷっ」
彼女の顔が急速に近づく、そして俺の唇は塞がれた。
ついでに鼻も。
飲んだ瞬間、体に電撃が走り、そこから猛烈な勢いで回復した。
味は、苦い……とは言い難く、なんと形容したらいいのだろう。
とにかく。
イグニールにバレたら怒られそうだ、とだけ言っておこう。
=====
メイヤ「今日は人助けをした。善行を積んだ日は秘伝の青汁の調子がいい」
トウジ「善行を積まなかったらどうなる?」
メイヤ「体調の悪化とともに、お通じがものすごくよくなる」
トウジ「……えっ」
そこだけが、違う人種だと俺の脳に理解させる。
「手を取って、早く」
彼女は船から身を乗り出して俺に手を差し伸べた。
「ごめん、首の骨が折れてて、手足が動かせないんだ」
「……貴方、すごく不幸だけど、同時に、すごく幸運かも」
小難しい表情を作った女の子は、俺の手をロープで船の縁にくくり付けた。
そのまま船を漕いで、岸辺に連れてってくれるらしい。
「聖域……この泉は、生ある者の命を奪う」
「そうなんだ……」
「そして奪った命をこの森に還元している。たぶん、貴方はほとんど死んでるみたいだから、生かされた」
「へ、へえ……」
水島は潜ったら死んだ。
だから、単純に水面から一定層下に行けば何かあるんじゃないかと思っていた。
話から察するに、HPが一定数以上ある状態だと、無条件で殺すっぽいな。
そんで泉にとって、HPが残り少ない死にかけ判定は生かすに値するらしい。
装備による一定回復があるとは言えど、今の万越えのHPからすれば微々たるもんだ。
もし上手いこと秘薬を飲んで回復していたら、とんでもないことになっていただろう。
「君は誰?」
「私はメイヤ。メイヤ・アルベルト。この聖域の管理者」
「メイヤ……アルベルト……」
「そう。メイヤは親からもらった名前。アルベルトは高貴な光というエルフの名」
おいおい。
名前までそっくりときたもんだ。
エルフ、という単語よりも先に。
俺は彼女の名前を聞いて少し驚いた。
「まったく、他人の空似とは思えないぞ……」
「何が?」
呟くと、興味を惹かれたのか金色の瞳が俺を射抜く。
「君によく似た人を知っててさ。顔立ちも、名前も、そっくりなんだ」
その耳、以外ね。
「顔立ちや、名前がそっくり……ならその子も周りと違った存在?」
「え? まぁちょっとは違うけど……」
あの方言っぽいのは、違いに入るのだろうか。
俺には関西弁に聞こえるのだけど。
この世界の人にはどう聞こえているのかは謎だ。
「親譲りの言葉遣いってだけで、別に一緒かなあ」
意思疎通はしっかりできている。
言葉遣いで差別する、なんて現代人には無いから普通だ。
「……親がいるなら、私とは違う」
「……なんかごめん」
「いい。私には親からもらった名前があるから」
メイヤを親からもらった名前だと言うのなら、彼女は孤児のような出自だったのだろうか。
30歳手前でもう手遅れな親孝行を考え始めた俺には、彼女の考え方が眩しく思える。
まさしく、高貴な光って感じ。
「それより、岸についてからどうするべきか考えた方がいい」
「どういうこと? 人間はみんな殺すとか?」
「エルフをなんだと思ってるの、貴方」
「すいません」
なんとなく排他的な部分を想像していたのだが、そうではないらしい。
「首の骨が折れて、四肢が動かない貴方をどうやって運ぶかが問題」
「ああそれか」
「聖域に魔物は近寄ってこないけど、村までは少し距離があるから」
その途中で魔物に襲われたら、少しややこしいことになるそうだ。
「矢の一撃を見た感じじゃ、相当強そうだけど」
「貴方を襲っていた魔物は弱い。もっと強い魔物がいる」
「なるほど。でも、岸まで送ってくれたら大丈夫だよ」
そこで彼女にインベントリから出した秘薬を飲ませてもらえば済む話だ。
秘薬は腕もくっつくことが証明されてるからね、骨折くらい治るっしょ。
「すごく呑気」
「そう見えるだけで心の中は全然呑気じゃないよ」
むしろ焦っている。
一周回って、冷静になっている、というだけだ。
今だってグループ機能で逐一みんなをチェック中だ。
マップでも動きがないか確認を続けている。
イグニールたちに動きはない。
彼女たちのHPにも動きはない。
アローガンスは、俺に一撃を見舞うだけで満足したのだろうか。
……うーむ、心配だ。
「吐きそう」
「大丈夫? 重度の怪我による症状かもしれない。首の骨が折れたんだから、頭にダメージがあっても不思議じゃない」
「あ、いや……そうじゃなくて、ちょっと心配事とか悩み事とか、それで吐きそうになっているっていうか……」
「……ほんと呑気」
「すいません」
この泉はかなり広く、しばらく船を漕いでようやく岸までたどり着くことができた。
彼女にずるずると岸辺まで引っ張りあげてもらう。
「あの、自分じゃ飲めないんで、飲ませてもらえせんかね」
インベントリから秘薬を取り出しつつ、そう尋ねてみると。
「わかった。ついでに私が100種類の葉っぱを混ぜて調合した秘伝の青汁も一緒に」
「いや、それは結構です」
「……むう」
きっぱり断ると、彼女は少し不満げな表情を作っていた。
いやいやいやいや、俺の秘薬の方が100%まともだ。
100種類の葉っぱを混ぜて調合した青汁って、聞くだけでやばそう。
いろんな毒素が混ざって、新たな毒素が生まれるレベルじゃないか?
「でも、もしかしたら首にも効くかもしれない」
「いや、結構です」
「もし四肢に麻痺が残ったとしても、効くかもしれない」
「遠慮しておきます」
かもしれない、で変な薬飲ますなよ。
車の運転じゃないんだぞ。
「滅多に試せない怪我だから、この際一緒に飲んでみることをお勧めする」
「……試したいだけじゃ」
「とりあえず貴方の薬と私の青汁を混ぜた。多分相互作用ですごい薬になったはず」
「ちょ」
「試しに飲んでみたら一瞬猛毒状態になった後に、それを上書きするように体力が回復した」
「いやそれ違う」
青汁の猛毒効果を、俺の秘薬が上回って回復しただけ。
つーか、手に持たせるだけでいいよやっぱり。
手に持った状態だったら使用すれば一瞬で使えるから。
あと、どんな変貌を遂げたか確認してやる。
「貴方馬鹿? 飲まなきゃ回復しないのは当たり前」
「そうだけどそうじゃないというか」
「ぐちぐちうるさい。さっさと飲め」
「わぷっ」
彼女の顔が急速に近づく、そして俺の唇は塞がれた。
ついでに鼻も。
飲んだ瞬間、体に電撃が走り、そこから猛烈な勢いで回復した。
味は、苦い……とは言い難く、なんと形容したらいいのだろう。
とにかく。
イグニールにバレたら怒られそうだ、とだけ言っておこう。
=====
メイヤ「今日は人助けをした。善行を積んだ日は秘伝の青汁の調子がいい」
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