装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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本編

861 過去の話

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「メイヤさんの話に戻りますが……彼女はそもそも泉から出られないのですよ」

 確かにメイヤは「いけない」と尻込みしていた。
 しかし、出れたのは事実。
 結界的なものを張っていたとしても、なんだかわからんうちに解けていた。

「出れたけど」

 短くそう答えると、笑顔を崩さないまま奴は言う。

「それが問題です」

「問題?」

「結界が張ってあって出れない、とお考えなのでしょうが……半分正解です」

「もったいぶってないで早く話せよ」

 いちいち癪に障る笑顔を振りまくな、脱走するぞ。
 俺がこうして大人しくしているのも、詳しい話を聞くため。
 そしてエルフとの間に溝を作らないためだ。
 みんなの前でソルーナの正体を暴き、その地位から叩き落としてやる。

「せっかちな人ですね」

 ソルーナはやれやれと肩をすくめながらこう言った。

「答えは単純、彼女は元々この世に存在していないからですよ」

「意味がわからん」

 いるじゃん、という話だ。

「今から約21年、いやもうすぐで22年前の話になります」

 奴はそう語り始めた──







 ある晴天の日、眩しい太陽の下でこの地に一人の赤子が生まれた。

 ハーフエルフと人間の子。
 いわゆる、クオーターと呼ばれる存在である。

 エルフとしての特徴は極めて薄く、ほとんど人間と変わりない。
 里を離れるハーフエルフの母親とともに、そのまま人の世で静かに暮らす。

 誰しもがそう思っていたのだが、問題が起こった。

 その子の魂は、考えられないほどの膨大な魔力を持っていたのである。
 純潔なるエルフでも、精霊の果実を食べてきたエルフでも。
 長い寿命の大半をかけて鍛錬しなければ、到底追いつかない程の魔力。

 人間の赤子の身には、危険な代物だった。
 規格外の存在は度々生まれ出ずる世の中でも、さらに稀有。

 生死の境を彷徨う赤子に、当代のスピリットマスターが手を加えた。
 秘術を用い、代々受け継がれる精霊の泉に。
 膨大な魔力を抱えた魂の一部を分離し、封印したのである。

 そうして、赤子は人間と同じ程度の魔力へと変わり生死の淵を乗り越えた。
 母親とともに大陸を渡り遠方へと旅立ったのである。

 母親は、自分の子にマイヤーという名前をつけた。
 そして魂を分割した方にも、メイヤ。
 どうして泉に名前をつけたのかは、誰もわからない。







「──昔話はそれで終わりなんですが、その後不思議なことが起こるわけですよ」

「……」

 驚愕の真実なんだが?
 なんだよそれ、初耳過ぎる。

「器を持たない魂だけの存在が、いつしか人の形を取り始めたのです」

「それが今のメイヤだって言いたいのか」

「その通りです」

 少女の姿のまま、泉を彷徨うメイヤを発見した先代スピリットマスター。
 サミュエルは、泉の管理を任せた自分の養子であると公言し彼女を育てた。
 その事実はスピリットマスターのみに受け継がれ、永続的に管理していく。
 そういった事情らしい。

「泉は彼女の存在そのものであり……」

 牢屋に顔を近づけると、ソルーナはニヤリと笑いながら言った。

「……離れるとどうなるか、わかりますよね?」

「透過したのもそのせいか」

 出れないのも封印のせいで、泉そのものから離れると存在を保てなくなる。

「あなたは逃すおつもりだったようですが、無理な話だったんですよ」

 言葉通り、そのまま連れ去ってしまった場合。
 メイヤは、どうなっていたかわからない。

「放っておいても、勝手に手元に戻ってくる“もの”ですし?」

 俺の選択は、またしても……。
 またしても間違っていたと言うのか。
 強く拳を握り締めすぎて、いつの間にか血が出ていた。

「……その“もの”って言い方やめろよ」

「私にとっては“もの”なので」

「クソ野郎……なら、泉に戻せば、メイヤには手出ししないのか?」

 離れられないのであれば、どうすることもできない。
 諦める、という選択肢。
 それが頭に浮かんでいた。

「お前の条件を飲む。メイヤを泉に戻すから、マイヤーを解放してくれ」

 ことが丸く収まれば、再びこの地に来よう。
 その時は、うんと美味しいものを持ってくるつもりだ。
 泉の近くでしか、彼女が生きれないのなら。

「おっと、交渉のテーブルを投げたのは、あなたですよ?」

「無関係なエルフを巻き込みたくないから、大人しくしてるだけだぞ」

「その気になれば、いつでもここから抜け出せるってことですか?」

「ああ」

「……そうですね。でしたら、明日マイヤーさんをお返しします」

 もっとも、とソルーナは続ける。

「魂はどちらとも、私が自分のために用いますから、抜け殻だけですが」

「どういうことだ!」

 ガシャンと檻に顔を寄せて、ソルーナを睨む。

「あんな力を管理し続けるだなんて、もったいない話ですよ」

「だから、何をするつもりだ!」

「稀有な魂をすべて、私の力とします」

 そのために鍵である器と魂を揃え、先代を殺したのですから、とソルーナは笑っていた。
 封印の力自体は、封印者の死後、次代へと受け継がれる。
 封印を解き、二つの魂を元の一つへと戻したあと、取り込むそうだ。

「新たな力への道筋を教えてくれたビシャスさんには、感謝しませんと」

 同時に、と奴は続ける。

「あなたの絶望という恩返しをしなければいけませんので──クフフ、クフフフフ!」

「ッ」

「万物を殺し、別のものに育む、もともとあの泉にはとんでもない力が秘められています。そうすれば、私は最強となり、あなたの存在をすべて無に帰すことも可能かもしれませんね?」

 無理矢理にでも檻を破って、今すぐこいつの顔を殴ってやろう。
 そう思った。
 しかし、俺の動きを察知したソルーナは、

「この土地の生命すべてが人質なんですが、それでもいいんですか?」

 と、言う。

「今すぐにでも、二人を一つにし、魂を奪うことも可能なんですよ?」

「何が言いたい、言いたいことがあるなら簡潔に言えよ!」

「明日、儀式として二つの魂を一つにするところをあなたにもお見せしますよ」

「なに?」

「助けようとした二人が死ぬ姿を存分にご覧ください、クフフフ、フフフフ!」






=====
頑張って書きます。
あまり鬱展開っぽいのは私も好きではないので、さっさと更新して次に進めましょう。
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