637 / 650
本編
937 夢幻楼街・剥がれ落ちる仮面
しおりを挟む「過去には勇者なんて呼ばれていたこともあった」
「勇者ッ!」
そういえば、賢者が残した書物に記載されてあったことを思い出す。
現代の勇者は、過去の勇者と繋がりがあったからこそ、この世界に呼ばれた。
そうやって認識していた。
どんな因果だろうか。
たまたま、現代勇者の召喚に巻き込まれて、出会った過去の勇者が……。
ネトゲで長い間苦楽を共にしてきた間柄だったとは……。
「驚いたか?」
「驚いたも何も、なんか最初から仕組まれてた気がするくらいだよ」
あの場に俺と現代勇者が揃ったから召喚が行われた。
そんなことを疑うレベルである。
「そうだぞ」
フードを外した龍崎が、酒を口に含みながらさらっと肯定した。
「……ん?」
「まどろっこしい腹の探り合いは好きじゃないから言っておくが」
と、ナッツをバリバリと頬張りながら竜崎は続ける。
「俺が召喚したかったのは、お前だ。秋野冬至」
「はあ……? 意味がわからん」
だったら何のために、って感じだ。
この世界に俺を呼びたい理由がわからない。
「お前の息子が召喚される理由は、辻褄が合うけどね」
デプリが勇者を求めた。
それに呼応するようにして、過去勇者の血縁である現代勇者が召喚された。
これならば、理屈が通る。
しかし、過去勇者が俺を召喚したがったという理由にはならない。
「異世界でオフ会が開きたいだけなら、現実世界に戻ってこいよ」
つっても、俺はオフ会に参加したことは一度もないけどね。
悲しい話だが、それは仕方がない。
この世界の今の状況と違って、過去の俺には財産と呼べるものはゲームの世界にしかなかった。
「お前のことだから、この世界を楽しんでいると思ったが……楽しくないか?」
「いや、楽しいよ。楽し過ぎて、この世界で一生暮らすことを決めたくらいさ」
「なら良かった。ちなみに、息子を使ったのはある種因果律の操作みたいなもんだ」
「因果律の操作……?」
「召喚者は、世界の異物は、爪弾きされる様にしていずれは巡り合う運命」
俺だけ召喚していたとしても、何の問題もなくこうして俺たちは出会っていたはずだった。
しかし、龍崎は息子と俺が同じ時間同じ場所に存在するというピンポイントを狙う。
何故か?
「答えは、与える力の匙加減ってのも考慮したからだ」
「よくわからん」
「その辺りは人を効率よく動かす際の鉄則というか、いや、単純な俺の美学の一つか」
「腹の探り合いは好きじゃないって言っときながら、俺にも分かる言葉を使えよな」
そっちの鉄則とか、美学とか、そんなものはどうでも良い。
分かるように言え。
「すまんすまん」
「憶測とか想像で会話が進んでも知らないぞ? そんなのこじれた関係にしかならないからな?」
俺としては、できることなら過去の勇者とは仲良くしておきたい。
長年同じゲームで、同じギルドで、苦楽を共にした間柄。
俺が苦しい時、相談に乗ってくれていた龍崎のことを今でも覚えている。
変にこじれて俺の黒歴史を暴露されたりするのは困るんだ。
「すまんすまん、一応冬至の憶測や想像とやらを教えてくれ」
「良いのか? 現状ぶん殴りたいレベルなんだけど」
「ほう」
こいつの今の言い分だと、俺を呼ぶために自らの息子を犠牲にした。
しかも、しかもだ。
俺の持つ勇者というイメージを悪くするために、裏で動いていた。
そんな印象もある。
「それに与える力の匙加減?」
まるで、俺に今ある全ては自分が授けたみたいな言い草。
それは侮辱だ。
ポチたちに対する、侮辱として受け取れる。
「肯定しよう。その憶測、いや推測で間違い無いぞ。大正解だ」
「なるほど」
だったら、と俺は目の前にあるテーブルを踏み壊した。
龍崎を囲っていた女性たちがビクッと体を硬らせる。
「一つ聞いておきたい。ギルマス……いや龍崎」
「なんだ」
「お前はビシャスの仲間って認識でいいのか?」
召喚に手を貸した。
それだけでビシャスと繋がりがあることは確かだ。
勇者としての役目を終え、ここでチャランポラン生活をしているわけではない。
断じて、ないだろう。
「説得に応じるなら、今すぐ手を切れと言っておくぞ」
あんな奴に絡んでも良いことにはならない。
ここの夢幻楼街のダンジョンコアと繋がりがあるのなら、一緒に手を引け。
ネトゲ内とは言え、旧知の間柄だからこそ言っておくのだ。
「あーもう、高かったのに。そのテーブル」
睨み合っていると、後ろから声が聞こえる。
ウェーブ掛かった長いピンク色の髪に、メリハリのついたボディラインがよく分かるドレスを身につけた女性がため息をつきながら現れた。
その隣には、先ほど俺がラストを呼んでこいと白金貨で殴りつけた女性がいる。
「遅かったじゃないか、ラスト」
龍崎の声。
何となくこいつがそうかと思っていたが、確信に変わる。
「どーもぉ、貴方が御所望のラストよ。そのテーブルは弁償してね?」
「チッ」
あとで色々と文句を言われても調子が狂うだけだから白金貨一枚投げておく。
これで足りないなんてことはないはずだ。
「あら、太っ腹ね。あたし太っ腹な男性好きよ?」
「妻帯者だから、遠慮しておく」
「真の愛にはそんなの関係ないわよ。むしろ燃える」
やばい女だ!
こいつ!
「じゃ、お目当ての存在も来たらしいから、俺はこの辺でお暇する」
そんな状況を見て、立ち上がった龍崎。
どうやら言うだけ言って逃げるつもりだった。
「おい、まだ話は終わってない」
「そうね。私からも話があるわよ」
龍崎の方を俺とラストが掴む。
なんだこれ、誰が味方で誰が敵なのかわからなくなるぞ。
微妙な空気の中、ラストが言った。
「高級接待4人分と全員の席料、サービス料、込み込みで白金貨30枚ね」
「……俺と冬至の分で2杯しか飲んでないぞ?」
「それはサービスしておくから、ちゃんと払ってから出て行きなさいね?」
やはりぼったくりだったか、この店。
女性4人侍らせて、酒を2杯で、白金貨30枚。
やばい店だ!
ここ!
「ぼったくりと思ってるみたいだけど、こいつのつけは100年くらい溜まってるのよ?」
「あっ、100年……だったら良心的かも」
いい店だ。
ここ。
「でしょ? 今色々ごたついてるし、そろそろ回収しておかないとね?」
「そうだぞ龍崎。受けたサービスの対価は払うべきだ」
「経費で落ちる前の世界ならいくらでも払うんだが、この世界の俺は一文無しだ」
「身体で払えばいいだろ」
ついでにここで働いて俺を接待するべきである。
色々と詳しい話を聞いておきたいからな。
忙しく働いておけば、こいつが戦争に参加する可能性は低くもなる。
「うーん……どっちも無理だ」
そう言いながら、龍崎の体が目の前から忽然と消えた。
そして店の入り口に出現する。
「俺のツケは、秋野冬至が全て払うように話がついてる!」
「はあ? わざわざお前が呼んだんだろ? 俺に払わせるなよ!」
「まあまあ、ちゃんと返すから、うん」
絶対返さない奴の口ぶりだった。
龍崎は、そのまま煙撒くつもりらしい。
「あたしは金を払ってもらえればそれでいいけど?」
「あいつには人選相談に乗ってやったって恩がある! だからその恩を今返すべき!」
「……意味がわからん」
「じゃ、俺は実際に会って話してみたかっただけだから、これで」
「チッ、清々しいまでにクズね。まあ、だからこそビシャスと馬があったのかしら……」
「俺は絶対にあいつの代わりに払わないからな? たとえ勇者でも、あんたの能力ならいくらでも金を出させられるんじゃないのか? 権限的にはダンジョンコアの方が上だろ」
むしろそうして欲しい。
男を誘惑することにかけては、これ以上にない力を持っているはずだ。
欲望のラスト。
「そうね。でも無理なのよ」
呆れた目を入り口に向けながら、ラストは続ける。
「あいつもダンジョンコアだから……」
「は?」
「何? 重要なことなのにあいつは教えてなかったってわけ?」
再び大きなため息をつきながら、ラストは言った。
「あいつはもと勇者であり、奈落墓標の現ダンジョンコア。虚飾のバニティよ」
=====
話が動くね。
53
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。