装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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本編

938 夢幻楼街・一触即発?

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 元勇者であり、奈落墓標の現ダンジョンコア。
 虚飾のバニティ。

 目の前にいる女、ラストは確かにそう言っていた。
 理解に少し時間を要する。

 ダンジョンコア……の成り立ちについては多少聞いた。
 勇者が来るよりももっと、もっともっと前の時代。
 その時に生まれた最初のダンジョンコアたちが、今の八大迷宮。

 時系列がおかしい。
 龍崎が勇者としてこの世界に呼ばれる前からいる存在。

 いや、聞き間違い?
 そんなわけあるか。

 俺とラストの距離は、すでにお互いの息がかかるほどに近い。
 こんな状況で聞き間違えることはない。

 たしか、現と言っていた。
 そこから推測するに、元が存在する。

 何か、すげ変わる方法というものがあるのだろうか?
 だとすれば、何のために……。

「……ん?」

 頭の中に言葉を並べ立てて考えていたわけだが、一つ不可解なものがあった。
 ラストとの距離である。

「すでにお互いの息がかかるほどに近い、わね」

 俺の思考を読み取ったように、ジッと目を見つめながらラストが言葉を続ける。

「顔には出てないけど、心を見れば焦りがよく分かる」

「……顔にも出るタイプだよ」

「あんた、冴えない見た目してるくせに、中々頭が回るタイプじゃないの」

「その前に離れろ」

「ギャップは嫌いじゃないわよ?」

 どうやら混乱した一瞬の隙を突かれてしまったようだ。
 警戒していたはずなのに。

 この状況をどうやって打開しようか、そう考えていると。

「呼び出しておいて、同席目的じゃないの~?」

「違う」

 断じて違う、何のためにここへ来たのか。
 色々と有耶無耶な状況になってはいるが、元は呼び出されたからだ。
 奈落墓標側へ、ウィンストが戦う方へ。
 俺は向かおうとして、この夢幻楼街へと強制的に誘われていた。

「むしろ、こっちが何で呼び出したのか聞きたいわけね」

「心が読めるのか」

「男心がわからずして、相手を夢心地になんかできるわけがないの」

 濁した言い方だが、恐らく俺の推測はあっているだろう。
 だったら話は早い。

 心が読めるのならば、俺がどういう腹積りでここに立っているか。
 分かるはずだ。

 数ある選択肢の中で、恐らくラストができることと言えば……誘惑。
 ダンジョンコアなわけだ、異常状態無効なんて貫通してくる。
 そうしてきた場合の対抗策は、人間の俺に取れる訳もないのだが、ジュニアがいる。
 対ダンジョンコア戦において、何かを強いられる状況を打開するための存在。

「読めてるか?」

 インベントリ内には、世界一つ分のリソース。
 いくら長年積み上げられてきた重みがあろうとも、全てを用いて掌握しても良い。

 これは脅しだ。
 無関係な人がいる分、思う存分キングさんたちを出して暴れることはできない。
 そう考えているかもしれないが、俺は勇者でも何でもない。
 自分と家族、そして周りの親しい人たちが生き残るためには他は切り捨てるぞ。

「……あつっくるしいわね」

「喧嘩は買う。もっとも、ビシャスに押し売りされた喧嘩だけどな」

「あっそ。でもあたしは買わない」

 ラストは、俺から視線を外すとさっきまでバニティが座っていた場所にどかっと腰を下ろした。
 ドレスのスリットから艶めかしいすらりとした足が伸びる。
 その足を組みながら、付きの女性たちに酒を持ってこさせて注ぎ始めた。
 視線を外され動けるようになったので、俺もラストに身体を向け直す。

「ならさっさと出せ」

「どうぞ出てって」

「……」

 あまりにもあっさりとした幕引きだ。
 これから何か攻撃を受けるのかと、身構えていたってのに。
 大方、戻る道がわからない俺をこの街でうろちょろさせたいってところだろうか。

「どうやって来たかわからないんだから、戻り方教えてもらえる?」

 高級な店は、送迎が基本だろう。

「えー、うちは来るものは拒まず、去るものも追わずよ」

「無理やり連れてこられたんですけど」

 詐欺だ。

「まあ、足止めを買ってたってのは事実ね」

 そう言いながら一度酒を口に含み、「でも」とラストは続ける。

「あなたに力を使わなかった。そこからこっちの事情も汲み取って欲しいわね」

「……」

 無理だろ、察してちゃんかよ。




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