装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera

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本編

939 夢幻楼街・ラストとの話し合い

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「あなたに力を使わなかった、から事情を察しろと?」

 難易度高過ぎると、思わないか?
 察してちゃんは嫌われるぞ。

 と、言っても目の前にいる女は色欲の名を冠するダンジョンコアである。
 決して、嫌われることはないのだ。

 同格以外の相手、欲望を持つ相手を夢中にさせ続ける。
 そんな能力を持つ。

「今この場で、いやここに入ってきた段階で」

 ラストはそう言いながら指を振った。
 すると、周りにいた客が全員立ち上がる。

「今日はママがいるぞ! ここは俺の奢りだ!」

「いや、俺の奢りだ! 大盤振る舞いだ!」

「おい、経費でどれくらい落ちる? 経費じゃなくて良いぞ!」

「上長、明日の取引で使用する2000万ケテルならあります!」

「全部使え! 俺の個人資産もだ!」

「僕も色々質屋に売っ払って持ってきます!」

「シャンパンタワーの準備を頼むぞおおおお!」

 男たちが目をキラキラとさせ、鼻息荒く叫び始めた。
 すごい勢いで貨幣が飛び交っていく。

 互いに無関心で、それぞれの席について女の子と喋っていた連中が。
 いきなりラストに注目を始め、あれよあれよと積み上がる金貨たち。

「こうなってもおかしくはないのよ?」

 と、テーブルの上で山となった金貨を見下ろしながらラストは微笑んでいた。
 豪華なテーブルも、座り心地の良いソファーも。

 その気になれば物じゃなくて良い。
 人でも良い。
 いや、ラストにとっては人は物。

 物と同然であるとでも言わんばかりの光景だった。

「あなたを本気で殺すつもりなら、こんなところに呼び込まないわよ」

「……」

「指を鳴らせば、ここにいる男どもはみーんな私の兵士なんだから」

 どれだけの人が出入りしているのかはわからない。
 しかし、国一つを使ったダンジョンといっても差し支えはない。
 さらに他国から来ている連中もいる。

「具体的な数は?」

「そうね、10万くらいはいけるんじゃない? 呼べば来るから」

「なるほど」

 しかもなんの罪もない人たちだ。
 洗脳して俺だけを殺すように仕向けられたらどうしようもない。
 八大迷宮のダンジョンコアは、やはり格が違う。

「相手が人間なら命令すれば思いのまま、私よりもっと賢い人もいるから、どうなっちゃうかは私にもわかんない」

 積み上がった金貨をスリットからすらりと伸びる足で蹴散らしながら、ラストは告げた。

「おわかりかしら? 理解したなら席に座ってお酒でも飲みましょう、どうせこいつらの奢りよ?」

「……無関係な人を10万も動かされたら無理だな、良いだろう」

 観念するしかないか、ここで無闇に挑発しても仕方がない。
 バニティ、いや龍崎を追いかけたかったが、先に彼女の話を聞くことにする。

「要件を聞かせていただけますか?」

「あら、いきなり他人行儀ね」

「あんまりそっちのペースに巻き込まれるのも嫌なもので」

 これこそ、トウジバリア。
 社会的弱者は、敬語を使うことによって人との距離を取るのだ。
 いきなり距離を詰めてくるタイプには、こうやって線を引いておく。
 常に疑心と警戒を忘れないための作法だ。

「どうやったところで、心の声は丸聞こえなんだけどね」

「だからですよ」

 俺が何を考えているのか、彼女にはわかる。
 だからこそ、体裁を取ることによって思考を切り離すのだ。

 現代日本人は強いぞ。
 それめちゃくちゃ面白い、って真顔でいえるんだからな!

「ふふ、やはりあなたは興味深いわね。ならさっさと本題に入ることにするわね」

 そう言いながら、ラストは手をパンパンと叩く。
 また何か仕掛けてきたのかと警戒していると、俺たちの席に5枚の絵が運ばれてきた。

「これを見て頂戴」

「……?」

 描かれているのは、小さなゴブリン。
 1枚目はおむつを履いた仏頂面の赤子の姿。
 2枚目は少し成長して幼児となった姿。
 3枚目は少年、4枚目は青年、5枚目は成人。

「え、本当に何これ」

 俺はいったい何を見せられているんだ。
 ゴブリンの成長する姿を見て興奮するような特殊な性癖なんて持ち合わせていない。
 ぽかーんとしていると、ラストが言う。

「ごめん間違えた」

「……おい」

「違うわよ、そっちじゃなくて別のやつよ!」

 少し顔を赤くさせながら、ラストは慌てて別の物と取り替えさせた。
 次に俺の前に出されたのは、写真が大量に貼り付けられた板である。

「はあ……?」

 ウィンストとエリナ、そして俺。
 合流した時から、今の今までを事細かに撮影された写真が大量だった。
 俺の写り具合が、なんかおまけみたいなのはどういうことだろう。
 メインはウィンストとエリナである。

 そんな写真集を俺に見せながら、ラストは言った。

「一つ聞きたいんだけど、この女は誰?」

 やや言葉が鋭く感じた。
 少しだけ怒気を含んでいる感じがした。

「何を怒っているのか、と考えているようだけど、その結果がわかるのは質問に答えてからよ?」

「えっと……」

 そもそもウィンストとエリナが写っていると思考をしているから、名前はわかっているはずだ。
 そこから察するに「この女は誰?」という質問は「どういう関係なの?」に等しいのだろうか。
 俺も女心に詳しいタイプじゃないからわからないけど、そういう意味なら特に関係はない。
 だから、エリナと素性を答えれば良いか。

「エリナ、冒険者ギルドで俺の担当受付をしてる子ですよ」

「嘘は言ってないようね?」

「嘘を言っても読まれますし?」

 こういう手合いには正直に言っておく方がいいのだ。
 下手に絡めてを使うよりも、パワーなのである。

 エリナは裏で色々急接近を狙っていたが、ウィンスト相手だ。
 あいつは心が読めるというより、洞察力が鋭い。
 1を聞いて、10を知るタイプ。
 最初からまっすぐぶつかっていくアプローチが良いと思うけどなあ。

 と、余計なことを考えていると。

「アプローチですって……?」

 何故か正面からとんでもなく強烈な寒気のようなものを感じた。

「……え?」

「もしかしなくても、やっぱりあの女はウィンストを狙っていたわけね?」

「え、いや、はい」

 正直に答えると、ラストは「キィィィィィイイイ!」と金切り声をあげていた。
 挑発しないように心がけていたのに、逆鱗に触れてしまったみたいである。
 まじかよぉ。






=====
落ち着いたので更新再開。
これで6/55更新。
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