婚約破棄とともに海沿いの辺境領へ追いやられました

tera

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4ーのほほん、とした辺境の地へつきましたの

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 それから馬車は進み、辺境領へとたどり着きました。
 長旅の中でいろんな場所へ寝泊まりしましたけど、これといって危険はありませんでした。

 むしろ途中で、魔物に襲われた行商馬車を助けたくらいです。
 その時お礼として、ティスター商会の優待券を頂きましたけども。

 果たして辺境領に商会があるのでしょうか?
 まあ、これも何かの縁として取っておきます。

 さて、

「風が気持ちいいですわね」

「ここが辺境の街ガリヤラです」

 小高い丘から眼下を一望すると、海沿いに沿って大きな街が見えました。
 辺境と言われる領地に入ってから、ここまで経由してきた街の中では大きい方ですが、実家のある公爵領の都市や、王国首都に比べるとかなり小さく思えますね。

 でも……とても綺麗な街です。
 小高い丘に流れる澄んだ風、そして太陽の光をキラキラと反射する海。
 水平線、地味に初めて見ました。
 遠くに船が浮かんでいます、海辺の街ですから漁の最中なのでしょうか。

「こんな場所があったなんて、知りませんでした」

「公爵領からも、王都からも随分と離れていますからね」

 ええ、とトレイザの言葉に頷いておく。

 ここに来るまでにかなりの時間を要しました。
 空を直線で結べば、立地的にはそこまでの距離ではないと思うのですが、やはり後方にそびえる山や森を大きく迂回した安全なルートを通ってとなると、来るのにすごく手間がかかりますわね。

 のどかな景色は素晴らしいですが、これと往復で2ヶ月を天秤にかけた場合。
 もっと近場に海に面していて、貿易でかなり栄えた領地リムがありますからね……。

「経路を考えると、陸路よりも海路を使った方が早そうにも思えますが……リムから船は出ていなかったんですか?」

 トレイザにそうたずねると、

「海は陸地と違って安全なルートがあまりありませんから、危険性を考慮する限り人が多く通る陸路の方がマシなのですよ」

 海を見つめながらそう言葉を返してきた。
 さらにトレイザは続ける。

「こんなに綺麗な海ですが、あまり沖合へ出ると何が海中に潜んでいるかわかりませんからね。リムの貿易船もその危険性を考慮して何隻も船を走らせるんですよ。でも、すべての船が安全に港に着くことは滅多にないです」

「そうなのですか……」

 魔物の住処が陸地と違ってわかりづらい、という点もあるのでしょう。
 それに浮かんでいる限り、海中から音もなく忍び寄って来る魔物に気づかず対応が遅れてしまいそうですし。

 陸だったらある程度危険な場所というものは地図の中に書かれていたり、その付近に住んでいる人が知り得ていますが、海は多くの恵みをもたらしますが、その全ては謎に包まれたまま。

 なんとも、偉い学者の話では陸より海の方が何倍も大きい、なんてことも聞きます。
 学園で学びました。

「では、辺境の領主代行に挨拶に向かいましょう!」

「町長様ですね?」

「そうです。でも、これからはお嬢様はその権利を持つことになります」

「確かにそうですけど、基本的には今の町長様のご意向に従うことにしましょう」

「なぜですか?」

「トレイザさんも、いきなり別の人がこれから私のお世話をします……だなんて言われてしまってはあまりいい気持ちは抱かないでしょう?」

「そうですね……ちょっと、嫉妬してしまいそうです」

 嫉妬って。
 トレイザさん、もしかしてそっち系のお方ですか?

 まあ、なんでもいいのですが、今までこの街を運営してきた側としては、ぽっと出の小娘が色々と横から口を出すのはいい気分ではないでしょう。
 なので、最初は基本的にこの街をよく知るところから始めませんとね。

「郷に入っては郷に従え。という偉いお言葉がございます。今の私たちはいわば余所者なのですから、分を弁えて最初はゆっくりと過ごしましょう」

 ただでさえ社交界では噂が勝手に尾ひれをつけて泳ぎ回るんです。
 学園内でもいろんな噂話を私は相談される立場でしたし、こういった狭いコミュニティだとそれが顕著になりますの。

 私も令嬢として色眼鏡をつけて見られるよりも、ただのカトレアとして見て頂きたいのです。
 お母様は、働かざるもの食うべからずをよく言って、クソ親父様の尻を叩いていましたし、私もぐうたらとした生活を続けるつもりもありませんが、少しくらい、心を休める暇があってもいいと思いますの。

「ならば早速行きますわよトレイザさん」

「はい。随分と楽しそうですね、お嬢様」

「それはもう。王都ではあまり食べられなかった魚介類がこの辺境では庶民の味として親しまれているのでしょう? でしたらまずはその自然の、海の美食を堪能するのが礼儀です」

「魚ですか……あまり慣れませんね」

「あら、トレイザさんはお嫌いですか?」

「塩気が強いと言いますか、味が濃くて匂いがきついといいますか……」

 まあ、王都で流通しているのは干物もしくは塩漬けしたものですからね。
 あまり美味しくはない、という印象は私も抱いています。
 ですが、リムで食べる白身魚のムニエルはかなり美味しいそうです。

「一度買い付けの見学に行ったことがあるのですが、北方から輸入された魚の匂いで気絶しそうになったこともあります」

「……気絶ですか」

 辟易とした表情を作るトレイザですが、好奇心メーターが上昇していきました。
 気になります、気になりますよ。

 ゲテモノだとしても、食べて見なければわからないものなのです。

 そう、あの変態王子のように。
 蓋を開けて中身を確かめるまでは、何事もわからないのですよ。

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