廃人ゲーマーとラスボス後の世界

tera

文字の大きさ
25 / 48
第一章 - 旧友との再会

16 - 激動の三日目

しおりを挟む
■聖王国領/アルヴェイ村/農士:ユウ=フォーワード

「外に出るぞ!」

「は、はい!」

 地震の対策はよくわからないが、とりあえずマリアナの手を引いて外に出る。
 もし建物が倒壊すれば、生き埋めになりかねないからだ。

「……な、なんだあれ……」

「剣……ですね……両手剣? なんにせよあの規模だとすれば神の剣にも思えます……アロンダイト? アシュケロン?」

「まーたマニアックな剣の名前を……いや、冷静に武器の種類を場合か!?」

 帝国領の方角に目を向けると、どでかい両手剣が空に浮かんでいた。
 剣の種類はわからないが、とにかくトンデモナイ代物だってことはわかる。

「豪快で愉快なオブジェですね……私の記憶ではこの近辺の空にあんなものはなかったはずですが……」

「愉快ではないが、あんなものがなかったのは俺も同感だ」

 昨日も、一昨日も、北の空にはそんなでかい剣なんて存在していなかった。
 地震で慌てて外に出て来た村人も、北の空に浮かぶ巨大な剣を見て言葉を失っている。

 そして巨大な剣は、そのまま地面に向かって落下する。

 ──ドゴオォゥンッ!

「きゃー!!!」

「な、なんなんだ!!」

 振り下ろされた衝撃で大地が揺れて、村の人たちが騒いでいた。
 その剣が落とされた爆心地からは、辺境の村はかなり離れていると言うのに、強烈な風が吹く。

「地震の正体はあれか……」

「とんでもないですね……」

「本当だな……オルフェか……?」

 一瞬だけ、異様な杖を片手に携えた、赤髪の女性を想像した。
 だが、こんなことはまかり通るのだろうかと思う。
 アビリティの力なのか、それとも相当強い職業についているのか知らない。
 だけど、北と聞いて思い浮かぶのは彼女たった一人だけである。

「確かにオルフェ様は北に向かって行きましたけど、それは二日前のことですよ?」

「なんにせよ、ヤバイ状況は変わらない。予定を繰り上げて今から立つべきかな?」

「……マスターの優先順位に従います」

 旅立ちの準備はすでに整っている。
 予定ではできるだけ距離を稼ぐために、早朝から出る予定だったのだ。
 何しろ旅立って二日目にはセーブポイントがない状況。
 安全マージンを多めにとる手法としては、初日の日中にどこまで街まで近づけるかが鬼門になってくる。
 聞いた話だと一日ほど歩いた中継地点に、誰でも使えるキャンプポイントがあるらしいし、日が暮れるまでにそこにたどり着きたいと思うのは普通だろう。

「早めに出た方がいいかな」

 だが目の前の状況が状況だけに、すぐにでもこの村を出た方がいいと思った。

「わかりました、すぐに宿に戻って準備しましょう」

「うん、そうしよ──」

 慌てる村人達には悪いが、ここでおさらばさせてもらおうとした。
 その時である。

「た、たいへんだーーー!!! こ、この地震で、き、北の森にいるモンスターが大量に南下してきてる!!」

「そ、それは本当か!?」

「ああ、さっき一番足が速い狩人のリーフが息も絶え絶えに知らせてくれた!!」

「ええ!? それじゃ今、北周辺に狩りに出てるみんながいるってこと!? 大丈夫なの!?」

「そんなことより自分らの命が優先だろ! とりあえず避難しろ!」

「う、うあああ! この村はもうおしまいだ!!」

 ……まじかよ。
 なんというか恐れていたことが、突発的に差し迫った感がある。
 ちょうど今朝、聞いた話なのに、フラグ回収早すぎるだろ。

(やっぱりハードモードは続いているのか……?)

 俺が唖然としている間に、

「マスター、荷物は私がアイテムボックスにすべて収納してきました」

 マリアナは宿に戻って逃げる準備を整えてきていたようだ。

「お、おお……」

 さすがですマリアナさん、俺にそんなアドリブできません。

「村の人たちに混ざって避難しましょう!」

「そうだな!」

 普通、こういったモンスタースタンピードイベントはそれなりに危険が伴うが生き残れればかなりの経験値を獲得できる。
 見返りはかなりいいイベントで、前のタイトルでは暴動が起きた場合はこぞって狩りに赴くプレイヤーが大勢いた。

 もう少し強ければ、なんとか対応してレベル上げの足しにしたいとも思う。
 だが、結局は未だレベルが低いことが原因で、俺たちはただ逃げることしか選択できない。

「さあ、走りましょう!」

「うん」

 今度は俺がマリアナに手を引かれる形で駆け出す。
 村の南へ。
 農地がある方へと。



 そして村人達の避難の流れに合わせてあぜ道を走っていると、道の向こうから、今度は馬に乗った集団が近づいてきているのが遠くに見えた。
 村人の誰かが言う。

「冒険者ギルドのハンターが助けに来てくれたのか!?」

「よかったあ……」

「助かる、助かるよ!」

 どんどん近づいてくる集団を見ながら、周りは安心したように息をついている。
 走っているのが体に堪えたのか、座り込む人も。

 そんな中、ふと一つ思った。
 あれは……本当に冒険者なのか?

 農家のおっさんは、依頼しても大きなタイムラグがあると言っていた。
 ならば、誰かが依頼したのかって話になるのだが、依頼するほど村にひどい被害はないみたいだし、それにここ三日間はモンスターの出現があまり見られなかったって話だ。

「……マリアナ」

「はい、なんでしょうか?」

「あの集団にフォーカスして見てくれ」

「いったいどうされたんですか?」

「すまん、あれが本当に冒険者かどうか気になってね」

「なるほど、わかりました」

 俺の言うことを聞いて、マリアナはすぐにフォーカスを使ってくれる。
 狩人の職業効果で目は良くなっている上に、ぐっと遠くのものを見るためのスキルだ。
 かなり遠い距離だが問題なく見えるだろう。

「……マスター、そもそも冒険者か、そうでないかの違いがわからないんですが」

「うん」

「モヒカンに肩パッドは、明らかにならず者って感じですよね?」

「……………うん?」

 ごめん、話が全くわからん。
 フォーカスで見たままを伝えているのだと思うんだけど、モヒカンに肩パッド?
 どこの世紀末だそれ。

「──ッ!?」

 急にマリアナの表情が変わる。

「どうした!?」

「明らかに違います。彼ら、生首を手に持っていました……盗賊か何かでしょうか?」

「盗賊……」

 なんか聞いたことあるぞ。
 この村に最初に来た時に、なんだかそんな世間話を商店でやってたような……やってなかったような。
 いや、おばさんが話していた、確実に話していた!

「みんな、あれは冒険者じゃない!! 盗賊だよ!! 盗賊!!」

 そう叫んだその時、馬に乗った集団の一人が俺たちに何かを投げた。
 ちょうどそれは俺の目の前に飛んできて、ゴロゴロと転がってくる。

「──それはっ!?」

「お、おっさん!!!!」










「なんだか勘のいいやつがいたっぽいから首投げたけどよぉ? あれでよかったのかぁ?」

「いいんだよ、リーダーは言ってただろ、先にビビらせたもん勝ちだってよ!」

「ヒャハハハ!! でもまあ殺しはほどほどにしておけよぉー!! 今回の目的は別だからなぁー!」
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

処理中です...