廃人ゲーマーとラスボス後の世界

tera

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第二章 - 廃人と聖職者

4 - とある朝のこと

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■聖王首都ビクトリア/ユウの自室/助祭:ユウ=フォーワード

 歓迎会からの宴会は、なかなかはっちゃけた。
 飲んで騒いで、ってやったのは久しぶり。
 これはあくまでゲーム内では久しぶりだという意味で、リアルではない。
 一切ない。

 大学入ったばかりの頃、サークルの新歓にはいってみた。
 けど、いろいろあって途中で帰ってそのままゲームにのめり込んだ。

 思い出したくもない黒歴史。
 まあ、今では関係ないか……。

「……で、マリアナさん。もう部屋は別々だったはずですけど?」

 俺を抱き枕にするマリアナが隣にいた。
 酔いつぶれてあまり記憶はないが、部屋が別なのは知っているぞ。

「介抱しながら私も酔いが回ってしまって」

 目をこすりながらマリアナはあっけらかんとした態度で言い放つ。

「いつの間にかこうなってました。不思議ですね」

「嘘だろ」

 確証はないが、嘘だということは理解できる。
 直感だ。俺は直感を信じるぞ。

「安心してください。何もしてませんから」

「そ、そうなんだ……」

 マリアナにしては偉いというか。
 俺はまだ童貞なんだなって思うと少し悲しくなる。

「待ち続けていますから。マスターのタイミングで、いつでもどうぞ」

「…………とりあえずトイレ!」

 なんだかわからないけど、俺はトイレを理由に自室を後にした。
 そして一階にあるトイレへと向かう。

 自室にも一応トイレはついている。

 このアパートは日本でいうところの「なんちゃら荘」みたいな、いや一回に大きな風呂とかトイレ、食堂、エントランスとか談話室的なものがついた寮っぽい感じなのだが、それも部屋に風呂とトイレとキッチンなどが付いていて、プライベートは保てるようになっている。

 だから、わざわざ三階の自室から一階のトイレまで行く必要ないのだが……。
 それでも自分でもわからないが、部屋を出て一階のトイレまでわざわざ向かっていた。

 逃げているのだろうか。
 階段を降りてそんなことを思う。

 マリアナが俺を好きでいてくれることはわかる。
 わかるのだが……俺はどうしたらいいんだろう。
 俺も情が移っているし、マリアナのことは大切だ。

 だけど、しばらく前まではそんなこともない。
 ただの大切なアンドロイドだったわけだ。

 その時とは違うってことはわかるのだが、こういう部分はどうやって受け入れたらいいのだろう。
 いっておくが、俺は恋愛という恋愛はしたことがない。
 いやむしろ、高校の時に色々トラウマを抱えているといっても過言ではない。

 なんとなくそういう話題からはウィンストンに作られたとか、それを払拭しないとちらつくとか。
 そういうことを言って凌いでいたけど……昨日払拭してしまったんだよなあ。

「……どうしよう」

 本当にどうするべきかわからなかった。
 用を足し終えて、大きな洗面台の前で顔を洗っていると、後ろから声がかかる。

「師匠。お、おはよう……ございます……」

 鏡ごしにツクモと目があった。
 栗色の髪の毛に寝癖がついている。
 パジャマは、俺がきているもうずっときっぱなしの麻の服みたいなゴワゴワしたものではなく、かなり触り心地良さそうな絹っぽい生地のものだった。

「なんだそのドギマギした敬語」

「いやその……一応ゲームじゃなくてリアルっていうか……昨日のこともあるし……」

 自分で思い出して顔を赤くしてボンッとなっていた。
 なんだこいつ……。
 ちなみにツクモの場合、敬語を使ってたり使わなかったりだな。
 師弟的な関係性が強い場所では敬語を使っていたような記憶がある。
 でも基本的にはフランクな方だったような……。
 半年前のことだから記憶が曖昧だ。

「敬語なんて使わなくていいよ」

 そう言いながら服で顔を拭っていると、ツクモが自分の持っているタオルを差し出してくれた。
 いいのだろうか、まあ使おう。
 今身につけている服も、水でちまちま洗ったりしてるにせよ、だいぶ汚れてるしな……。

 この世界では装備よりこういった身の回りの服が重要なのだろう。
 村で安いのを買ったとしても、自分の血がついてるのばっかりだ。

「タオルありがとう。洗って返した方がいいか?」

「それは別にいいけど……」

 タオルを受け取ったツクモはなんだかドギマギしているようだった。
 距離感が掴めないんだろうか。
 まあ、そうだよな。
 廃人メンツに混ざるくらい、リアルでも悲惨だったのだろうし。
 ゲームとリアルは反比例するんだ。

「そうだ」

 ふと、気になることを聞いてみることにした。

「なあツクモ」

「な、なに?」

「付き合うって、どういうことなんだろうな?」

 そういうところを、女性目線の意見を聞いてみるのもいいのかもしれないと思った。
 俺もそろそろ、なんというかやっぱり真剣に考えないといけないというか、でも実際経験なんてないからさっぱりわからないんだよなあ……なんて。

「どうしてまたそんな質問を?」

「なんとなくだよ。俺恥ずかしい話だけど、この歳で彼女とかできたことないし? ちなみにツクモは彼氏とかいたことある?」

「え? か、彼氏? えっと……まあ……昔、そんな感じの雰囲気だった人はいたようなごにょごにょ……」

 まじか。
 確か、ツクモは高校卒業したばっかりだとかなんとか昔聞いていたんだが……やっぱりその歳だといるもんなんだな。

「まあ、ツクモって見た目はかなり可愛い方だからなあ……キャラメイクもリアルから変えてないんだろう? だったらやっぱり男が放っておかないってやつだよな?」

「か、可愛い!?」

「え……反応するところそこ……?」

 てっきりその辺って自分でも気付いてる女の人が多いと思っていた。
 まあ、深くは知らないけど。
 だいたいそうじゃないかなって。

「ちなみに師匠は作り込んだ感じ?」

「いや……」

 一度鏡を見て、自分の顔を触ってみる。
 面倒だから特に変えてないんだよな。
 変えてるとしたら、痩けた頬とか、骨ばった皮だけの体とか。
 その辺を普通の人って感じにしてるくらいだった。

 そう思うと、鏡に映る健康的な黒髪の自分がイケメンに見えなくもない。
 客観的に、うだつが上がらない顔とか思われてそうだけど。
 目つきとか、リアルと変わってないし。

「特には変えてないけど、リアルの俺はもっとやせ細ってて筋張ってるというか……いかにも不健康そうな感じだぞ」

「そうなんだ……でも私も髪の色変えたくらいで、顔はあんまり弄ってないけど……胸とか盛ってるっていうか……」

「は? なに? 胸?」

「な、なんでもない!! トイレ!!」

 そういうと、ツクモはだだーっとトイレに向かっていった。

「な……なんだったんだ……」

 我慢してたところをついつい話し込んじゃったんだろうか。
 それは悪いことしたなあ。
 ぼーっとしていると「ちょ、ちょっと音聞かないで!」と叫ばれたのでトイレから敢え無く退散することとなった。



 とりあえず、深く考えるのはやめようと思う。
 いつか結論を出さないといけない時は来る気がするが、今はほら、レベルを上げないとね。
 現状ようやく拠点を築けたってところで、本格的なスタートはここからなんだ。

 今のままだとあいつらにおんぶに抱っこ状態。
 とても甲斐性がある男ではないもんなあ?
 マリアナのことも責任|(?)とかとらないといけないだろうし。
 せめて彼女の理想の男というか、あんなに美人を横に連れていても、恥ずかしくない男になりたいと思った。



 そうなったら……。
 納得できる状態になったら……。



 ……改めて何かしらの話をしなければいけないんだろうか?
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