19 / 27
番外編
少将の職場に行くことになりました
しおりを挟む
アララギ少将が書類を忘れてしまった。
昨夜、夕飯が終わってからずっと書き物をしていたけれど、あれはこの書類だったはず。書き終わってクルクルと巻いて、きれいな紐で結んでテーブルに置いたのを僕は見ていた。
少将がお屋敷に帰ったあとも仕事をするのは珍しくて、少将は大変なんだなぁと思っていた。それなのに、頑張って終わらせた書類を忘れて仕事に出掛けてしまった。
(すごく大事な書類だったら……)
少将はきっと困っているはず。出掛けてまだそんなに時間が経っていないから、いまから届ければ間に合うかもしれない。でも、届けていいのかためらってしまう。だって、少将が職場で僕のことを「妻だ」と話していることを知っているからだ。
「うーん、どうしよう」
書類をテーブルに置いたままウンウン唸っていたら、年配の執事さんに「お届けに行かれますか?」と聞かれた。執事さんは少将が中佐になる前から側にいる人だと聞いた。とても頼りになる素敵なおじいちゃんで、何も知らない僕のことをいつも気遣ってくれる。
いまも、きっと僕が届けに行くべきか迷っているから声をかけてくれたんだ。だけど、僕が少将の職場に届けに行くのはどうなんだろう……。
「でも、僕が届けに行くのは、さすがに……」
きっと少将に迷惑をかけてしまう。職場に行ったら僕が誰なのか言わないといけないだろうし、そうしたらみんなに知られることになる。僕みたいな元男娼を「妻だ」と話している少将に、きっと恥をかかせてしまう。
「大丈夫でございますよ。ツバキさんは奥様なんですから」
「……でも、」
「馬車の準備を致しましょう。さぁ、ツバキさんはお着替えをなさってくださいませ」
そう言って執事さんが馬車の用意をして、外出用の服まで用意してくれた。こうなったら、もう僕が届けに行くしかない。
「それでは、行ってきます」
一人で貴族用の馬車に乗るのは初めてだ。僕はドキドキしながら馬車に乗り、緊張しながら王城門をくぐって王宮の隣にある軍人さん用の建物に向かった。執事さんが言うには、今日の少将はその建物に一日いるはずということだった。
「……どうしよう、緊張してきた」
馬車から降りて、もう一度自分の格好を見る。王子様に会ったときよりも派手じゃないけれど、貴族が着るような上等な服はやっぱり違和感があった。
「僕が着ると、やっぱり変な気がする……」
男娼のときから身につけるものに無頓着だったからか、きちんとした格好のほうが恥ずかしい。だから、普段お屋敷ではもっと質素な服を着ている。
「でも、ここは少将の職場なんだし、いつもの格好はダメだしね」
わかってはいるものの、よけいに目立つんじゃないかとドキドキした。僕は少将にもらった首飾りを指で撫でながら、そうっと深呼吸をした。すぅはぁしてから、「よし」と気合いを入れて建物の入口へと向かう。
立派な建物の入口をドキドキしながら通り過ぎると、大きな広間みたいな場所があった。そこには何人もの軍人さんがいて、真っ黒な軍服姿が目に入るだけで緊張してしまう。
「……やっぱり、軍人さんはみんな大きいなぁ」
軍人さんが少し苦手な僕は、大きい軍人さんの姿を見ただけで気後れしてしまい、誰にも声をかけられずにオロオロしてしまった。
誰かに少将がいる場所を聞かなければいけないのに、いざ話しかけようとすると緊張して声が出ない。「あの、」というひと言すら出てこなくて、ますます挙動不審になっていく。
「もしかして、アララギ少将の……」
突然少将の名前が聞こえてきて、パッと振り返った。そこには、僕と同じくらいの背丈の軍人さんが立っていた。ほかの軍人さんより優しそうな雰囲気だからか、カチコチになっていた体から少しだけ力が抜ける。
「あの……」
「あぁ、その首飾りは、やはりアララギ少将の奥様でしたか。少将にご面会ですか?」
「ええと、はい」
「少将閣下は、この時間はたしか……。少しお待ちいただけますか?」
「あの、はい、大丈夫です」
そう答えたら、優しそうな軍人さんがニコッと笑って奥に消えていった。これで少将に会えると思ってホッとしたけれど、一つ疑問が残る。
(僕、少将のことひと言も言ってなかった……よね?)
なのに、どうして僕が少将に会いに来たのだとわかったのだろう。
(気がついていなかったけど、僕が少将の名前を口にしてた、とか……?)
思わず眉が寄ってしまった。もしそんなことをしていたのだとしたら、僕は変なヤツだと思われたかもしれない。
(もしそうだったとしたら……少将に迷惑をかけてしまうんじゃ……)
そう思ったら悲しくなってきた。少将の役に立つことはできないけれど、せめて迷惑をかけないようにと思ってきた。それなのに、職場で恥をかかせてしまったかもしれない。そう考えるだけで涙が出そうになる。
「…………いけない。泣くなんてもっとみっともない」
涙が滲みそうになっている目を手でゴシゴシこする。男娼になってから行為以外で泣くことなんてなかったのに、少将と出会ってから子どもの頃に戻ったみたいによく泣いている。二十五になろうという大人が情けないと思いながら、もう一度ゴシゴシこすって……しまった。
目元を擦っていたのと反対の手を見たら、持っていた書類にシワが寄っていた。少し強く握ってしまったせいだ。
僕は慌ててシワを伸ばそうとした。すると、今度は書類を結んでいたきれいな紐がずれてしまった。元の位置に戻そうと動かすと、今度は結び目がクシャッと乱れてしまう。
「……どうしよう、ますます歪んでしまう……」
ますますおかしな形になってしまう書類に悪戦苦闘していた僕の耳に、「どうしたの?」という知らない声が聞こえてきた。
「えぇと……」
顔を上げたら、何人かの軍人さんに取り囲まれていた。「いつの間に!?」と驚いている僕をよそに、軍人さんたちがニコッと笑いながら次々に話しかけてくる。
「大丈夫?」
「あの、」
「何か困ってる?」
「ええと、」
「軍の誰かに用事? 案内してあげようか?」
「いえ、あの、」
「連れて行ってあげるから」
「いえ、それは……」
「遠慮しないで」
(どどどどうしよう……!)
次々に話しかけられるからか、うまく返事ができない。肩や背中、それに腰に大きな手が触れていて、「誰に会いに来たの?」とまた聞かれる。何人もの軍人さんに一度に会うことなんてなかった僕は、どうしていいのかわからずオロオロしてしまった。
(少将、はやく……はやく来てください……!)
心の中で必死にそう念じていたら、「ツバキ」と僕を呼ぶ大好きな少将の声が聞こえてきた。
「しょ、少将ぅ……」
振り返ると、今朝お見送りしたときと同じ格好をした少将が、こっちに向かって歩いて来る。そうして僕の目の前に立ち、「待たせたか」と肩を撫でてくれた。それだけでホッとして、今度はうれし涙が出そうになる。
「だ、大丈夫です。あの、僕、これを届けようと思って」
そう言って少しシワが寄ってしまった書類を少将に差し出した。それを見た少将が、一瞬だけフッと優しい顔になる。
(よかった……僕が届けても、迷惑じゃなかったんだ)
胸をなで下ろしていると、僕を取り囲んでいた軍人さんたちがザワッとした。
「あの、もしかして少将殿の奥方、でありますか?」
「そうだが」
「この人が噂の……」
「どうりで……」
「あ、例の首輪……じゃなかった、首飾りが……」
……なんだろう。今度は少しザワザワしている軍人さんたちが気になる。もしかして、知らない間に何かヘマをしてしまったんだろうかと不安になってきた。
「妻がどうかしたか?」
「いえ! 大変可愛らしい方だと思った次第であります!」
「お困りの様子でしたので、声をかけさせていただきました!」
「迷惑をかけたな」
「いいえ! 恐縮であります!」
そう言ってビシッと敬礼した軍人さんたちは、「失礼します!」と言ってサァッと消えていった。
(……しまった、ちゃんと挨拶してない)
オロオロするばかりで、挨拶すらまともにできなかった。せめて挨拶くらいはできるようにとお屋敷で密かに練習をしていたのに、本当に僕はなんて情けないんだろう。大いに反省しながら少将を見上げると、太い眉を寄せて難しそうな顔をしていた。
(……やっぱり、僕が届けに来たのがよくなかったんだ)
少将がこんな顔をするときは、怒っているか何か不愉快に感じているときだ。ほんの少しの表情の変化だけれど、僕にはわかる。
(やっぱり、執事さんにお願いしておけばよかった)
そうすれば少将にこんな顔をさせることはなかったし、迷惑をかけることもなかった。そう思ったらますます情けなくなって、前を向いていられなくなる。
「ツバキ」
少将の優しい声にも顔を上げることができない。
「勘違いをしないでほしい。俺はツバキが来たから怒っているわけじゃない」
「……少将、」
「だから、泣かないでほしい」
「な、泣いてなんか、いません」
嘘だ。ほんの少しだけ涙が滲みそうになった。あまりに自分が情けなさすぎて、そんな自分が悔しくて涙が出そうになる。
でも、少将が言うとおり泣くわけにはいかない。少将の隣で泣くなんて、それこそ迷惑をかけてしまう。僕はゴシゴシと目元を擦り、グッと顔を上げた。
「あぁ、違うんだ。怒っているんじゃない。ツバキの泣き顔を見られたくないだけで、二人のときは泣いてくれても構わないんだが」
「少将……?」
「ツバキが泣けば、またよけいな奴らに注目されてしまう。中には邪な気持ちを抱く輩が出てきてもおかしくはない。現にいまもそうだった。俺はそれが許せない」
「へ……?」
よくわからないけれど、見上げた少将の顔は眉が少しヘニョリとしている。これは困っているときの顔だ。
「ツバキは相手の庇護欲を誘う。だからあいつらも集まってきたんだろう」
「僕、そんなに子どもっぽく見えますか……?」
「そうじゃない。そうではないが、……とくに男を知っている軍人は、惹かれやすいんだろう。まさかと思っていたが、本当だったとはな」
「えぇと……?」
「殿下もおっしゃっていただろう? ツバキは可愛らしいと」
よくわからない。僕が可愛らしいなんておかしな話だ。
僕は可愛らしくもなく美人でもない、ただヒョロッとしただけの男だ。それは男娼だったときからちゃんと自覚している。そんな僕のことを可愛いなんて言ってくれるのは少将だけだ。ヤナギさんも言ってくれていたけれど、それは弟みたいなものだからだろうし、王子様のは……何だったのかいまでもよくわからない。
とにかく、僕は可愛くなんてない。可愛くはないけれど、少将に「可愛い」と言ってもらうのは嬉しい。少将だけに言ってもらえるのが特別っぽくて、言われるだけで体が熱くなってくる。それに少将だって可愛い。可愛い少将を知っているのは僕だけみたいだし、それも嬉しくて顔がモニョッとしてしまいそうだ。
(……ふへへ、僕だけが知ってる少将……)
ダメだ、どんどん顔がにやけてしまう。
「……ツバキ、一緒に帰ろう」
「へ……? え、少将、お仕事は?」
「せっかく持ってきてくれたからな、書類は渡してくる。ここで待って、……いや、それはまずい。しかし、連れて入るというのも、……いや、側にいたほうが安全か」
少将が何かブツブツと言っている。どうしたんだろう。それよりも、書類を誰かに渡しただけで帰るなんて、本当に大丈夫なんだろうか。
「やはり、一緒に行こう」
腰に回された大きな手に促されてビックリした。慌てて踏みとどまろうとしたけれど、少将の力に僕が勝てるはずがない。それでもダメだと思った僕は、必死にそのことを訴えた。
「少将、ダメですって! 僕、部外者ですから、中に入るのは……って、少将!? 手、手を繋ぐのもダメですってば……!」
僕の右手をガッシリとつかんだ少将は、僕の声なんかまったく聞こえないという感じでズンズンと建物の中に入ってしまった。慌てて見上げた少将の顔は、なんだか厳しい表情のように見える。でも怒っているわけではないようだし、一体どうしたんだろう。
そのまま僕はズンズンと奥に連れて行かれた。途中ですれ違った軍人さんたちが、ギョッとしたような顔をしたり飛び退いたりしたのを何度も見た。きっと部外者の僕を連れているせいだ。
(迷惑じゃないのかな……)
そう思うと不安になってくる。そんな僕の右手をしっかり握っていた少将が、大きな扉の前で立ち止まった。そうして僕の手を離し、「ここで少し待っていてくれ」と言って頭を撫でると扉の向こう側に消えてしまった。
「…………しょ、少将ぅ……」
少将が隣にいないというだけで、急に不安が増してきた。本来いてはいけないだろう場所に一人でいるのが怖くなる。
でも、「待っていてくれ」と言われたのだから勝手に動くわけにはいかない。僕は「しっかり待っていなければ」と思って、グッと唇を噛み締めた。
(……でも、僕がいるのを軍人さんたちが不審に思ったら……)
誰かに声をかけられたらどうしよう。一人だけなら何とか答えられるだろうけれど、さっきみたいに何人もの軍人さんたちに囲まれたらうまく答えられる自信がない。
(いやいや、僕だってやれば……できる、だろうか)
キュッと引き締めていた唇から力が抜けた。やっぱり書類を届けなければよかったんだろうかと思うと、それが正しかったような気がしてくる。
(少将にも、きっと迷惑をかけた)
それが一番つらかった。ただでさえ元男娼を妻だと言っていることをどう思われているのかわからないのに、その僕が来てしまったのだから迷惑だったに違いない。
(どうしよう……)
不安になってきたせいで、また涙が滲みそうになる。こんな自分は情けなさすぎて嫌だった。
「……もっと、しっかりしないと」
こんなことじゃ、いつまで経っても少将に迷惑をかけてしまう。元男娼だけれど、いや、だからこそもっとしっかりしなければ。そう思い直した僕は、両方の頬を自分の手のひらでペチペチと叩いて気合いを入れた。
(まずは、もっと本を読んで貴族のことを勉強しよう)
そうだ、服だって男娼のときのままでいいはずがない。執事さんにお願いして、少将の側にいてもおかしくない格好を教えてもらうことにしよう。
そう決意した僕は、両手をギュッと握りしめてキリッと前を見た。少し遅いかもしれないけれど、ほかの軍人さんに見られても変じゃないように気をつけなければ。そう思ってじっと扉を見つめる。すると、立派な扉が開いて少将が出てきた。
「少将!」
ホッとしたからか、思わず大きな体にポフッと飛び込んでしまった。
(ししししまった……!)
たったいま、少将に恥をかかせないようにしようと決意したばかりなのに、もうこんなことをしてしまった。少将の職場でこんなことをするなんて、みっともないと思われるに違いない。
慌てて体を離そうとしたけれど、なぜか少将の手が背中に回ってよけいに抱きしめられてしまった。
「あ、あの、少将……?」
いくらなんでも、職場でこういうのはダメなんじゃないだろうか。誰かに見られる前に離れなければと思っているのに、少将の力強い腕は僕を離してくれない。
「お前たち、さっさと持ち場に戻れ」
「ハ、ハイッ!」
頭上から少将の少し厳しい声がしてビックリした。慌てて顔を向けると、何人かの軍人さんが走って行く背中が見える。
(ももも、もしかして、見られてた……!?)
どうしよう、どうしよう……! 僕の頭の中はその言葉でいっぱいになった。職場でこんなことをしていたなんて、絶対に少将の迷惑になってしまう。
(僕のせいで……どうしよう……!)
慌てふためく僕の背中を、少将の大きな手が落ち着かせるように撫でてくれた。それでもオロオロしている僕に、「大丈夫だ」という声が聞こえてくる。
「恥じることはない」
「で、でも……」
「俺はツバキが書類を届けてくれたことを嬉しく思っている」
「……それなら、よかったですけど」
少将が嬉しいと思ってくれたのなら、僕も嬉しい。でも、それ以外ではいろいろ迷惑をかけてしまったに違いない。そう思うとやっぱり情けなくてしょんぼりしてしまった。
「あいつらはツバキを見たくて集まっていたんだ。まったく、覗き見までするとはな」
「……きっと、僕が変なことをしてたからです」
「そうじゃない。可愛いツバキを見たくて集まったんだ」
「…………可愛くなんて、ないですよぅ……」
僕を可愛いと言ってくれるのは少将だけだ。
「……まぁ、自覚してくれないほうが俺にとっては安心だがな」
「少将……?」
小さな声だったから何と言ったのか聞こえなかった。やっぱり少将も迷惑だったんじゃないだろうかと思ってそうっと見上げると、優しい碧眼が僕を見下ろしていた。
「さて、帰ろうか」
「……あの、本当に帰って大丈夫なんですか?」
「書類は渡せたからな。ツバキが届けてくれたおかげだ。ありがとう」
「……よかったです」
少しでも役に立てたなら嬉しい。
「さて、帰ったら仕事よりも大事なことをしなくては」
「大事なこと?」
「ツバキがいかに可愛いかを教えることだ。あぁ、それから俺の妻だということもな」
「…………へ?」
よくわからなかった僕は、きっと間抜けな顔をしていたと思う。そのまま来たときの馬車に少将と一緒に乗ってお屋敷に帰った僕は、一日ずっと「ツバキは俺の妻」だと聞かされ続けた。それは当然夜になっても続いていて、ベッドの中でも散々言われ続けることになった。
「ほら、ツバキ?」
「しょ、しょぅ……っ」
「ツバキは、俺の何だ?」
「……ッ。ぼ、僕……は……っ」
「ほら」
「んっ! 僕、は……少将、の……奥さん、です……っ」
そう口にした瞬間、少将の腰が突き上げられる。そうすると逞しすぎる逸物がズン! と奥深くに突き刺さった。もう二回出したはずの少将のそれは十分な硬さを保っていて、挿入ったらダメなところのすぐ近くを何度も突き上げてくる。まるで僕が「奥さん」だと答えたご褒美だと言わんばかりに、感じすぎるところを何度も何度も突き上げてきた。
「ひンッ! しょ、しょぅ……っ、そ、こぉ……っ!」
「ツバキは、俺の妻だ。おまえだけが、妻だ。忘れる、な……ッ」
「ひゃぅっ! お、くぅ……ッ! も、と……っ、そこ、もっと、ぉ……!」
前立腺と同じくらい感じるようになった深いところは、少将しか届かない場所だ。そこを何度も突き上げられるのが嬉しくて、僕は少将の上でみっともないくらい腰を振り続けた。そうして何度も何度も「僕は少将の奥さんです」と答えた。
次の日、僕は久しぶりに腰が抜けて昼食までベッドで寝ることになってしまった。
昨夜、夕飯が終わってからずっと書き物をしていたけれど、あれはこの書類だったはず。書き終わってクルクルと巻いて、きれいな紐で結んでテーブルに置いたのを僕は見ていた。
少将がお屋敷に帰ったあとも仕事をするのは珍しくて、少将は大変なんだなぁと思っていた。それなのに、頑張って終わらせた書類を忘れて仕事に出掛けてしまった。
(すごく大事な書類だったら……)
少将はきっと困っているはず。出掛けてまだそんなに時間が経っていないから、いまから届ければ間に合うかもしれない。でも、届けていいのかためらってしまう。だって、少将が職場で僕のことを「妻だ」と話していることを知っているからだ。
「うーん、どうしよう」
書類をテーブルに置いたままウンウン唸っていたら、年配の執事さんに「お届けに行かれますか?」と聞かれた。執事さんは少将が中佐になる前から側にいる人だと聞いた。とても頼りになる素敵なおじいちゃんで、何も知らない僕のことをいつも気遣ってくれる。
いまも、きっと僕が届けに行くべきか迷っているから声をかけてくれたんだ。だけど、僕が少将の職場に届けに行くのはどうなんだろう……。
「でも、僕が届けに行くのは、さすがに……」
きっと少将に迷惑をかけてしまう。職場に行ったら僕が誰なのか言わないといけないだろうし、そうしたらみんなに知られることになる。僕みたいな元男娼を「妻だ」と話している少将に、きっと恥をかかせてしまう。
「大丈夫でございますよ。ツバキさんは奥様なんですから」
「……でも、」
「馬車の準備を致しましょう。さぁ、ツバキさんはお着替えをなさってくださいませ」
そう言って執事さんが馬車の用意をして、外出用の服まで用意してくれた。こうなったら、もう僕が届けに行くしかない。
「それでは、行ってきます」
一人で貴族用の馬車に乗るのは初めてだ。僕はドキドキしながら馬車に乗り、緊張しながら王城門をくぐって王宮の隣にある軍人さん用の建物に向かった。執事さんが言うには、今日の少将はその建物に一日いるはずということだった。
「……どうしよう、緊張してきた」
馬車から降りて、もう一度自分の格好を見る。王子様に会ったときよりも派手じゃないけれど、貴族が着るような上等な服はやっぱり違和感があった。
「僕が着ると、やっぱり変な気がする……」
男娼のときから身につけるものに無頓着だったからか、きちんとした格好のほうが恥ずかしい。だから、普段お屋敷ではもっと質素な服を着ている。
「でも、ここは少将の職場なんだし、いつもの格好はダメだしね」
わかってはいるものの、よけいに目立つんじゃないかとドキドキした。僕は少将にもらった首飾りを指で撫でながら、そうっと深呼吸をした。すぅはぁしてから、「よし」と気合いを入れて建物の入口へと向かう。
立派な建物の入口をドキドキしながら通り過ぎると、大きな広間みたいな場所があった。そこには何人もの軍人さんがいて、真っ黒な軍服姿が目に入るだけで緊張してしまう。
「……やっぱり、軍人さんはみんな大きいなぁ」
軍人さんが少し苦手な僕は、大きい軍人さんの姿を見ただけで気後れしてしまい、誰にも声をかけられずにオロオロしてしまった。
誰かに少将がいる場所を聞かなければいけないのに、いざ話しかけようとすると緊張して声が出ない。「あの、」というひと言すら出てこなくて、ますます挙動不審になっていく。
「もしかして、アララギ少将の……」
突然少将の名前が聞こえてきて、パッと振り返った。そこには、僕と同じくらいの背丈の軍人さんが立っていた。ほかの軍人さんより優しそうな雰囲気だからか、カチコチになっていた体から少しだけ力が抜ける。
「あの……」
「あぁ、その首飾りは、やはりアララギ少将の奥様でしたか。少将にご面会ですか?」
「ええと、はい」
「少将閣下は、この時間はたしか……。少しお待ちいただけますか?」
「あの、はい、大丈夫です」
そう答えたら、優しそうな軍人さんがニコッと笑って奥に消えていった。これで少将に会えると思ってホッとしたけれど、一つ疑問が残る。
(僕、少将のことひと言も言ってなかった……よね?)
なのに、どうして僕が少将に会いに来たのだとわかったのだろう。
(気がついていなかったけど、僕が少将の名前を口にしてた、とか……?)
思わず眉が寄ってしまった。もしそんなことをしていたのだとしたら、僕は変なヤツだと思われたかもしれない。
(もしそうだったとしたら……少将に迷惑をかけてしまうんじゃ……)
そう思ったら悲しくなってきた。少将の役に立つことはできないけれど、せめて迷惑をかけないようにと思ってきた。それなのに、職場で恥をかかせてしまったかもしれない。そう考えるだけで涙が出そうになる。
「…………いけない。泣くなんてもっとみっともない」
涙が滲みそうになっている目を手でゴシゴシこする。男娼になってから行為以外で泣くことなんてなかったのに、少将と出会ってから子どもの頃に戻ったみたいによく泣いている。二十五になろうという大人が情けないと思いながら、もう一度ゴシゴシこすって……しまった。
目元を擦っていたのと反対の手を見たら、持っていた書類にシワが寄っていた。少し強く握ってしまったせいだ。
僕は慌ててシワを伸ばそうとした。すると、今度は書類を結んでいたきれいな紐がずれてしまった。元の位置に戻そうと動かすと、今度は結び目がクシャッと乱れてしまう。
「……どうしよう、ますます歪んでしまう……」
ますますおかしな形になってしまう書類に悪戦苦闘していた僕の耳に、「どうしたの?」という知らない声が聞こえてきた。
「えぇと……」
顔を上げたら、何人かの軍人さんに取り囲まれていた。「いつの間に!?」と驚いている僕をよそに、軍人さんたちがニコッと笑いながら次々に話しかけてくる。
「大丈夫?」
「あの、」
「何か困ってる?」
「ええと、」
「軍の誰かに用事? 案内してあげようか?」
「いえ、あの、」
「連れて行ってあげるから」
「いえ、それは……」
「遠慮しないで」
(どどどどうしよう……!)
次々に話しかけられるからか、うまく返事ができない。肩や背中、それに腰に大きな手が触れていて、「誰に会いに来たの?」とまた聞かれる。何人もの軍人さんに一度に会うことなんてなかった僕は、どうしていいのかわからずオロオロしてしまった。
(少将、はやく……はやく来てください……!)
心の中で必死にそう念じていたら、「ツバキ」と僕を呼ぶ大好きな少将の声が聞こえてきた。
「しょ、少将ぅ……」
振り返ると、今朝お見送りしたときと同じ格好をした少将が、こっちに向かって歩いて来る。そうして僕の目の前に立ち、「待たせたか」と肩を撫でてくれた。それだけでホッとして、今度はうれし涙が出そうになる。
「だ、大丈夫です。あの、僕、これを届けようと思って」
そう言って少しシワが寄ってしまった書類を少将に差し出した。それを見た少将が、一瞬だけフッと優しい顔になる。
(よかった……僕が届けても、迷惑じゃなかったんだ)
胸をなで下ろしていると、僕を取り囲んでいた軍人さんたちがザワッとした。
「あの、もしかして少将殿の奥方、でありますか?」
「そうだが」
「この人が噂の……」
「どうりで……」
「あ、例の首輪……じゃなかった、首飾りが……」
……なんだろう。今度は少しザワザワしている軍人さんたちが気になる。もしかして、知らない間に何かヘマをしてしまったんだろうかと不安になってきた。
「妻がどうかしたか?」
「いえ! 大変可愛らしい方だと思った次第であります!」
「お困りの様子でしたので、声をかけさせていただきました!」
「迷惑をかけたな」
「いいえ! 恐縮であります!」
そう言ってビシッと敬礼した軍人さんたちは、「失礼します!」と言ってサァッと消えていった。
(……しまった、ちゃんと挨拶してない)
オロオロするばかりで、挨拶すらまともにできなかった。せめて挨拶くらいはできるようにとお屋敷で密かに練習をしていたのに、本当に僕はなんて情けないんだろう。大いに反省しながら少将を見上げると、太い眉を寄せて難しそうな顔をしていた。
(……やっぱり、僕が届けに来たのがよくなかったんだ)
少将がこんな顔をするときは、怒っているか何か不愉快に感じているときだ。ほんの少しの表情の変化だけれど、僕にはわかる。
(やっぱり、執事さんにお願いしておけばよかった)
そうすれば少将にこんな顔をさせることはなかったし、迷惑をかけることもなかった。そう思ったらますます情けなくなって、前を向いていられなくなる。
「ツバキ」
少将の優しい声にも顔を上げることができない。
「勘違いをしないでほしい。俺はツバキが来たから怒っているわけじゃない」
「……少将、」
「だから、泣かないでほしい」
「な、泣いてなんか、いません」
嘘だ。ほんの少しだけ涙が滲みそうになった。あまりに自分が情けなさすぎて、そんな自分が悔しくて涙が出そうになる。
でも、少将が言うとおり泣くわけにはいかない。少将の隣で泣くなんて、それこそ迷惑をかけてしまう。僕はゴシゴシと目元を擦り、グッと顔を上げた。
「あぁ、違うんだ。怒っているんじゃない。ツバキの泣き顔を見られたくないだけで、二人のときは泣いてくれても構わないんだが」
「少将……?」
「ツバキが泣けば、またよけいな奴らに注目されてしまう。中には邪な気持ちを抱く輩が出てきてもおかしくはない。現にいまもそうだった。俺はそれが許せない」
「へ……?」
よくわからないけれど、見上げた少将の顔は眉が少しヘニョリとしている。これは困っているときの顔だ。
「ツバキは相手の庇護欲を誘う。だからあいつらも集まってきたんだろう」
「僕、そんなに子どもっぽく見えますか……?」
「そうじゃない。そうではないが、……とくに男を知っている軍人は、惹かれやすいんだろう。まさかと思っていたが、本当だったとはな」
「えぇと……?」
「殿下もおっしゃっていただろう? ツバキは可愛らしいと」
よくわからない。僕が可愛らしいなんておかしな話だ。
僕は可愛らしくもなく美人でもない、ただヒョロッとしただけの男だ。それは男娼だったときからちゃんと自覚している。そんな僕のことを可愛いなんて言ってくれるのは少将だけだ。ヤナギさんも言ってくれていたけれど、それは弟みたいなものだからだろうし、王子様のは……何だったのかいまでもよくわからない。
とにかく、僕は可愛くなんてない。可愛くはないけれど、少将に「可愛い」と言ってもらうのは嬉しい。少将だけに言ってもらえるのが特別っぽくて、言われるだけで体が熱くなってくる。それに少将だって可愛い。可愛い少将を知っているのは僕だけみたいだし、それも嬉しくて顔がモニョッとしてしまいそうだ。
(……ふへへ、僕だけが知ってる少将……)
ダメだ、どんどん顔がにやけてしまう。
「……ツバキ、一緒に帰ろう」
「へ……? え、少将、お仕事は?」
「せっかく持ってきてくれたからな、書類は渡してくる。ここで待って、……いや、それはまずい。しかし、連れて入るというのも、……いや、側にいたほうが安全か」
少将が何かブツブツと言っている。どうしたんだろう。それよりも、書類を誰かに渡しただけで帰るなんて、本当に大丈夫なんだろうか。
「やはり、一緒に行こう」
腰に回された大きな手に促されてビックリした。慌てて踏みとどまろうとしたけれど、少将の力に僕が勝てるはずがない。それでもダメだと思った僕は、必死にそのことを訴えた。
「少将、ダメですって! 僕、部外者ですから、中に入るのは……って、少将!? 手、手を繋ぐのもダメですってば……!」
僕の右手をガッシリとつかんだ少将は、僕の声なんかまったく聞こえないという感じでズンズンと建物の中に入ってしまった。慌てて見上げた少将の顔は、なんだか厳しい表情のように見える。でも怒っているわけではないようだし、一体どうしたんだろう。
そのまま僕はズンズンと奥に連れて行かれた。途中ですれ違った軍人さんたちが、ギョッとしたような顔をしたり飛び退いたりしたのを何度も見た。きっと部外者の僕を連れているせいだ。
(迷惑じゃないのかな……)
そう思うと不安になってくる。そんな僕の右手をしっかり握っていた少将が、大きな扉の前で立ち止まった。そうして僕の手を離し、「ここで少し待っていてくれ」と言って頭を撫でると扉の向こう側に消えてしまった。
「…………しょ、少将ぅ……」
少将が隣にいないというだけで、急に不安が増してきた。本来いてはいけないだろう場所に一人でいるのが怖くなる。
でも、「待っていてくれ」と言われたのだから勝手に動くわけにはいかない。僕は「しっかり待っていなければ」と思って、グッと唇を噛み締めた。
(……でも、僕がいるのを軍人さんたちが不審に思ったら……)
誰かに声をかけられたらどうしよう。一人だけなら何とか答えられるだろうけれど、さっきみたいに何人もの軍人さんたちに囲まれたらうまく答えられる自信がない。
(いやいや、僕だってやれば……できる、だろうか)
キュッと引き締めていた唇から力が抜けた。やっぱり書類を届けなければよかったんだろうかと思うと、それが正しかったような気がしてくる。
(少将にも、きっと迷惑をかけた)
それが一番つらかった。ただでさえ元男娼を妻だと言っていることをどう思われているのかわからないのに、その僕が来てしまったのだから迷惑だったに違いない。
(どうしよう……)
不安になってきたせいで、また涙が滲みそうになる。こんな自分は情けなさすぎて嫌だった。
「……もっと、しっかりしないと」
こんなことじゃ、いつまで経っても少将に迷惑をかけてしまう。元男娼だけれど、いや、だからこそもっとしっかりしなければ。そう思い直した僕は、両方の頬を自分の手のひらでペチペチと叩いて気合いを入れた。
(まずは、もっと本を読んで貴族のことを勉強しよう)
そうだ、服だって男娼のときのままでいいはずがない。執事さんにお願いして、少将の側にいてもおかしくない格好を教えてもらうことにしよう。
そう決意した僕は、両手をギュッと握りしめてキリッと前を見た。少し遅いかもしれないけれど、ほかの軍人さんに見られても変じゃないように気をつけなければ。そう思ってじっと扉を見つめる。すると、立派な扉が開いて少将が出てきた。
「少将!」
ホッとしたからか、思わず大きな体にポフッと飛び込んでしまった。
(ししししまった……!)
たったいま、少将に恥をかかせないようにしようと決意したばかりなのに、もうこんなことをしてしまった。少将の職場でこんなことをするなんて、みっともないと思われるに違いない。
慌てて体を離そうとしたけれど、なぜか少将の手が背中に回ってよけいに抱きしめられてしまった。
「あ、あの、少将……?」
いくらなんでも、職場でこういうのはダメなんじゃないだろうか。誰かに見られる前に離れなければと思っているのに、少将の力強い腕は僕を離してくれない。
「お前たち、さっさと持ち場に戻れ」
「ハ、ハイッ!」
頭上から少将の少し厳しい声がしてビックリした。慌てて顔を向けると、何人かの軍人さんが走って行く背中が見える。
(ももも、もしかして、見られてた……!?)
どうしよう、どうしよう……! 僕の頭の中はその言葉でいっぱいになった。職場でこんなことをしていたなんて、絶対に少将の迷惑になってしまう。
(僕のせいで……どうしよう……!)
慌てふためく僕の背中を、少将の大きな手が落ち着かせるように撫でてくれた。それでもオロオロしている僕に、「大丈夫だ」という声が聞こえてくる。
「恥じることはない」
「で、でも……」
「俺はツバキが書類を届けてくれたことを嬉しく思っている」
「……それなら、よかったですけど」
少将が嬉しいと思ってくれたのなら、僕も嬉しい。でも、それ以外ではいろいろ迷惑をかけてしまったに違いない。そう思うとやっぱり情けなくてしょんぼりしてしまった。
「あいつらはツバキを見たくて集まっていたんだ。まったく、覗き見までするとはな」
「……きっと、僕が変なことをしてたからです」
「そうじゃない。可愛いツバキを見たくて集まったんだ」
「…………可愛くなんて、ないですよぅ……」
僕を可愛いと言ってくれるのは少将だけだ。
「……まぁ、自覚してくれないほうが俺にとっては安心だがな」
「少将……?」
小さな声だったから何と言ったのか聞こえなかった。やっぱり少将も迷惑だったんじゃないだろうかと思ってそうっと見上げると、優しい碧眼が僕を見下ろしていた。
「さて、帰ろうか」
「……あの、本当に帰って大丈夫なんですか?」
「書類は渡せたからな。ツバキが届けてくれたおかげだ。ありがとう」
「……よかったです」
少しでも役に立てたなら嬉しい。
「さて、帰ったら仕事よりも大事なことをしなくては」
「大事なこと?」
「ツバキがいかに可愛いかを教えることだ。あぁ、それから俺の妻だということもな」
「…………へ?」
よくわからなかった僕は、きっと間抜けな顔をしていたと思う。そのまま来たときの馬車に少将と一緒に乗ってお屋敷に帰った僕は、一日ずっと「ツバキは俺の妻」だと聞かされ続けた。それは当然夜になっても続いていて、ベッドの中でも散々言われ続けることになった。
「ほら、ツバキ?」
「しょ、しょぅ……っ」
「ツバキは、俺の何だ?」
「……ッ。ぼ、僕……は……っ」
「ほら」
「んっ! 僕、は……少将、の……奥さん、です……っ」
そう口にした瞬間、少将の腰が突き上げられる。そうすると逞しすぎる逸物がズン! と奥深くに突き刺さった。もう二回出したはずの少将のそれは十分な硬さを保っていて、挿入ったらダメなところのすぐ近くを何度も突き上げてくる。まるで僕が「奥さん」だと答えたご褒美だと言わんばかりに、感じすぎるところを何度も何度も突き上げてきた。
「ひンッ! しょ、しょぅ……っ、そ、こぉ……っ!」
「ツバキは、俺の妻だ。おまえだけが、妻だ。忘れる、な……ッ」
「ひゃぅっ! お、くぅ……ッ! も、と……っ、そこ、もっと、ぉ……!」
前立腺と同じくらい感じるようになった深いところは、少将しか届かない場所だ。そこを何度も突き上げられるのが嬉しくて、僕は少将の上でみっともないくらい腰を振り続けた。そうして何度も何度も「僕は少将の奥さんです」と答えた。
次の日、僕は久しぶりに腰が抜けて昼食までベッドで寝ることになってしまった。
24
あなたにおすすめの小説
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
過労死で異世界転生したら、勇者の魂を持つ僕が魔王の城で目覚めた。なぜか「魂の半身」と呼ばれ異常なまでに溺愛されてる件
水凪しおん
BL
ブラック企業で過労死した俺、雪斗(ユキト)が次に目覚めたのは、なんと異世界の魔王の城だった。
赤ん坊の姿で転生した俺は、自分がこの世界を滅ぼす魔王を討つための「勇者の魂」を持つと知る。
目の前にいるのは、冷酷非情と噂の魔王ゼノン。
「ああ、終わった……食べられるんだ」
絶望する俺を前に、しかし魔王はうっとりと目を細め、こう囁いた。
「ようやく会えた、我が魂の半身よ」
それから始まったのは、地獄のような日々――ではなく、至れり尽くせりの甘やかし生活!?
最高級の食事、ふわふわの寝具、傅役(もりやく)までつけられ、魔王自らが甲斐甲斐しくお菓子を食べさせてくる始末。
この溺愛は、俺を油断させて力を奪うための罠に違いない!
そう信じて疑わない俺の勘違いをよそに、魔王の独占欲と愛情はどんどんエスカレートしていき……。
永い孤独を生きてきた最強魔王と、自己肯定感ゼロの元社畜勇者。
敵対するはずの運命が交わる時、世界を揺るがす壮大な愛の物語が始まる。
隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。
下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。
文章がおかしな所があったので修正しました。
大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。
ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄するから受け入れてほしいと言われる。
理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、
「必ず僕の国を滅ぼして」
それだけ言い、去っていった。
社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。
巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
過労死転生した悪役令息Ωは、冷徹な隣国皇帝陛下の運命の番でした~婚約破棄と断罪からのざまぁ、そして始まる激甘な溺愛生活~
水凪しおん
BL
過労死した平凡な会社員が目を覚ますと、そこは愛読していたBL小説の世界。よりにもよって、義理の家族に虐げられ、最後は婚約者に断罪される「悪役令息」リオンに転生してしまった!
「出来損ないのΩ」と罵られ、食事もろくに与えられない絶望的な日々。破滅フラグしかない運命に抗うため、前世の知識を頼りに生き延びる決意をするリオン。
そんな彼の前に現れたのは、隣国から訪れた「冷徹皇帝」カイゼル。誰もが恐れる圧倒的カリスマを持つ彼に、なぜかリオンは助けられてしまう。カイゼルに触れられた瞬間、走る甘い痺れ。それは、αとΩを引き合わせる「運命の番」の兆しだった。
「お前がいいんだ、リオン」――まっすぐな求婚、惜しみない溺愛。
孤独だった悪役令息が、運命の番である皇帝に見出され、破滅の運命を覆していく。巧妙な罠、仕組まれた断罪劇、そして華麗なるざまぁ。絶望の淵から始まる、極上の逆転シンデレラストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる