即オチしても恋はしない

朏猫(ミカヅキネコ)

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番外編 受付嬢たちの乱・後

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 部屋に帰り、頭を冷やすためにもシャワーを浴びようとしたが、ニゲルに「酔っ払ったままだと危ないですよ」と止められてベッドに腰掛けた。
 ニゲルが持ってきてくれた水を飲み、ハァとため息をつく。

「大丈夫ですか?」

 軽装備を外しながら聞いてきたニゲルにこくりと頷き、ベッド脇の机にコップと金縁眼鏡を置いた。

「ごめん」
「それはアイクとキスしたことへの謝罪ですか?」
「それもあるけど、……ごめん」

 もやもやしているなら、直接本人に言えばよかったんだ。

「俺のほうこそ、不安にさせたみたいですみませんでした」
「それは、……まぁ、そうなんだけど」
「素直ですね」
「どうせ気づいてるだろうから」
「まぁ、そうですね」

 やっぱり。
 四つ年下のニゲルだが、恋愛に関しては俺より何倍も経験値が高い。俺がもやもやしていることなんて、あっさりわかってしまうに違いない。それなのに隙があるような態度でいるのが腹立たしくて、どうしようもなく不安になってしまった。
 これじゃあまるで、アイクがニゲルに恋をしていると勘違いしていたときのようじゃないか。……って、まさか。

「まさか、俺の気持ちを知ったうえで隙を……」
「待って。それはないです、誤解です」

 いや、前科があるのだからわからない。嫉妬している俺がかわいいと言ったのはニゲルだ。
 ジッと上目遣いで睨むと、普段着になったニゲルが自分の前髪をくしゃりとかき回して「本当に誤解なんです」とため息をついた。

「流れの冒険者たちにされるがままだったのは、余計な荒波を立てたくなかったからです。ああいう強引な人たちは強く拒絶すると厄介だから、適当に受け流すほうがいいんです」
「……」
「前に何度も面倒なことになったんで、十分学びました」

 眉を寄せているということは、過去の“くだらないプライベート”で何かあったんだろう。

「それに俺の恋人がハイネさんだとわかっていたみたいですし、ハイネさんに何かされるほうが嫌だったんで」
「え?」
「なかには恋人に嫌がらせをする人もいるんですよ」

 ますます眉を寄せながら「えげつないことをすることもあるし」と言うニゲルに、知らない世界を垣間見た気がした。

「それから、あの黒手袋に関しては本当に油断していただけなんです」
「ニゲルが油断を?」
「ハイネさんの気配に気を取られて、避けそびれました」
「気配って……」
「道具屋に行くなら、帰りにあの路地を通るだろうなと思って先回りして待っていたんです。思ったとおりハイネさんがあの回復薬をたっぷり買って近づいて来るから、気を取られたというか、余計なことを考えていたというか」
「回復薬のことを何で、っていうか、余計なことって」

 小さく「あ、」と口にしたニゲルは、灰青色の目を逸らしながら「あれだけの数を買うってことは、それだけセックスしたいのかなってうれしくなって」と口にした。

「あれはアイクにあげる分も入ってたんだ」
「それでも、結構な数でしたよね」
「なんで数なんてわかるんだ」
「あんな大きな紙袋がパンパンになっていれば、数えなくてもわかります」

 にこりと笑いながらそんなことを言うニゲルは、心底うれしそうだった。

「それに、あの黒手袋にはちゃんと話をして街を出て行ってもらったんで、もう大丈夫ですよ」
「え? 街を出て行ったって……」
「流れの冒険者でしたから、次の行き先をいくつか勧めておきました」

 再びにこりと笑う顔に、詳しいことを聞くのはためらわれた。というよりも、詳しいことは知らないほうがいいと本能が訴えたのだ。

「これで安心しましたか?」
「……うん」

 硬い指に髪紐をほどかれ、落ちてきた金髪を耳にかけられた。そうして顔を寄せたニゲルが、耳たぶにチュッとキスをする。

「酔っ払ったハイネさんもかわいいですけど、俺以外とはキスしないでください」
「……ごめん」
「まぁ肉欲的な感じはまったくなかったですし、あれはあれでかわいかったですけど」
「かわいかったって、んっ、」

 耳たぶを噛んだ唇が首筋にキスをしてきて、甘いため息が漏れる。

「でも、やっぱりキスは駄目ですよね」
「ニゲル……?」
「悪いことをしたら、お仕置きですよね?」
「は……?」

 すぐそばでにこりと笑う顔は相変わらず整っていて、……それでいて、いつもと違う色気に溢れていた。





 体中をたっぷりと愛撫され、何も考えられなくなりかけたところをペニスで貫かれた。そのまま背面座位にされ、耳たぶを噛まれながら乳首をいじられ続けている。
 最初は「お仕置き」だと言われて、また雷撃のビリビリで意地悪くイかされるのかと覚悟した。ところが愛撫のときも、いま背後から回された手でいじられている乳首も痺れは感じない。それが少し残念なような気持ちになり、慌てて頭を振った。

「ハイネさん?」
「な、んでも、ない……っ」

 まさか、ビリビリでのお仕置きがよかったなんて言えるはずがない。そもそも高等な魔術をセックスに使うなんてとんでもない話なのだ。いくら気持ちよくても、俺から求めそうになるなんてどうかしている。……そう思うのに、ニゲルとの行為に慣れきった体は不自然な痺れを求めて疼いてしまう。

(こんなの、本当に開発されてる、みたいじゃないか)

 ではなく、正真正銘開発されてしまっている。それが悔しいような癪に触るような、でもうれしいようなよくわからない気持ちになり、グッと唇を噛み締めた。

「唇を噛んだら傷がつきますよ」
「う、るさぃ」
「はは、やっぱりかわいいなぁ」
「かわい、とか、言うな、」
「だって、すごくかわいいじゃないですか。……ビリビリがほしくて体を疼かせるなんて、かわいいでしょ?」
「……っ!?」

 囁くように告げられた言葉に、全身がカッとした。

「なに、言って、」
「大丈夫、ちゃんとビリビリしてあげますから」
「……っ」
「一応、お仕置きですからね。って言ってもハイネさんは気持ちいいだけだから、本当の意味でのお仕置きにはならないと思いますけど」
「ぉまえ、は……、っ!」

 乳首をつまんでいた指が離れ、ペニスに触れた。すでに二度射精した俺のペニスはドロドロに濡れたまま柔らかくなっているが、触られると条件反射なのか少しだけ勃起する。その先端をニゲルの硬い指先がクリクリと撫で始めた。

「そういえばハイネさんって、潮、吹いたことあります?」
「は……?」
「潮」

 急に何を言い出すのかと振り返ろうとしたら、肩にニゲルの顎が乗って振り返ることができなかった。仕方なく横目でちらりと見ると、肩越しに灰青色の目が俺のペニスを見ているのがわかる。

「さすがに潮は、ないけど……」
「ってことは、初体験ってことですね」
「は?」

 どういうことだと口を開こうとした瞬間、思わぬところにビリビリを感じて「ひっ」と悲鳴を上げてしまった。

「な、」
「出したあとも先っぽをずっといじっていたら、潮、吹けるんですけど。でもせっかくなら、こっちもビリビリがいいかなと」
「なに、い……っ」

 またペニスの先端にビリッとした衝撃が走った。乳首にしたようなことを、今度は敏感なペニスにしようとしているのだとわかり、慌てて止める。

「ちょっ、待っ、……っ」
「大丈夫、痛くはないですから。って言っても俺も初めてするんですけどね」
「いや、大丈夫って、ぃ……っ」
「はじめは刺激が強いかもしれませんけど、……ね、気持ちいいでしょ?」
「なに、言って、ひっ」
「だってほら、チンコ完勃ちしてますよ?」
「……!?」

 指摘されて見下ろしたそこは、間違いなく完全に勃起していた。しかも撫でられている尿道口はパクパクと開閉していて、もっととねだっているようにも見える。

「こんな、の、」
「亀頭をビリビリすれば気持ちよくできるっていうのは、やったことあるんです。でも、それ以上のことはハイネさんが初めてです」

 やったことがあるのか、という突っ込みはできなかった。ニゲルの言葉の直後にくぱっと開いた尿道口に硬い指の腹を押しつけられ、そこからビリビリとしたものが根本に向かって走ったからだ。
 その後、何度も小さな刺激がペニスの先端から尿道を通り、根本までを走り抜けた。そうして何度もビリビリを受け続けたペニスは不自然なくらいビクビクと震え、ビリビリが貯まっているのか根本はズクズクと疼くような熱を持ち始める。

「やめ、も、びりびり、いらな、」
「んー、もう少し、かな」
「んっ、やぁ! もぅ、びりびりいらなぃ、ひっ、ひっ、やら、やらぁ」
「トんじゃった?」
「やら、なんかくる、くりゅから、も、びりびり、いらにゃ、」
「はは、トんだハイネさんはかわいいなぁ。……ッと、中のうねり、やばい」

 耳元で笑う声にも感じて上半身がビクビク震える。ずっと震えている下半身はペニスへのビリビリと腹の中を圧迫される刺激、それに奥を突かれる快感に感覚が麻痺していた。
 それなのにビリビリを感じるたびに下腹がビクッビクッと震え、腹の奥から何かが吹き出しそうになる。

(なに、なんかでる、でる、でちゃう、)

 射精とは違う感覚に怖くなった。ビリビリするたびにペニスの奥がぐにゅうと締まり、出口を求めて暴れ始める。

「やめて、でるから、でちゃぅかりゃ、やめて、」
「ん……ッ、こっちも、やばい……。奥、吸いつきすぎ、ですよ」
「やらぁ! でる、でるって、でりゅ、でちゃ、でちゃぅ、ぅっ」
「ぅわッ、ほんとに、絞り取られ、る……ッ」
「でちゃぅっ、でる、でちゃ……っ、~~……っ!!」

 ペニスの根元より深いところがぎゅうっと押し潰された気がした。直後、刺激で熱くなった尿道を、それより熱い何かが一気に迫り上がってきた。
 あまりの勢いに止めることができず、そのまま勢いよく熱い何かが尿道口へと走り抜ける。出口をくぱっと開いていたニゲルの指なんてものともせずに、熱い何かがそのまま一気に吹き上がった。

 ブシッ、プシュッ、ブシュゥッ。

 聞いたことがない勢いのある音が自分のペニスから聞こえ、直後に腹や胸、顎にビチャッと何かがかかった。俺の手は必死にベッドのシーツを掴んでいて、同じくらいの強さで体の奥の肉壁がニゲルのペニスを絞っていた。
 耳元でニゲルの色っぽい声が断続的に聞こえる。その声だけでまたアナルが震え、体内で脈打つペニスをさらに絞り上げた。

「あぁ……、顔にも飛んじゃって。上手に潮、吹けましたね」

 うれしそうな声に言い返すこともできず、ハッハッと苦しい息を何度も吐き出す。

「どんなハイネさんも、かわいくて好きですよ」

 囁き声に「知ってるよ」と答えたかったが、口を開く前に俺の意識は途切れてしまった。


 ++++


「ベッドルームと風呂は広いほうがいいですよね」
「風呂は広いほうが好きだけど、ベッドルームは普通でいいよ」
「えぇー、せっかくだから大きいベッド、買いましょう」
「あんまり大きいと、くっついて寝られないよ?」
「くっついて寝られるサイズにしましょう」

 すぐさま意見を変えたニゲルに、思わず苦笑してしまった。間取りの紙を見ていたニゲルが「どうしました?」と顔を上げたが、「なんでもないよ」と答える。本当はかわいいなぁと思っていたのだが、いまここでそれを口にすればキスされるだろうことがわかっているので黙っておいた。

 少し早い昼ご飯にとやってきたカフェでニゲルが広げているのは、引っ越し先の候補に選んだいくつかの一軒家の間取りだった。
 いろいろあって“お仕置き”だととんでもないことをされた翌日、グチャグチャになったベッドと床の惨状を前にため息をついた俺を見て、ニゲルが引っ越しを提案してきた。おそらく狭い部屋を思い切り汚したことや片付けの大変さを思い、ニゲルなりに反省し考えた結果なのだろう。俺としては「こんなになるまでイかされたんだ」と、妙に感慨深くなっていただけだったんだが、せっかくニゲルから言ってくれたのだし、一緒に住むのもいいかと頷いた。

「本当にいいのか?」
「何がです?」
「流れの冒険者だったのに、ここに定住していいのかってこと」

 流れの冒険者は、理由があってそういう生き方をしている。多くは定住したがらず、伴侶や家族を持っても流れの冒険者を続ける人も多い。それなのに、あっさり定住を決めていいのか疑問に思ったのだ。

「流れの冒険者になったのは一か所にとどまると面倒だったからで、別にこだわりはないんです」
「……なるほどね」
「だから、どうしようもないプライベートだったって言ったでしょ」
「大変だったんだろうなってことは十分に察してるよ」

 俺が忌避していた性欲以外の欲に翻弄されてきたんだろうなと思うと、同情したくはなる。

「いまはハイネさんがいますし、一生一緒にいるって決めたんで」
「……そっか」
「あ、赤くなった。もしかして照れてます?」
「うるさい」
「照れてるハイネさんもかわいいですよ」

 ニコニコ笑うニゲルを見ていられなくて、スッと視線を逸らせた。

「あ……」

 カフェから見える橋の上にヒューゲルさんが見える。隣にいるのは、……うれしそうにはにかんでいるアイクだ。
 そういえば、二人はヒューゲルさんの家で同居を始めたらしい。それも例のキス事件の直後からだ。

(次の日、アイクが急に休んだってことは……まぁ、そういうことだよな)

 優しいヒューゲルさんしか知らない俺には想像できないが、アイクのほうも“お仕置き”されたに違いない。

「二人が気になりますか?」
「え?」

 驚いてニゲルを見ると、灰青色の目が橋のほうをちらっと見た。

「遠目なのに、よくあの人たちのこと見つけられますね」
「眼鏡をしてるからかな」
「それ、伊達眼鏡ですよね」
「うん」

 容姿にふさわしくなろうと思い自分を飾るため、受付になったときに買ったのがこの細い金縁眼鏡だ。

「ま、もうあの人は要注意人物じゃないから、いいですけど」
「いいんだ?」
「溺愛するアイクがいますからね。それよりも、俺たちも相思相愛だって見せつけるために、家、早く探しましょう」
「そこ、競うところ?」
「いいえ、見せつけたいだけです」

 よくわからない理由に、今度こそ声を出して笑った。

「笑ってるハイネさんもかわいいです」
「……ばか」
「ばかって照れるハイネさんも、もちろんかわいいです」

 にこりと童顔に見える笑顔を見せたニゲルが、また間取り図に視線を落とす。少し俯き加減の顔もかわいくて好きだなと思い、いつか「かわいい」と言ってやろうと決意した。
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