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夢の話~毎日のように夢で見るの謎とは
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くわ、とあくびが出た。何度目かのあくびだからか、さすがに友人も気になったのだろう。顔を覗き込むように「徹夜でもした?」と聞かれ、「いんや」と首を振る。
「最近は夜中までゲームすることもねぇし、昨日は十一時に寝た」
「その割にはあくび、何度もしてるけど」
「ん~……。なんか夢ばっか見てて寝た気がしないんだよなぁ」
「何それ」と笑う友人を横目に、またあくびが出る。
「もしかして不眠症じゃないの?」
そうなんだろうか。あれこれ思い返してみるものの心当たりはない。
「そうなんかなぁ。寝付きはバッチリだし夜中に目が覚めることもないんだけど。ただ、夢がさ」
「夢?」
「そう、夢。夢見が悪いってわけじゃないんだけど、毎日夢ばっか見てる気がしてあんま寝た気がしないんだよな」
俺の話をじっと聞いていた友人が「それってもしかして……」と神妙な顔つきになった。
「なんだよ、んな怖い顔して」
「悪夢を見せる妖怪かもしれないよ」
ある意味予想どおりの言葉に力が抜ける。
「あのなぁ、なんでも妖怪に結びつけるのやめろよな」
「いいや、そういう妖怪がいるって聞いたことがある」
「いたとしても違うから。つーか、おまえ何かっていうとすぐ妖怪に結びつけたがるよな」
「そりゃあ妖怪のこと大好きだからね。だからわざわざ妖怪研究の第一人者がいるこの大学を選んだんだもん」
そう言ってにこりと笑う友人にため息が出た。かくいう俺も各地の伝承や昔話に興味があってこの大学を選んだのだが、隣でニコニコ笑う友人ほど妖怪にどっぷり浸かっているわけじゃない。
(この学部を選ぶ奴は変人が多いって話だけど、こいつも大概だよな)
口を開けば妖怪のことばかりなのに顔がいいせいか女性ウケがやたらいい。こいつとは偶然隣の席に座ったときに意気投合した。同じ文化人類学部に在籍していることもあって話も合う。ただ、こいつの妖怪馬鹿には呆れることも多かった。
「ね、どんな感じの夢なのさ」
「妖怪は出てこないぞ」
「わかったから、ちょっと教えてよ」
「別に変な夢じゃないからな? 夜景が見える公園とか、観覧車で夜景を見てるとか、そんな感じの内容ばっかだよ」
「なぁんだ、めちゃくちゃ普通だね」
「だから変な夢じゃないって言っただろ」
「たしかに変じゃないけど、それってなんだかデートの場所って感じがしない?」
「へ?」
「夜景が見える公園、観覧車で夜景を見る、これってデートコースっぽいよなぁ。あ! もしかして花畑の丘とか海が見える港の公園とかも出てきた?」
「……なんで知ってるんだよ」
「あはは。だって定番中の定番だもん」
思わず顔をしかめながらも「なるほどな」と思った。
「たしかにデートっぽいけど……でも相手が誰かわかんないんだよな」
「えぇ? 誰かわからない人とデートしてるってこと?」
「いや、夢の最中は誰かわかってるんだけど、目が覚めると覚えてないんだよ」
行った場所や見たもの、食べたものははっきり思い出せるのに一緒にいた誰かのことだけがなぜか思い出せない。
「ははーん。それって願望の表れってやつじゃないの?」
「願望?」
「そんなに毎日見るってことはデートしたいって願望なんじゃないかってこと」
「はぁ? んなことあるかよ。そもそも彼女なんていないし」
「知ってるよ。だから相手を覚えてないんじゃないかって話。ほら、恋人いない歴イコール年齢の人にありがちなやつ」
「モテなくて悪かったな……って、なんで俺がそうだって知ってんだよ」
「ふふふ、内緒」
彼女が一度もできたことがないなんて情けなくて誰にも話したことがない。それなのになぜ知っているんだろう。
(この前宅飲みしたとき、うっかり話したんかな)
あのときは珍しく記憶が飛ぶくらい酔っ払ってしまった。酔っ払ったついでに余計なことをしゃべってしまったのかもしれない。
(ま、こいつ口は堅いっぽいから言いふらしたりはしないだろうけど)
それにしても夢でデートなんてどういう心理状態なんだろう。「欲求不満なんかな」と眉をひそめていると「そのうちきっと叶うよ」と顔を覗き込まれた。
「なんでそんなこと言えるんだよ」
「だって夢は叶うって言うでしょ?」
「その言葉の夢って夜見る夢と違くねぇ?」
思わず突っ込んだ俺に「あはは」と爽やかな笑顔が返ってくる。
「それよりご飯、どうする?」
「学食行くか」
「今日のAランチなんだろうね」
そう言いながら友人が俺の手を掴んだ。その感触に「あれ?」と思った。
(この感触どこかで……そうだ、昨日夢で手を繋いだときの感触に似てる)
思わず掴まれた手を凝視してしまった。すぐに「何考えてんだか」と可笑しくなった。あれは夢で現実じゃない。そもそも相手の姿形が思い出せないのに手の感触だけ覚えているなんてどうかしている。いったいどういう勘違いだと笑い飛ばそうとしたものの、なぜか胸がざわついて仕方がなかった。
(そういえば夢を見始めたの、こいつと知り合ってからだな)
なんだろう、何か大事なことを忘れている気がする。
(大事なこと……そういえば昔、誰かと大事な約束をしたような……)
脳裏に子どもの姿が浮かんだ。場所はおそらく……祖父母の家だ。いや、近所にあった稲荷神社のような気もする。
(そうだ、小さいとき神社で誰かと遊んでた)
その子がいつも聞かせてくれる不思議な話が大好きで、それから昔話に興味を持つようになった。それが高じてこうして大学にまで通っている。
(あれって誰だったんかな……すごく可愛い子で……金髪の……いや、金色だったのは……)
夕日に輝く目が金色に見えてすごくまぶしかったことを思い出した。それなのに肝心の顔が思い出せない。歩きながら考え込む俺に、隣を歩く友人が「夢、叶うといいね」と笑った。
「僕もそう願ってる。ずっと願ってる」
そう言って笑う友人の目が金色に光った気がした。
「最近は夜中までゲームすることもねぇし、昨日は十一時に寝た」
「その割にはあくび、何度もしてるけど」
「ん~……。なんか夢ばっか見てて寝た気がしないんだよなぁ」
「何それ」と笑う友人を横目に、またあくびが出る。
「もしかして不眠症じゃないの?」
そうなんだろうか。あれこれ思い返してみるものの心当たりはない。
「そうなんかなぁ。寝付きはバッチリだし夜中に目が覚めることもないんだけど。ただ、夢がさ」
「夢?」
「そう、夢。夢見が悪いってわけじゃないんだけど、毎日夢ばっか見てる気がしてあんま寝た気がしないんだよな」
俺の話をじっと聞いていた友人が「それってもしかして……」と神妙な顔つきになった。
「なんだよ、んな怖い顔して」
「悪夢を見せる妖怪かもしれないよ」
ある意味予想どおりの言葉に力が抜ける。
「あのなぁ、なんでも妖怪に結びつけるのやめろよな」
「いいや、そういう妖怪がいるって聞いたことがある」
「いたとしても違うから。つーか、おまえ何かっていうとすぐ妖怪に結びつけたがるよな」
「そりゃあ妖怪のこと大好きだからね。だからわざわざ妖怪研究の第一人者がいるこの大学を選んだんだもん」
そう言ってにこりと笑う友人にため息が出た。かくいう俺も各地の伝承や昔話に興味があってこの大学を選んだのだが、隣でニコニコ笑う友人ほど妖怪にどっぷり浸かっているわけじゃない。
(この学部を選ぶ奴は変人が多いって話だけど、こいつも大概だよな)
口を開けば妖怪のことばかりなのに顔がいいせいか女性ウケがやたらいい。こいつとは偶然隣の席に座ったときに意気投合した。同じ文化人類学部に在籍していることもあって話も合う。ただ、こいつの妖怪馬鹿には呆れることも多かった。
「ね、どんな感じの夢なのさ」
「妖怪は出てこないぞ」
「わかったから、ちょっと教えてよ」
「別に変な夢じゃないからな? 夜景が見える公園とか、観覧車で夜景を見てるとか、そんな感じの内容ばっかだよ」
「なぁんだ、めちゃくちゃ普通だね」
「だから変な夢じゃないって言っただろ」
「たしかに変じゃないけど、それってなんだかデートの場所って感じがしない?」
「へ?」
「夜景が見える公園、観覧車で夜景を見る、これってデートコースっぽいよなぁ。あ! もしかして花畑の丘とか海が見える港の公園とかも出てきた?」
「……なんで知ってるんだよ」
「あはは。だって定番中の定番だもん」
思わず顔をしかめながらも「なるほどな」と思った。
「たしかにデートっぽいけど……でも相手が誰かわかんないんだよな」
「えぇ? 誰かわからない人とデートしてるってこと?」
「いや、夢の最中は誰かわかってるんだけど、目が覚めると覚えてないんだよ」
行った場所や見たもの、食べたものははっきり思い出せるのに一緒にいた誰かのことだけがなぜか思い出せない。
「ははーん。それって願望の表れってやつじゃないの?」
「願望?」
「そんなに毎日見るってことはデートしたいって願望なんじゃないかってこと」
「はぁ? んなことあるかよ。そもそも彼女なんていないし」
「知ってるよ。だから相手を覚えてないんじゃないかって話。ほら、恋人いない歴イコール年齢の人にありがちなやつ」
「モテなくて悪かったな……って、なんで俺がそうだって知ってんだよ」
「ふふふ、内緒」
彼女が一度もできたことがないなんて情けなくて誰にも話したことがない。それなのになぜ知っているんだろう。
(この前宅飲みしたとき、うっかり話したんかな)
あのときは珍しく記憶が飛ぶくらい酔っ払ってしまった。酔っ払ったついでに余計なことをしゃべってしまったのかもしれない。
(ま、こいつ口は堅いっぽいから言いふらしたりはしないだろうけど)
それにしても夢でデートなんてどういう心理状態なんだろう。「欲求不満なんかな」と眉をひそめていると「そのうちきっと叶うよ」と顔を覗き込まれた。
「なんでそんなこと言えるんだよ」
「だって夢は叶うって言うでしょ?」
「その言葉の夢って夜見る夢と違くねぇ?」
思わず突っ込んだ俺に「あはは」と爽やかな笑顔が返ってくる。
「それよりご飯、どうする?」
「学食行くか」
「今日のAランチなんだろうね」
そう言いながら友人が俺の手を掴んだ。その感触に「あれ?」と思った。
(この感触どこかで……そうだ、昨日夢で手を繋いだときの感触に似てる)
思わず掴まれた手を凝視してしまった。すぐに「何考えてんだか」と可笑しくなった。あれは夢で現実じゃない。そもそも相手の姿形が思い出せないのに手の感触だけ覚えているなんてどうかしている。いったいどういう勘違いだと笑い飛ばそうとしたものの、なぜか胸がざわついて仕方がなかった。
(そういえば夢を見始めたの、こいつと知り合ってからだな)
なんだろう、何か大事なことを忘れている気がする。
(大事なこと……そういえば昔、誰かと大事な約束をしたような……)
脳裏に子どもの姿が浮かんだ。場所はおそらく……祖父母の家だ。いや、近所にあった稲荷神社のような気もする。
(そうだ、小さいとき神社で誰かと遊んでた)
その子がいつも聞かせてくれる不思議な話が大好きで、それから昔話に興味を持つようになった。それが高じてこうして大学にまで通っている。
(あれって誰だったんかな……すごく可愛い子で……金髪の……いや、金色だったのは……)
夕日に輝く目が金色に見えてすごくまぶしかったことを思い出した。それなのに肝心の顔が思い出せない。歩きながら考え込む俺に、隣を歩く友人が「夢、叶うといいね」と笑った。
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そう言って笑う友人の目が金色に光った気がした。
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