彼は人を晒す

星磨よった

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彼は人を晒す

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 彼は、普通の大学生だった。家から遠い平均レベルの大学に、電車で通うありきたりな大学生。人と関わるのは、授業の必要なときだけで、それ以外はほとんど一人でいた。彼は、人と関わることを避けていた。彼は、別に人と喋ることが苦手ではないし、相手の話題に合わせるのが得意なので、会話するのに困りはしない。だが、何しろ疲れてしまう。彼にとって、誰かと関わることは、疲労を蓄積させるくせに、学びも楽しみもないことだった。

 
 今時は、興味がある話はネットでいくらでも聞けるし、情報もネットで知れる。だから彼は、人と関わることより、そっちを使っていた方が疲労やトラブルなどのデメリットがなく、メリットが大きいと考えた。


 彼は、友達以外の交際相手も必要とはしていない。彼に異性に惹かれる感情はあるのだが、その人と関わることで受ける疲労を考えるとその気持ちは消えていき、やがて面倒くさいという気持ちが湧き上がってしまうのだ。多くの人は、一度は経験してみたいものと考えるのだが、彼はその経験すら面倒くさいと感じている。つまり、彼は何もしたがらないのだ。


 そんな彼だが、面倒くさいと感じることなく、快感を覚えてやり続けていることがある。同情の余地がなく、罰を受けるべきだと自分が感じた人物の本名と顔がはっきり分かる写真をSNSに載せて、多くの人に知れ渡るようにするのだ。つまりは、罰を受けるべきだと考えた人物の情報をインターネットという場に二度と消えないよう、磔にするのだ。


 例え、自分の書いたものが消されようとも、誰かが見ている。そして、その誰かがまたSNSで書き込む。書き込まなくてもリツイートしたり、誰かに話せばいい。すると、またその誰かが書き込む。それはまるで、永遠に消えない悪人だという烙印。昔日本で、罪を犯したものが、印として体にタトゥーを埋め込まれたようなもの。


 だが、彼は誰かを特定するようなことはしない。単純にそんな能力彼にはないのだが、もし能力があっても彼はしない。彼がやりたいのは、誰かが特定した人物の情報をニュース記事や週刊誌のオンライン記事で調べ、その人物に自分が罰を与えるかを決める。これが、彼にとって最良の瞬間なのだ。


 他の人から見れば、彼一人がその人の情報を書きこんだくらいで何にもならないと思うかもしれない。だが、彼はその人物の今後に悪影響を与えられたかもしれないという感覚だけで満足なのだ。その時、彼はまるで人の今後を決めることができる裁判官にでもなった気分なのだ。


 なおかつ、彼には自分の書き込む情報を見たがる人が一定数いる。彼にとってはその一定数こそが、自分の決めた判決を執行する刑務官なのだ。


 彼がこのような考えになった経緯を語るとき、最初に話すべきは、彼はもともと犯罪者に対して同情の気持ちを持っていたことだ。


 最初に同情の気持ちを持ったのは、学校で銃乱射事件を起こし、自殺したアメリカ人の少年が生前投稿した動画の翻訳を見たときだった。少年は、いじめを受けていると話していた。そして、抑圧されているものは暴力でしか、その状況を打開できないと主張していた。そのとおりだと彼は思った。少年がそのいじめに暴力以外の方法で、打開することができただろうか。きっと親や先生に頼れば、誰かに頼らないと何もできないやつとして、周りから批判的な視線を浴びる。子供の世界とは、そういう理不尽なものだ。


 しかしその後、彼は同情の余地がない悪でしかない人もいるのだと考えるようになった。


 それは、ある少女がいじめに遭い、追い詰められ家出し、凍死したという記事を見たときだった。彼女は強要され、撮られた画像を同級生に拡散されるなどのいじめに合っていた。


 しかし、彼女の母親が学校に訴えても学校はなんの対策も取らないまま、彼女は冷たい雪の中で命を落としてしまった。このいじめの加害者達は、未成年だかなんだかで、罰をほとんど受けないらしい。彼はこのことにどうしようもないやるせなさと、感じたことのない表現しようのない気持ちを感じた。


 そんなとき、彼はネットで加害者達の個人情報が出回っていることに気づく。それも、真実だと考えることのできる正確な情報も書き込まれていた。彼はすぐにツイッターのアカウントを作り、どうしようもできない怒りと共にその個人情報を書き込んだ。


 すると、そのときつけたハッシュタグからたどりついた人から、個人情報の拡散と彼の怒りに賛同するというメッセージを貰った。


 彼は、メッセージを貰ったことで、自分のツイートを見た人がいるという事実に歓喜した。それは、彼にとっていじめで命を落とした彼女ができなかったいじめの復讐であり、自分が正義を執行しているという自己満足でもあった。


 それから彼は、いじめや性的暴力の加害者などを様々なSNSや動画サイトを使って、晒し続けている。


 この行いが罪に問われるとしたら、民事裁判の賠償請求だと彼は考えている。こういったことで刑事事件として扱われ、捕まった例を彼はほとんど知らないからである。さらに彼は、民事裁判で損害賠償請求されることはないと楽観的に考えている。


 彼が晒したのは、皆かなりの真実味がある罪を犯した人物らである。そのような人物が、ニュースにもなってしまうような損害賠償請求をするだろうか?彼らは、きっとそのような罪や過去を隠して生きて行きたいはずだと彼は考えている。


 ほとんどの人は彼のやり方が間違っていると非難するだろう。しかし、その非難に対して彼はこう答える。


「法や政府、警察機関がおかしいと批判するだけで、何も行動しないでいる奴らよりマシだ」と。
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