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5.謝罪
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「なにかしら」
わざとらしく髪をかきあげて俺を冷めた目で見るオリヴィアに、俺は内心、苦手なんだよな……とまた思ってしまう。
それは、ニコラの感情の記憶だ。どうしても引きづられてしまう。
「同じ隊員になったわけだしさ。昔のこと、謝っておこうと思って」
「……謝られる覚えはないけど」
「あの頃の俺は幼くて……オリヴィア嬢にとっては、馬鹿みたいな会話をする俺たちを見たり、その輪に混ざったりするのは苦痛なんだろうって、そう思ってたんだ」
「…………」
幼い頃のオリヴィア。
『そんな遊びをするなんて、はしたないもの』
『品性を疑われるようなことはしないの』
『見つかったら叱られるじゃない』
彼女はいつもそう言って、俺たちを遠巻きに見るだけだった。『人が来ないか見張っていてあげるわ』と、わざと輪から離れることもよくあった。
親に言われて仕方なく付き合っているのだと、当時の俺は思い込んでいた。だから彼女を気遣うつもりで、両親に「もうオリヴィアは誘わないでほしい」と言ってしまったのだ。突然誘われなくなったことに、オリヴィアも勘づいていた。それが彼女の心の傷になっているなんて、ゲームをプレイするまで、俺――ニコラは、知る由もなかった。
「今ならさ、分かるんだ。傷つけたかもしれないって」
「……ふん、あなたも少しは成長したようね」
「あの頃はごめん」
ニコラの記憶と俺の記憶が融合し――、謝らなければとこの半年間、ずっと思っていた。オリヴィアも楽しめる遊びを提案すればよかったと、今の俺になる前のことなのに後悔し続けた。
俺の中には、今までのニコラもいる。前世とは違う自分、新たな人生を歩んでいるんだと感じる。
「バカな会話ばかりするあなたたちに付き合うのは苦痛だったからいいのよ。むしろありがたかったわ」
「オリヴィア嬢……」
「苦手なのは確かだもの、よかったの」
強がりだ。分かってはいても何もできない。
「少しは王子様らしくなったようねと言いたいところだけど……年頃の私が殿方と二人きりでいるのはよくないわ。すぐに戻ってくださる? ここは旧校舎だけれど、誰かに見られないとも限らないわ」
「あ、ごめん」
「それに、大事な婚約者がこちらを覗いているわよ」
「え!?」
後ろを振り返ると、慌てて曲がり角に隠れるラビッツの姿が――。
「な、なんで」
「以前はリューク様にご興味があるご様子でしたけど、今は違うようね」
「え?」
「ほら、早く行ってさしあげて。私はニコラ様とこれ以上一緒にいたくはないのよ」
「……ここは学園だ。プライベートでは様付けなんてしなくていいんだぜ?」
「私、品性は失いたくないの」
「そうかよ」
心の中で苦笑する。
その台詞は、ゲームでも聞いた。さっきよりも距離が近くなったような笑顔に、ほっとする。謝罪の気持ちも伝わったようで緊張もほどけてきた。
「これから、よろしくな」
「ええ、それではね」
優雅な品のある足取りで、校舎の出口から外へと颯爽と歩いていく。風に揺れてぶわりとたなびくゴールドの髪も、ゴージャスで彼女らしい。
「何を話してたの」
ラビッツが小走りで隣にやってくると、やや不安そうに俺を見上げた。俺がゲームにない行動をとったから気になったんだろう。
「昔のことを謝ってたんだ」
「……そう」
ラビッツは少しだけ哀れむような目をして、小さくなっていくオリヴィアの背中を見送った。
「……ゲームは、全部クリアしたのか?」
オリヴィアの心の傷を知っているのか、という質問だ。
「したわ。男性向けだけど、ここのメーカーのゲームだけは好きだったの」
「そうか」
女性もとっつきやすい泣きゲーを量産するメーカーだからな。ただ、泣けるということはラストで……。
「ここはゲームと違って、いきなり時間が何日も過ぎたりはしないのよね」
「ああ。ゲームでは起きなかった事件もいくつも出てくるだろうな。気をつけろよ」
「あんたこそね」
やっぱり転生者同士ってのはいいな。多くを語らずとも分かりあえる。
「なぁ、よかったのか? 入隊したらもう、リュークからの説得イベントが起きないぞ?」
「……私がいない間に色々とイベントが起こるじゃない。参加できないのはつまらなさすぎよ」
「確かに見たいか……」
「当然!」
「それなら、どうして最初に断ったんだ?」
「うっ……」
なぜそこで言葉に詰まるんだ。
「ゲームのシナリオ通りに進めたいんじゃなかったのか?」
「と、咄嗟にゲーム通りにしようかと思っちゃったのよ。迷うとやっぱり、そっちを選ぶわよね」
「まぁ、安心感はあるよな。先を知っているという」
「そうなのよね……迷子になったら、必死に知ってる道を探すでしょう? そういうものよ」
迷子体質なのか?
それは、ラビッツにはなさそうな特徴だな。前世での話か。
「確かに、知ってる道は心強いな」
「でしょ。分かりやすい出口が見えてるなら、そこに向かっちゃうのよ。……抗いたい時は抗うけど」
このゲームのラストを思い出しているのだろうか。
この世界を俺と同じくらい知っている存在がいるのはやっぱり心強い。まだ彼女と過ごした時間はわずかなのに、誰よりもラビッツと一緒にいると安心する。
「やっぱり俺、ラビッツとずっと一緒にいたいな」
「……あっそ」
顔を少し赤くしてそっぽを向く彼女に、なんだか胸がそわそわした。
わざとらしく髪をかきあげて俺を冷めた目で見るオリヴィアに、俺は内心、苦手なんだよな……とまた思ってしまう。
それは、ニコラの感情の記憶だ。どうしても引きづられてしまう。
「同じ隊員になったわけだしさ。昔のこと、謝っておこうと思って」
「……謝られる覚えはないけど」
「あの頃の俺は幼くて……オリヴィア嬢にとっては、馬鹿みたいな会話をする俺たちを見たり、その輪に混ざったりするのは苦痛なんだろうって、そう思ってたんだ」
「…………」
幼い頃のオリヴィア。
『そんな遊びをするなんて、はしたないもの』
『品性を疑われるようなことはしないの』
『見つかったら叱られるじゃない』
彼女はいつもそう言って、俺たちを遠巻きに見るだけだった。『人が来ないか見張っていてあげるわ』と、わざと輪から離れることもよくあった。
親に言われて仕方なく付き合っているのだと、当時の俺は思い込んでいた。だから彼女を気遣うつもりで、両親に「もうオリヴィアは誘わないでほしい」と言ってしまったのだ。突然誘われなくなったことに、オリヴィアも勘づいていた。それが彼女の心の傷になっているなんて、ゲームをプレイするまで、俺――ニコラは、知る由もなかった。
「今ならさ、分かるんだ。傷つけたかもしれないって」
「……ふん、あなたも少しは成長したようね」
「あの頃はごめん」
ニコラの記憶と俺の記憶が融合し――、謝らなければとこの半年間、ずっと思っていた。オリヴィアも楽しめる遊びを提案すればよかったと、今の俺になる前のことなのに後悔し続けた。
俺の中には、今までのニコラもいる。前世とは違う自分、新たな人生を歩んでいるんだと感じる。
「バカな会話ばかりするあなたたちに付き合うのは苦痛だったからいいのよ。むしろありがたかったわ」
「オリヴィア嬢……」
「苦手なのは確かだもの、よかったの」
強がりだ。分かってはいても何もできない。
「少しは王子様らしくなったようねと言いたいところだけど……年頃の私が殿方と二人きりでいるのはよくないわ。すぐに戻ってくださる? ここは旧校舎だけれど、誰かに見られないとも限らないわ」
「あ、ごめん」
「それに、大事な婚約者がこちらを覗いているわよ」
「え!?」
後ろを振り返ると、慌てて曲がり角に隠れるラビッツの姿が――。
「な、なんで」
「以前はリューク様にご興味があるご様子でしたけど、今は違うようね」
「え?」
「ほら、早く行ってさしあげて。私はニコラ様とこれ以上一緒にいたくはないのよ」
「……ここは学園だ。プライベートでは様付けなんてしなくていいんだぜ?」
「私、品性は失いたくないの」
「そうかよ」
心の中で苦笑する。
その台詞は、ゲームでも聞いた。さっきよりも距離が近くなったような笑顔に、ほっとする。謝罪の気持ちも伝わったようで緊張もほどけてきた。
「これから、よろしくな」
「ええ、それではね」
優雅な品のある足取りで、校舎の出口から外へと颯爽と歩いていく。風に揺れてぶわりとたなびくゴールドの髪も、ゴージャスで彼女らしい。
「何を話してたの」
ラビッツが小走りで隣にやってくると、やや不安そうに俺を見上げた。俺がゲームにない行動をとったから気になったんだろう。
「昔のことを謝ってたんだ」
「……そう」
ラビッツは少しだけ哀れむような目をして、小さくなっていくオリヴィアの背中を見送った。
「……ゲームは、全部クリアしたのか?」
オリヴィアの心の傷を知っているのか、という質問だ。
「したわ。男性向けだけど、ここのメーカーのゲームだけは好きだったの」
「そうか」
女性もとっつきやすい泣きゲーを量産するメーカーだからな。ただ、泣けるということはラストで……。
「ここはゲームと違って、いきなり時間が何日も過ぎたりはしないのよね」
「ああ。ゲームでは起きなかった事件もいくつも出てくるだろうな。気をつけろよ」
「あんたこそね」
やっぱり転生者同士ってのはいいな。多くを語らずとも分かりあえる。
「なぁ、よかったのか? 入隊したらもう、リュークからの説得イベントが起きないぞ?」
「……私がいない間に色々とイベントが起こるじゃない。参加できないのはつまらなさすぎよ」
「確かに見たいか……」
「当然!」
「それなら、どうして最初に断ったんだ?」
「うっ……」
なぜそこで言葉に詰まるんだ。
「ゲームのシナリオ通りに進めたいんじゃなかったのか?」
「と、咄嗟にゲーム通りにしようかと思っちゃったのよ。迷うとやっぱり、そっちを選ぶわよね」
「まぁ、安心感はあるよな。先を知っているという」
「そうなのよね……迷子になったら、必死に知ってる道を探すでしょう? そういうものよ」
迷子体質なのか?
それは、ラビッツにはなさそうな特徴だな。前世での話か。
「確かに、知ってる道は心強いな」
「でしょ。分かりやすい出口が見えてるなら、そこに向かっちゃうのよ。……抗いたい時は抗うけど」
このゲームのラストを思い出しているのだろうか。
この世界を俺と同じくらい知っている存在がいるのはやっぱり心強い。まだ彼女と過ごした時間はわずかなのに、誰よりもラビッツと一緒にいると安心する。
「やっぱり俺、ラビッツとずっと一緒にいたいな」
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顔を少し赤くしてそっぽを向く彼女に、なんだか胸がそわそわした。
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