【完結】男のオレが悪役令嬢に転生して王子から溺愛ってマジですか 〜オレがワタシに変わるまで〜

春風悠里

文字の大きさ
6 / 30

6.風紀委員

しおりを挟む
「僕が留守の間も、皆とてもよく働いてくれていると聞いているよ。ありがとう。仔細な報告書にも目を通している。君たちには感謝しきりだ」

 バロン王子が風紀委員のメンバーを見渡してにこやかに労う。

 風紀委員……こんなにいたんだな。数十人規模じゃねーか。その一人一人に目を合わすようにして、いかにも君の努力を知っていますという顔を向けるのは、さすが王子ってやつか。あんなに軽い労いに、ウルウルしている風紀委員までいるぜ。

「で、今日は君たちに紹介したい女性がいるんだ。知っている生徒も多いだろうが、シルヴィア・グラント。これから僕の隣には彼女がいることが多いだろう。だから一応ね。彼女の身辺にも注意を向けてほしい。女子寮もそうだけど、僕の目が届かない場所はいくらでもあるからね」

 この視線……居た堪れないな。
 バロン王子の言う通り側にいることは多いものの、そんなに多くはない。選択授業だらけのせいだ。後期は同じ講義をたくさんとろうと言われている。

「シルヴィア・グラントですわ。降りかかる火の粉はできる限り自分で対処はいたします。それでも、皆様の手を煩わせてしまったら申し訳ありません。風紀委員はとても忙しいとうかがっています。皆様あっての平和な学園。乱す側にならないように気をつけますわ」

 挨拶は……こんなもんでいいか。
 火の粉なんて、ねーと思うけどな。嫉妬に狂った女なんて、そうは湧いてこないだろう。
 
 どうしてこんなことになったのかといえば、バロン王子が風紀委員長だからだ。といっても飾りだ。お飾りだ。表に出すぎると、活発な意見交換がされなかったり生徒が委縮したりするらしく、顧問にほぼトップの仕事は丸投げしているとか。本当に必要な時にババンと水戸黄門みたいに出ていくんだろう。

 顧問も先生ではない。卒業後しばらくしてから研究者として学園に戻ってきた半生徒のような存在だ。たまに特別講義もするから半生徒で半先生のような……この学園では、研究費を潤沢に王家から出してもらえるので、そのまま学者として残ったり出戻りの研究者も多い。いわゆる生徒代表顧問みたいな感じか。

 どうして顧問なんてあるのかは分からないが……魔法世界だけあって、生徒だけの運営は難しいのかもしれない。ノウハウやよく知っている人という存在も必要なのかもな。

 顧問がオレの言葉を聞いて、安心させるように笑った。

「ははっ、若いっていいよな。恋に愛! 大いに結構。だが、風紀を乱す側にはならないようにな!」

 ノリが軽いな。

「顧問、それセクハラですよー」
「顧問自ら乱さないでくださーい」

 すぐにツッコミが入った。仲がよさそうだな。ただ、生徒たちはチラチラと王子の様子をうかがっている。確かに王子がいると、発言に気をつけないとと意識はされるようだ。

「わりぃ、わりぃ。あ、委員長が来ない間にもう一人風紀委員を増員したんだ。伝えてはあるが、一応紹介するな」

 簡単に委員を増員できるんだな。
 ま、ここは魔法世界。トラブルも多いからこそ、簡単に増やせるのかもしれない。

 あれ。じゃ、俺もそのうち風紀委員にさせられるのか? それは面倒だ。王子みたいにお飾りとはいかないだろうからな。

「彼女がリリアン・カトラ。風紀をよくしたいという熱意が強い。その熱意に打たれて入ってもらった。同じ一年生だし、仲よくしてやってくれ」

 おいおいおいおい、よく見たらヒロインじゃねーか!

 ふわふわな金髪。透き通った緑の瞳。実際に見ると、確かにオレよりこっちのが少女漫画の主人公みてーだな。

「リリアン・カトラです! バロン様、そしてシルヴィア様、これからよろしくお願いしますね!」

 可愛い。
 元気で愛くるしくて、まさにヒロインだな。
 ……バロン王子、惚れてねーか?

 って、なんか神妙な顔で頷かれてしまったな。あ、オレがこの前、ヒロインの名前は確かリリアンだったと言ったからか!

 リリアン、既に誰かのルートに入ったんだろうか。乙女ゲーはやったことねーが、エロゲーなら一応ある。友達の兄貴が面白いぞと貸してくれた。システム的には似たようなものだろう。共通ルートと個別ルートがあって、誰かのルートに入ったらもう相手は固定されるはずだ。

 ……そもそも、バロン王子とリリアンはどうやって知り合うはずだったんだろう。もう出会いイベントは実は終わっていたのか? 新しい風紀委員として報告は既に受けていたらしいし……って、なんでオレに伝えなかったんだよ!

 あー、もうわっかんねーなー!

 ごちゃごちゃ考えている間も、バロン王子が彼女へと「とても心強いよ。これからよろしく頼む」とか挨拶している。もうオレの番だ。

「私もとても心強いですわ。ご迷惑をかけたらごめんなさい。よろしくお願いしますわ」
「いいえ、シルヴィア様。お二人のロマンスを邪魔される方がいたら、私が成敗いたしますね!」

 ノリがよすぎじゃね? こいつ、本当にヒロインなのか?

「そ、そう……」
 
 顧問が慌てたように割って入った。
 
「待て待て待て待て、一応相手に怪我はさせないようにな。もみ消すのは大変だから、やるのは自分がやられそうになってからだ。そこは気をつけるよーにな」

 いいのか、それ。
 堂々と言っていいのか。
 
「はぁい! 気をつけますね。まずは捕獲。安全な捕獲から。バッチリです!」
「不安になってきたなー……。まぁいいか。じゃ、そーゆーわけで今週の報告会を始めるぞー」

 はー……。
 乙女ゲーをやっておけばよかったと思う日がくるとはな。ゲームではどんな感じだったんだろうな。

 魔法世界独特の話を聞きながら、心の中でため息をついた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...