【完結】男のオレが悪役令嬢に転生して王子から溺愛ってマジですか 〜オレがワタシに変わるまで〜

春風悠里

文字の大きさ
7 / 30

7.リリアン・カトラ

しおりを挟む
「あの、少しよろしいですか?」

 委員会が終わり、少し顧問と話をしてから教室を出たオレたちに、リリアンがキラキラした目で話しかけてきた。待ち伏せしていたようだ。

「ああ。なんだい?」

 バロン王子、愛想がいいな。女に嫌気が差しているとか言ってたくせに。もっと無愛想にしておけば、オレなんて利用しなくてもマシになるんじゃねーか?

「あの、シルヴィア様と恋人同士なんですか?」

 ド直球だな。

「そうだよ。顧問から話がいってないかな」

 はあ?
 もしかして今までの委員会で顧問から話があったのか? 勝手なことすんなよ。

「ええ、聞きました。直接確認したかったんです。あの、少しシルヴィア様と二人でお話したいんですけど、駄目ですか?」
「……なんの話かな」
「言わないと駄目ですか?」

 おいおい。なんか、視線がバチバチいってないか? ヒロインだよな。王子と恋愛ルートに入る可能性もあるんだよな。

「彼女は心労を抱えていてね。よくない話を耳に入れたくはないんだけど」

 え。
 オレ、心労を抱えているのか?

 いやまぁ……女っぽくするのは大変だけど、シルヴィアの記憶もあるし、そこまででは……。選択授業で離れる時以外はほとんどバロン王子といるしな。もしかしてオレのこと、めちゃくちゃ心配してくれているのか?

「うう~ん」

 リリアンが眉をひそめて考え込み、気を取り直したようにオレに微笑みかけた。

「あの、シルヴィア様は前世の記憶ってありますか?」

 うわっ、転生者だ!
 こいつも転生者だ!

「えっと……」

 どうしようか、どうしようか。

 このまま前世はどんな奴だったのかとか聞かれたら困る。男ってバレたら、共有浴場で絶対興奮してるって思われるだろ。それどころか、女の体だぜウヒョヒョヒョとか言いながら自分の乳を揉んでいるだろうなとか想像されるかもしれない。

「バロン様の恋人ってことは、そうですよね?」
「そこまでだ」

 バロン王子が止めてくれた。

「さっきも言ったけど、彼女には心労がたまっている。その話の続きは今度にしてくれるかな」
「やっぱり……そうでしたか。分かりました。うーん……あの、バロン様?」
「なにかな」

 少しイライラしているな、バロン王子。そろそろヒロイン、撤退した方がいいんじゃねーの?

「私が今、バロン様に『好きです。付き合ってください』って告白したらどうしますか?」
「……仮定の話に答えたくはないけど、断るに決まっている。愛しい恋人がいるのだからね」
「そうですか」

 ど、どーゆーことだ!? こいつ、バロン狙いなのか!? しかもなんでニコニコしながらオレを凝視しているんだよ、ヒロイン! 意味分かんねーよ!

「私、恋愛よりもベルナードさんの片腕になりたいんです。誰相手でも恋愛イベントを起こそうとするつもりもありません。それに今、バロン様にも振られましたしね! 邪魔はしないので安心してください。それでは失礼します」

 誰だよ!
 誰なんだよ、ベルナード!

 キラッキラした笑顔を振りまいて、リリアンが立ち去っていった。疲れたオレを責めるような目でバロン王子が見てくる。

「……君の話した物語の中には出てこなかったよね、顧問の名前」

 顧問?
 
「ベルナードって……顧問の名前ですか」
「そうだよ」

 知るかよ。
 講義も受けてない先生もどきの名前なんて、元のシルヴィアも興味なんてもっちゃいない。
 
「由真の話を適当に聞いていただけなので、前にも言いましたが名前も顔も全員は覚えていませんよ」

 いたかなー、パッケージの中に。顧問……赤髪の爽やかなメガネのオッサン風の男……。キャラなんて覚えようとしていなかったし、完全に忘れたな。他も思い出せねー。
 
「そうみたいだね。で、彼女にも前世の記憶があるってことは――」

 諦めたようにバロン王子が苦笑した。

「君の話は本当だったわけだ」
「疑ってたのかよ!」

 信じるって言ったじゃねーか。こいつ、結構適当にしゃべってんな。
 
「……外だよ、シルヴィア。口調に気をつけて」
「はい、すみません」

 一応、廊下に誰もいないことは確認しているけど、油断大敵か。気をつけよう。

「あの子は……少なくとも頭は悪くないな」
「え?」
「僕と君の態度と言動の両方で君に前世があることと、僕がそれを知っていることを確信したようだね」
「えー……」
「そして君は、頭が悪いのかな」

 なに!?
 えっと、あれだろ? ゲームと違ってオレたちが恋人だからおかしすぎると。だからオレが前世持ちだと分かったんだろ? んでもってえっと、バロン王子も分かったふうだったからってことだろ?

「少しパニックになっていただけですよ。それくらい分かります」
「そう。ならよかった」

 王子がくすくすと笑う。

 なんかなー。オレを動揺せて遊んでいる気がするよなー。

「あ、そういえばバロン様」
「なんだい?」
「リリアンと知り合いだったんです?」
「……いや、報告を受けただけだ」
「なんで私に言わなかったんですか」
「風紀委員は多いしね。接点なく過ごせればそれに越したことはないとね」
「……私をあの場で紹介したくせに」
「それは仕方ないな。しまったな、顧問にリリアン嬢を紹介しないよう伝えておけばよかった」

 だとしても、あっちも転生者なら結局は声をかけられたはずだ。
 
「さてと。それより、シルヴィア」
「なんでしょう」
「早速、練習をするか」
「……なんのですか。さっぱり分かりませんが」
「君は前世の性別をどっちとして彼女に接するつもりだ? きっとまた話しかけられるよ」

 ……女しかねーよな。男だなんて言ったら、女子トイレとか目の前で入りにくくなるし。
 
「女ですね」
「リリアン嬢にどう説明して、どんな口調で話すのか。決めて、一応練習しておこうか」

 ……こいつ、やっぱり過保護だろ。でも、確かに決めてはおきたいかな。
 
「分かりましたよ。付き合います」
「……僕が君に付き合うんだけどね」

 王子が言い出したんだろ。
 
「はいはい、ありがとうございます」
「誠意がこもってないなー」
「ありがたいとは思っていますよ」
「そう」

 くすりと笑うバロン王子は、リリアンに未練はなさそうだ。未練という表現はおかしいか。

「……リリアンと、本当に今まで会っていないんですか?」
「気になるの? なぜ?」

 普通はゲームの初期に全キャラと出会いは済ませるはずだ。ここに行ってこんな会話をするといった何かが普通は起こる。リリアンは恋愛イベントを起こさないと言っていた。他のキャラとも出会うことすらやめたのだろうか。

「リリアンへの興味ですよ」
「……まさか百合?」
「それは絶対ありません!」
「え?」
「え?」

 なんでそんなに意外そうなんだ。
 いや、そうか。意外に決まってるか。そうだよな。

「それなら、好みの女の子とかは?」

 ……全然その気にならねーんだよ。共同浴場に行ったってさ。全然……。

「ごめん、困らせたな。じゃ、罠の部屋へ戻ろうか」
「……はい」

 わざとらしく笑って、バロン王子がオレの手を握った。なんとなく振り切れなくてそのままにしておく。

 リリアンがイベントを起こさないと言うのなら、こいつはまだしばらくはオレの側にいてくれる。そのことにほっとするのは、事情を知ってくれているからだ。本当のオレを見せられる相手がこいつだけだからだ。

 それだけ……だよな?

 心労を抱えていると口に出すほどではないけれど、ないとは言い切れないなと思いながら、バロン王子の少し後ろを手をつなぎながら歩き続ける。

 会話がないのは、オレへの気遣いだろうなと思いながら。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...