【完結】死に戻りの悪役令嬢は拗らせ王子の護衛執事に溺愛される 〜ループの果てに〜

春風悠里

文字の大きさ
6 / 32

6.二年後

しおりを挟む
 ――あれから二年経った。

 侯爵家での修行時代もあったので、ループ開始からは二年半になる。

 護衛は強さと忠誠心の二つが全てだ。護衛が実は王子の暗殺を狙っていましたとあってはおしまいだ。まずは末端からで、強くなるほど難しい依頼もこなすようになり信用を得て上へと上がっていく。

「――というわけで、明日はミセル様が学園へと視察へ行かれます。今回は私的な活動となるので同行者は――、」

 とうとうヒロインとミセル様が知り合うのね。

 ヒロインは王立でもある学園へチョコチョコ見学に行く彼と知り合って恋を育む。公的ではなくほとんど私的に行って、現在の研究の動向や優秀な生徒について聞いたりする。

 私もこれまでのループでは通っていたけれど、半年もせずに殺された。今は既に婚約は破棄されているし両親も私に関心はないので通うのは断った。行く必要はない。

「それから、今回はナタリーも同行します」

 え、なんでよ。

「結構です。私的な視察に同行できるほどの実績はあげていません」

 イグニスは今や上司。話し方も目下の人間として弁えている。

「ミセル様の希望です」

 え……。

 なんとしてでも避けないと。通うわけではなくても、学園にゲームの役者が揃ってしまえば死を回避できないかもしれない。学園に行かなければ殺される可能性はより低くなるはずだ。

「お断りします。いざという時に私ではまだミセル様を守りきれる自信がありません」
「他の護衛もつれていく。問題はないですよ」
「それなら私はただの足でまといです」
「……行きたくないんですか」

 上司命令に対してそんなことは言えない。

「自信がないだけです。ミセル様をお守りすることが私の使命なので」
「自信ですか……。皆さんはどう思います?」

 彼がさっきまでとは雰囲気を変えて、苦笑しながら手を上げてみせた。男性の侍従は笑うだけだけれど、女性は「今なら軽口オッケー」の空気を感じとって目を輝かせた。

 まずい……。
 
「大丈夫よ、ナタリー。あなたは真面目すぎ! この前だってきっちりと仕事をこなしていたじゃない」
「逃げてきた末端を片付けただけよ」
「どんどん手際もよくなっているわ。昔はあんなに派手に返り血を浴びていたのに、今は洗練されている! 大丈夫、学園でミセル様を襲う輩がいてもあなたならすぐに息の根を止められるわ!」

 そんな女子高校生みたいにキャッキャして……。

「そうよそうよ、それに無事に任務を終えたらもう少しミセル様に近づけるわよ」
「……婚約破棄されているんだけど」
「ミセル様を守るためでしょう? 素敵! これを機に一気に距離が近づくかもしれないわ」

 ここのメイド、なぜか私をミセル様とくっつけたがるのよねー……。

「距離が近くなったところでね」
「いいじゃない。愛人しながら護ったって!」
「きっとミセル様ならいい暮らしをさせてくれるわよ」

 王族や貴族が愛人をつくるのは珍しくない。さすがに情事の最中もべったり護衛するわけにはいかないし、愛人にメイドがおさまれば安心度が上がるというわけだ。愛人が刺客でしたという展開も防げる。さすがに正妻との間に割って入ることはできないけど、プライベート事情がより耳に入るようになり安全性も上がる。

「惚れた腫れたには興味がないわ」
「え」
「べ、別に惚れなくても……」

 しまった。
 
 彼女たちとは価値感が違う。ご主人様に忠誠を誓う立場としては、惚れるとかいう浮ついた感情よりご主人様の無事を優先する。自分が好きになるかどうかは関係ない。好かれたならそれを利用してでも護りたいのが護衛というもの。

 恥ずかしい。

「ご、ごめんなさい。昔を少し思い出して」
「あ、そうよね。婚約者だったものね。難しいわね……そういえば、愛人になるには身分が高いのよね」

 そうなのよね。愛人になる気はないけれど、勘当して除籍してくれてもよかったのに未だに侯爵家の娘のままだ。最初は同僚も私を扱いづらそうにしていた。

 家系図から抜けたい……。

「でも、ラブロマンスもいいわぁ~! 一度離れた相手となんて」
「ね~!」
「護りやすそうよね」
「ほんとに! たまにミセル様って護衛をまいていなくなっちゃうものね。あれ、どうやってるのかしら」
「そうよね、護りやすいっていいわよね」
「ナタリーなら裏切る心配もないし」
「なにせ、将来の王妃より護衛を選ぶくらいだしね」
「安心感って大事よね~!」

 はぁ……。
 愛人が刺客って可能性を消せるって最高、としか思ってないわね。

 げんなりしている私にイグニスが声をかけた。

「皆さんが賛成しているのも理解できたでしょう。これは決定事項です。自信がないのは問題なので、あとで私と鍛錬でもしましょうか。都合よくあなたも私ももうすぐオフでしょう。では次の指示に移ります」

 あー……駄目だ。これは断れないやつだ。
 しかも、せっかくの休憩時間に鍛錬って酷いわ。夜会の警備仕事がお互いにあるからしばらくオフになったのに。

 雑談時間は終わったと皆も理解してシンとする。もう完全に仕事モードだ。

 どうしたらいいのかしらね……。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜

水月華
恋愛
レティシア・ド・リュシリューは婚約者と言い争いをしている時に、前世の記憶を思い出す。 そして自分のいる世界が、大好きだった乙女ゲームの“イーリスの祝福”の悪役令嬢役であると気がつく。 母親は早くに亡くし、父親には母親が亡くなったのはレティシアのせいだと恨まれ、兄には自分より優秀である為に嫉妬され憎まれている。 家族から冷遇されているため、ほとんどの使用人からも冷遇されている。 そんな境遇だからこそ、愛情を渇望していた。 淑女教育にマナーに、必死で努力したことで第一王子の婚約者に選ばれるが、お互いに中々歩み寄れずにすれ違ってしまう。 そんな不遇な少女に転生した。 レティシアは、悪役令嬢である自分もヒロインも大好きだ。だからこそ、ヒロインが本当に好きな人と結ばれる様に、悪役令嬢として立ち回ることを決意する。 目指すは断罪後に亡命し、新たな人生をスタートさせること。 前世の記憶が戻った事で、家族のクズっぷりを再認識する。ならば一緒に破滅させて復讐しようとレティシアには2つの目標が出来る。 上手く計画に沿って悪役令嬢を演じているはずが、本人が気が付かないところで計画がバレ、逆にヒロインと婚約者を含めた攻略対象者達に外堀を埋められる⁉︎ 更に家族が改心して、望んでいない和解もさせられそうになるレティシアだが、果たして彼女は幸せになれるのか⁉︎

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

転生貧乏令嬢メイドは見なかった!

seo
恋愛
 血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。  いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。  これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。 #逆ハー風なところあり #他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜

矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】 公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。 この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。 小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。 だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。 どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。 それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――? *異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。 *「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。

【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。  絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。  今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。  オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、  婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。 ※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。 ※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。 ※途中からダブルヒロインになります。 イラストはMasquer様に描いて頂きました。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

処理中です...