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前編 恋の自覚と両思い
50.レイモンドの過去5/5
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一人の子供の死亡……それにより生活は一変する。悪い方にだ。精神的にも肉体的にも残された家族はやつれ……事情を知る人だらけのその地域では、暮らしていくのも困難になる。
残された弟たちへの影響も大きい。必ず大樹くんは自分を責める。姉を殺したのは自分だ……と。
死を回避して、この世界で生きる。
それが、誰にとっても必ずいいことだ。
家族の誰が俺の立場だったとしても、俺と同じことをするだろう。
それしか――、ない。
「なんで何時間も水分もとらずに付き合うんだよ。ジュースを買うお金を忘れたなら、せめて一時間で帰りなよ……馬鹿だよ……頭悪すぎるよ……隅に水飲み場もあるじゃん……気付こうよ……なんでだよ……なんで……そんな理由で死ぬんだよ……」
緑地公園の卓球場……回数券があるからと、うっかりお金も持たずに彼らは来たようだ。持ってきたお茶も……大樹くんにほとんどあげている。
「どうしてだよ、アリス…………っ」
魔法陣は既に完成している。呪文の詠唱を待つばかりだ。
死因は分からなかった。何日も苦しむような死因ならその前に召喚したいと、数日前からずっと見ていた。夜中も何度も起きて確認していた。今日は何事もない可能性もあって……それならそれで魔法陣は一度消して、また明日形成すればいいと考えていた。
俺はその時を待ちながら……泣くことしかできない自分を呪う。
俺があっちの世界で生きたかった……。今すぐ水を差し出して、自己紹介でもして、偶然同じ中学にいたりして、同じ高校に入って……。
まだ時間はある。死を迎えるのは明日だ。
彼女の時は巻き戻すけれど……水でも置いておこう。
グラスを持ってきて机の上に置く。水はもう少しあとで入れよう。
泣きながら彼女を迎えるわけにはいかない。
深呼吸をして、なんとか平静を保つ。
彼女の体の巻き戻し時間……それを決めた時の、魔女さんとの会話を思い出す。
『アリスを召喚した場合の、彼女のこちらでの寿命は、さすがに教えてもらえない?』
『それは……無理ね~ぇ』
『どっちの寿命が先にくるかは?』
『……何がしたいのかしらぁ?』
『アリスには、できるだけ長生きをしてほしい。彼女の方が俺よりも年が上だ。体の巻き戻しをしてそれだけ寿命が延びるなら……予定より多く巻き戻したい』
無の表情になった魔女さんは、俺とは違う世界を見ているんだろう。
こちらの世界に来てもすぐに死んでしまっては可哀想だ。俺との差が大きれば不自然でない範囲で多く巻き戻そう。俺の方が何十年も早く死ぬのなら、あとのことも考えておかなくてはならない。
『召喚に成功した場合、アリスちゃんの寿命が約二年……あなたより早く来るわ。寿命が延びるかどうかは、こちらでの死因次第よ。寿命は分かるけれど、それ以上の未来を私は見ない。仮定における寿命の変化も、これ以上は見るつもりもないわ』
……二年差なら長く生きられる可能性が高いな。
『それは都合がいいね。教えてよ、正確なその半分の時間を。その時間だけ……俺の寿命を削って彼女の体を巻き戻す。同時に死ねて彼女の寿命も長くなるなら、いいことしかないよね』
『……寿命が延びない死因かもしれないのに? その場合、ただあなたの寿命が約一年削られるだけになるわよ?』
『いいよ、それで』
――アリスに言うつもりはない。
重すぎて……絶対に引いてしまう。
その時が来た。
水をグラスに入れる。
大樹くんがアリスに背を向けて――、アリスはふらふらになりながら、休む場所を探して緑道の中のベンチへと座り……倒れ込む。
実際に死を迎えるのは、まだ先だ。彼女の倒れ込んだ緑道のベンチは、運悪く人通りもない。かなりあとに誰かが気付いて搬送されてといった経過を辿るのだろうけど――、
その時が来ることを俺は知っている。
心を決めると、詠唱を開始した。
◆◇◆◇◆
寿命が削られると、こんなに疲労感があるのか……。
扉の横に座り込み、光魔法で少し回復しておく。激的に回復はできない。それができると休みなく働かされる階級ができてしまうから、神による制限がかかっているんだろう。
本物のアリス、目の前で見るとやっぱりすごく可愛かったけど……目の色も髪の色も変わっていた。別の存在に変えてしまったという自分の罪深さを感じる。
自分が死亡する運命だったこと、元の世界に戻れないこと……それに向き合うのは、もう少しここに慣れてからの方がいい。
――そう思って、軽い感じで説明した。
でも……俺の印象は悪くなっちゃったかな……。
夢だと思っているのなら、好都合だ。できれば、ここで生きていくのもアリだと思ってから、夢ではないのだと自覚してほしい。
彼女を一番幸せにしてあげられるのは、絶対に俺だ。誰より理解しているし、どれだけだって尽くしたい。なんだってしてあげたい。
……毎月俺とキスしなきゃいけないってことにすれば……俺以外の男なんて視野に入らないよね。諦めて、そのうち俺にしておこうって思ってくれるよね。
それでいいのかは、分からないけど……。
やっと、目を背けていたことに向き合える。
俺が彼女から奪ってしまったものに、目を向けられる。
この世界に彼女を召喚するため、考えないようにしていたことに、やっと――――。
バンッと勢いよく扉が開いた。
「レイモンド! あんた、なんてことすんのよ!」
「え……な、何……。ワ、ワンピース似合ってるね……?」
――あーあ……まさか、だよね。
そんなことで体を巻き戻したことがバレるなんてね。一年くらい……大丈夫だと思ったんだけどな。
残された弟たちへの影響も大きい。必ず大樹くんは自分を責める。姉を殺したのは自分だ……と。
死を回避して、この世界で生きる。
それが、誰にとっても必ずいいことだ。
家族の誰が俺の立場だったとしても、俺と同じことをするだろう。
それしか――、ない。
「なんで何時間も水分もとらずに付き合うんだよ。ジュースを買うお金を忘れたなら、せめて一時間で帰りなよ……馬鹿だよ……頭悪すぎるよ……隅に水飲み場もあるじゃん……気付こうよ……なんでだよ……なんで……そんな理由で死ぬんだよ……」
緑地公園の卓球場……回数券があるからと、うっかりお金も持たずに彼らは来たようだ。持ってきたお茶も……大樹くんにほとんどあげている。
「どうしてだよ、アリス…………っ」
魔法陣は既に完成している。呪文の詠唱を待つばかりだ。
死因は分からなかった。何日も苦しむような死因ならその前に召喚したいと、数日前からずっと見ていた。夜中も何度も起きて確認していた。今日は何事もない可能性もあって……それならそれで魔法陣は一度消して、また明日形成すればいいと考えていた。
俺はその時を待ちながら……泣くことしかできない自分を呪う。
俺があっちの世界で生きたかった……。今すぐ水を差し出して、自己紹介でもして、偶然同じ中学にいたりして、同じ高校に入って……。
まだ時間はある。死を迎えるのは明日だ。
彼女の時は巻き戻すけれど……水でも置いておこう。
グラスを持ってきて机の上に置く。水はもう少しあとで入れよう。
泣きながら彼女を迎えるわけにはいかない。
深呼吸をして、なんとか平静を保つ。
彼女の体の巻き戻し時間……それを決めた時の、魔女さんとの会話を思い出す。
『アリスを召喚した場合の、彼女のこちらでの寿命は、さすがに教えてもらえない?』
『それは……無理ね~ぇ』
『どっちの寿命が先にくるかは?』
『……何がしたいのかしらぁ?』
『アリスには、できるだけ長生きをしてほしい。彼女の方が俺よりも年が上だ。体の巻き戻しをしてそれだけ寿命が延びるなら……予定より多く巻き戻したい』
無の表情になった魔女さんは、俺とは違う世界を見ているんだろう。
こちらの世界に来てもすぐに死んでしまっては可哀想だ。俺との差が大きれば不自然でない範囲で多く巻き戻そう。俺の方が何十年も早く死ぬのなら、あとのことも考えておかなくてはならない。
『召喚に成功した場合、アリスちゃんの寿命が約二年……あなたより早く来るわ。寿命が延びるかどうかは、こちらでの死因次第よ。寿命は分かるけれど、それ以上の未来を私は見ない。仮定における寿命の変化も、これ以上は見るつもりもないわ』
……二年差なら長く生きられる可能性が高いな。
『それは都合がいいね。教えてよ、正確なその半分の時間を。その時間だけ……俺の寿命を削って彼女の体を巻き戻す。同時に死ねて彼女の寿命も長くなるなら、いいことしかないよね』
『……寿命が延びない死因かもしれないのに? その場合、ただあなたの寿命が約一年削られるだけになるわよ?』
『いいよ、それで』
――アリスに言うつもりはない。
重すぎて……絶対に引いてしまう。
その時が来た。
水をグラスに入れる。
大樹くんがアリスに背を向けて――、アリスはふらふらになりながら、休む場所を探して緑道の中のベンチへと座り……倒れ込む。
実際に死を迎えるのは、まだ先だ。彼女の倒れ込んだ緑道のベンチは、運悪く人通りもない。かなりあとに誰かが気付いて搬送されてといった経過を辿るのだろうけど――、
その時が来ることを俺は知っている。
心を決めると、詠唱を開始した。
◆◇◆◇◆
寿命が削られると、こんなに疲労感があるのか……。
扉の横に座り込み、光魔法で少し回復しておく。激的に回復はできない。それができると休みなく働かされる階級ができてしまうから、神による制限がかかっているんだろう。
本物のアリス、目の前で見るとやっぱりすごく可愛かったけど……目の色も髪の色も変わっていた。別の存在に変えてしまったという自分の罪深さを感じる。
自分が死亡する運命だったこと、元の世界に戻れないこと……それに向き合うのは、もう少しここに慣れてからの方がいい。
――そう思って、軽い感じで説明した。
でも……俺の印象は悪くなっちゃったかな……。
夢だと思っているのなら、好都合だ。できれば、ここで生きていくのもアリだと思ってから、夢ではないのだと自覚してほしい。
彼女を一番幸せにしてあげられるのは、絶対に俺だ。誰より理解しているし、どれだけだって尽くしたい。なんだってしてあげたい。
……毎月俺とキスしなきゃいけないってことにすれば……俺以外の男なんて視野に入らないよね。諦めて、そのうち俺にしておこうって思ってくれるよね。
それでいいのかは、分からないけど……。
やっと、目を背けていたことに向き合える。
俺が彼女から奪ってしまったものに、目を向けられる。
この世界に彼女を召喚するため、考えないようにしていたことに、やっと――――。
バンッと勢いよく扉が開いた。
「レイモンド! あんた、なんてことすんのよ!」
「え……な、何……。ワ、ワンピース似合ってるね……?」
――あーあ……まさか、だよね。
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