愛して欲しいと言えたなら

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後悔

後悔・・・その17

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「えっ・・・?」

「なのに、自分ではどうしたらいいのか分かんなくて。そのくせ、私には分かるだろ?って、一人で勝手に思い込んでる困ったふーちゃん!ちゃん!」

夏樹さんが雪子に嫌われたくないって、いったい、どういうことなの?
今までの経過を見ている限りでは、嫌われたくないって思うとしたら、
それは夏樹さんではなくて、雪子の方なんじゃないの?

もし、雪子が夏樹さんに嫌われたりしたら、メールだって出来なくなってしまうわけだし。
それでなくても、メル友関係なんて、ちょっとでも相手の機嫌をそこなえば、すぐにリセットされちゃうわけでしょ?

人妻である今の雪子の立場を考えたら、あえて旦那にバレてしまうかもしれないリスクを承知で、
夏樹さんとメールをしてるわけだから、雪子の方が嫌われたくないって思うのが普通でしょ?
どっちかっていうと、雪子の方が夏樹さんに合わせているんじゃないの?

などと、珍しく思考回路を作動させている裕子の前で、ミルクティーがなくなったのが気になるのか、気がつくと、空になったカップの中でスプーンで遊んでいる雪子である。

「ねえ~、雪子・・・?」

「な~に・・・?」

「雪子の、その絶対的な自信ってどこから来てるの?」

「自信って・・・?」

「夏樹さんが雪子に嫌われたくないってところよ」

「ふーちゃんが裕子とメールをしなくなったからだよ」

「いや・・・それは・・・」

「ふーちゃんは、私のためじゃなくて、裕子のためにって言ったんでしょ?」

「えっ・・・?ちょっと、雪子?なんで分かるのよ」

「はは~ん・・・。やっぱり・・・」

「やっぱりって・・・?」

「ふーちゃんらしいな~って思って・・・」

雪子には普通の会話らしいのだが、裕子にとっては、それは普通の会話ではなかった。
というより、裕子にしてみれば、不思議な会話としか思えないのである。

夏樹が、裕子に何かを言ったことを普通に当ててみたかと思えば、
その時の夏樹の言葉さえも、雪子は普通に話してしまうのである。

雪子には、夏樹さんの考えていることが手に取るように分かるのかしら?
やっぱり、この二人は・・・。と、思ってた矢先に雪子が変なことを、しかも普通に口にした。

「ふーちゃんはね、私のことは、ただのメル友の一人としか思っていないんだよ」

考えてもみなかったというか、まるっきり想像していなかったというか・・・。
そんな雪子の言葉に「ちょっと待ちなさい」と、返すはずの言葉が出てこない裕子を
気にすることもなく、マスターにミルクティーを注文しながら一人で微笑む雪子である。

「ちょっと、雪子・・・。それじゃ話がかみ合わないじゃないんじゃないの?」

「どうして・・・?」

「どうして?って。だって、さっき夏樹さんが雪子に嫌われたくないって言ってたじゃないの?」

「そうだよ・・・」

「それなのに、今度は、夏樹さんは雪子のことを、ただのメル友の一人としか思ってないなんておかしいでしょ?」

「おかしくないよ・・・」

「どうしてよ・・・?」

「ふーちゃんにとって、私は、過去の人ってことだよ」

「過去の人・・・?」

「うん。だから、このまま、私に嫌われないように生きていきたいって思ってるんだよ」

雪子に嫌われないように生きていきたい・・・?
だから、夏樹さんは年末のあの夜は、あんなに雪子と仲が良かったってことなの?
「あんな別れ方をしたから・・・」・・・そういえば雪子、前にそんなことを言ってたわね。

夏樹さんにとって雪子との別れは、ただ辛いだけの過去であり、苦い思い出の記憶のまま終わっていたから、「あんな別れ方・・・」そんな記憶の中の雪子のままでいて欲しくなかった。

雪子に嫌われたままで人生を終わりにしたくはなかったから・・・。
それが夏樹さんの本心ってことなのかしら?
それじゃ、夏樹さんは、それだけのことのために私とメールすることをやめたっていうの?
ううん・・・違うわね。夏樹さんにとってはそれだけのことではないのね。きっと・・・。

夏樹さんにとって、雪子と過ごした過去、そして、雪子と別れた時の記憶は、
想い出の中でも、そして、これから生きていく訪れては過ぎていく季節の中でも、
雪子という一人の女性が、夏樹さんの中ではそれだけ大きな存在になってしまっている。

雪子は、そう言いたいの?
でも・・・雪子は、どうなの・・・?
それじゃ、雪子も、夏樹さんと同じように思ってるの・・・?

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