196 / 386
その手を離さないで
その手を離さないで・・・その16
しおりを挟む
意外な問いかけに、戸惑いの表情を見せるのではと思っていた裕子だったが、
愛奈は、別に驚く事もなく、その問いかけを、静かに受け止めていた。
おそらく、愛奈には、裕子が言葉にした、その問いかけが、何を意味するのか分かるのだろう。
愛奈は、少しだけ寂しそうな笑みを浮かべると、カップに残っているミルクティを口にした。
「ねえ、愛奈ちゃん?愛奈ちゃんは好きな人とかっているの?」
正直、今の裕子には、雪子の想いや、願いを、どういう風に愛奈に伝えたらいいのか分からない。
それでも、さっきの裕子の問いかけに動揺しなかったのだから、
愛奈も愛奈なりに、雪子との暮らしの中で何かを感じ取っていたのだろうと思った。
そんな愛奈に優しく語りかけようとした矢先、何かを思い出したらしく、急にお目目を丸くした愛奈が・・・。
「実は私、お母さんに誤解されちゃったみたいなんです」
「誤解・・・?」
「はい。私が、同性愛者だって思われたみたいなんです」
「えっ・・・?愛奈ちゃんって、そうだったの?」
「違いますってば!だから今、誤解されちゃったって!」
「ああ、そうね。そうだったわね。でも、どうして、愛奈ちゃんがそうなっちゃったの?」
「実は、あまりにも、お母さんの要塞が鉄壁過ぎたので、病院の駐車場で見ちゃった事を言っちゃったんです」
「病院の駐車場って、もしかして?」
「はい。お母さんが知らない女の人とって」
「あら・・・それ、言っちゃったの」
「だって、お母さんったら、何を言っても、全然、動じないんだもん!」
「それで、病院の駐車場での出来事を言ったら?」
「ダメでした。あえなく玉砕・・・。というか、いきなりのカウンターが」
「カウンター・・・?」
「(別にいいのよ、誰を好きになっても。お母さんは愛奈さんの見方だから・・・ね)って、なぜか、語尾に、ねっ。て、付けてのカウンターでした・・・」
「あははっ・・・」
「笑い事じゃないですってば。それから、だから、彼氏を作らなかったのね?みたいな、追撃が飛んできちゃうし!」
「あははっ・・・」
「でもね、私ね、その時に、確信したんです!」
「確信?何の確信?」
「いつもの物静かなのんびり屋さんは、実は、お母さんが演じているんだって!」
「演じているって?どうして、そうなるの?」
「裕子さんも知っていたんでしょ?」
えっ?・・・というか、どうして、そこで、私に振るの?
「う~ん・・・何て言ったらいいかしら?」
「別に気にしていませんから、大丈夫ですよ」
「ううん、そうじゃないのよ。愛奈ちゃんが言った事は、私も愛奈ちゃんと同じで知らなかったのよ。そんな雪子を知ったのは半年くらい前なの。それまでは、全然、分からなかったのは本当よ」
「半年くらい前・・・ですか?」
「ええ、本当よ。確かに、雪子の事で愛奈ちゃんに言えない事はあるわよ。でも、愛奈ちゃんに嘘は言わないわよ。愛奈ちゃんは勘が鋭いから、嘘をついてもすぐにバレちゃうしね」
「へへっ・・・信じてあげる」
信じてあげる・・・って、あのね、これでも、私の方がずっと年上なんですけど・・・あれ?
ちょっとまって・・・今の愛奈ちゃんの言い方って・・・?
まるで、雪子の言い方・・・まさかね・・・。
でも、愛奈ちゃんが、雪子の娘であるのは間違いないのよね・・・という事は・・・?
裕子は、愛奈の言葉に、少しの疑問が頭をよぎっていくのを感じた。
いや、少しの疑問というよりは、どちらかといえば、それは、不安なのかもしれない。
それは、まだ微かな見えそうで見えない、そこはかとなく漂う香りのような。
不意に垣間見えた不安に、夏樹の遺伝子が愛奈の中にあって欲しいと・・・。
愛らしい笑みで笑う愛奈を見ていると、そう願ってしまう裕子であった。
愛奈は、別に驚く事もなく、その問いかけを、静かに受け止めていた。
おそらく、愛奈には、裕子が言葉にした、その問いかけが、何を意味するのか分かるのだろう。
愛奈は、少しだけ寂しそうな笑みを浮かべると、カップに残っているミルクティを口にした。
「ねえ、愛奈ちゃん?愛奈ちゃんは好きな人とかっているの?」
正直、今の裕子には、雪子の想いや、願いを、どういう風に愛奈に伝えたらいいのか分からない。
それでも、さっきの裕子の問いかけに動揺しなかったのだから、
愛奈も愛奈なりに、雪子との暮らしの中で何かを感じ取っていたのだろうと思った。
そんな愛奈に優しく語りかけようとした矢先、何かを思い出したらしく、急にお目目を丸くした愛奈が・・・。
「実は私、お母さんに誤解されちゃったみたいなんです」
「誤解・・・?」
「はい。私が、同性愛者だって思われたみたいなんです」
「えっ・・・?愛奈ちゃんって、そうだったの?」
「違いますってば!だから今、誤解されちゃったって!」
「ああ、そうね。そうだったわね。でも、どうして、愛奈ちゃんがそうなっちゃったの?」
「実は、あまりにも、お母さんの要塞が鉄壁過ぎたので、病院の駐車場で見ちゃった事を言っちゃったんです」
「病院の駐車場って、もしかして?」
「はい。お母さんが知らない女の人とって」
「あら・・・それ、言っちゃったの」
「だって、お母さんったら、何を言っても、全然、動じないんだもん!」
「それで、病院の駐車場での出来事を言ったら?」
「ダメでした。あえなく玉砕・・・。というか、いきなりのカウンターが」
「カウンター・・・?」
「(別にいいのよ、誰を好きになっても。お母さんは愛奈さんの見方だから・・・ね)って、なぜか、語尾に、ねっ。て、付けてのカウンターでした・・・」
「あははっ・・・」
「笑い事じゃないですってば。それから、だから、彼氏を作らなかったのね?みたいな、追撃が飛んできちゃうし!」
「あははっ・・・」
「でもね、私ね、その時に、確信したんです!」
「確信?何の確信?」
「いつもの物静かなのんびり屋さんは、実は、お母さんが演じているんだって!」
「演じているって?どうして、そうなるの?」
「裕子さんも知っていたんでしょ?」
えっ?・・・というか、どうして、そこで、私に振るの?
「う~ん・・・何て言ったらいいかしら?」
「別に気にしていませんから、大丈夫ですよ」
「ううん、そうじゃないのよ。愛奈ちゃんが言った事は、私も愛奈ちゃんと同じで知らなかったのよ。そんな雪子を知ったのは半年くらい前なの。それまでは、全然、分からなかったのは本当よ」
「半年くらい前・・・ですか?」
「ええ、本当よ。確かに、雪子の事で愛奈ちゃんに言えない事はあるわよ。でも、愛奈ちゃんに嘘は言わないわよ。愛奈ちゃんは勘が鋭いから、嘘をついてもすぐにバレちゃうしね」
「へへっ・・・信じてあげる」
信じてあげる・・・って、あのね、これでも、私の方がずっと年上なんですけど・・・あれ?
ちょっとまって・・・今の愛奈ちゃんの言い方って・・・?
まるで、雪子の言い方・・・まさかね・・・。
でも、愛奈ちゃんが、雪子の娘であるのは間違いないのよね・・・という事は・・・?
裕子は、愛奈の言葉に、少しの疑問が頭をよぎっていくのを感じた。
いや、少しの疑問というよりは、どちらかといえば、それは、不安なのかもしれない。
それは、まだ微かな見えそうで見えない、そこはかとなく漂う香りのような。
不意に垣間見えた不安に、夏樹の遺伝子が愛奈の中にあって欲しいと・・・。
愛らしい笑みで笑う愛奈を見ていると、そう願ってしまう裕子であった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
12
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる