愛して欲しいと言えたなら

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対価の罪

対価の罪・・・その8

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「ちょっと、愛奈ちゃん?」

愛奈の言葉に、さすがの裕子も、一瞬、驚いてしまった。

いくらなんでも、それはちょっと・・・そうでなくても、つい、1時間くらい前に、
雪子がいなくなったって、私に連絡をよこしたばかりだっていうのに。

雪子がいなくなった心配よりも、その雪子の逃亡先であるだけでなく、
夏樹さんは、雪子に離婚届を残して家を出ていく決断をさせた張本人なのよ?

ただし、不可抗力が多分にあるけど・・・
でも、そんな夏樹さんと話をしたいだなんて・・・。

普通なら、その張本人ある夏樹さんの事を、憎むとか恨むとかするのが普通なんじゃないの?
それなのに、そんな今の状況を、どこか楽しんでいるかのように興味津々な愛奈ちゃんって、
いったい、何を考えているのかしら?

「裕子・・・愛奈ちゃんに代わってあげたら?」

「えっ?・・・でも・・・」

「言ったでしょ?愛奈ちゃんは、まだまだ子供だって・・・」

「そうは言っても・・・」

「愛奈ちゃんは、愛奈ちゃんなりに不安なのよ・・・」

夏樹さんは知らないから、そんな悠長な事を言えるかもしれないけど・・・
今、私のすぐそばで興味津々なお目目でしっぽふりふりしてる子猫みたいな愛奈ちゃんなのよ?

私が見る限り、不安なんて言葉は、
どこか異国のおとぎ話の世界にでも置いてきたとしか思えないんですけど・・・。

「ねえ?今、あんたのすぐ隣で、愛奈ちゃんがしっぽふりふりしてるんじゃないの?」

「えっ?どうして分かったの?」

「やっぱりね。きっと、愛奈ちゃんは、あやつに似たのね」

「どうして?」

「あやつもね、不安になると、子猫みたいにしっぽをふりふりするのよ」

「うそ・・・?」

「あんたも、あやつがあたしと一緒にいるところを何度も見てたでしょ?どうだった?その時のあやつは?」

「あっ、そういえば・・・」

「まるで、ご主人様がいなくならないように、一生懸命に興味津々なお目目で絡んで甘えようとする子猫に似てない?」

「それじゃ・・・雪子も・・・?」

「可愛いでしょ、雪子って・・・」

あっ、あやつから雪子に変わった・・・。
でも、雪子って言った今の声は、いつも言ってる夏樹さんの声と、どこか少し違ってるような。

裕子は、夏樹と話しながら、そばで、うるうるしている愛奈をチラッと見ると・・・
なるほどね~。言われてみれば、確かに夏樹さんの言う通りかもしれないわね。

「愛奈ちゃん?夏樹さんとお話してみる?」

「うん、してみる!してみる!」

「でも、その代わりスピーカーホンでよ、いい?」

「えええ===っ!どうしてですか?」

「相手が夏樹さんだと、何を言い出すか分からないから心配なのよ・・・真面目に」

「う~ん・・・仕方ないな~」

おいおい・・・。
しかし、ほんとに大丈夫かしら?

「夏樹さん、それじゃ愛奈ちゃんに代わるわね?スピーカーホンだけどいい?」

「う~ん・・・仕方ないな~」

おおお===い!
あんたたちは人の心配も少しは考えなさいっていうの!まったく、もう~!

そうじゃなくても、愛奈ちゃんが夏樹さんと話しをしたなんて、
もし、雪子が知ったらって思っただけで、私としては、変な冷汗が出来ちゃうっていうか、
ある意味、ゾッとするっていうか・・・。

裕子は、スピーカーホンに切り替えたスマホを渋々というよりも、恐る恐る愛奈に手渡してみる。
愛奈は、嬉しそうにスマホを手にすると、とんでもない言葉を口にした。

「もしもし夏樹さんですか?夏樹さんの娘の愛奈です!」

あっ・・・
何を言い出すか分からなかったのは、愛奈ちゃんの方だったみたい。

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