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愛せない感情
愛せない感情・・・その18
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冷めかけたコーヒーに合わせる視線に引き寄せられるように夏樹が煙草に火をつける。
「涙・・・流れないんでしょう?」
直美は、京子の孤独と寂しさ、そして、どうにもならない悔しい感情に涙が流れないのではなく、
その全てを知り過ぎている夏樹の前で、見え隠れさえしてはくれない出口のない未来に、
夏樹が、夏樹自身に生きてきた後悔を認めさせない非情な意思が閉ざす施錠が見せる
後悔と悔いは違うのだと言い切らなければならなかった京子への想いの儚さを知らされた。
何をどれだけ否定しても、誰をどれだけ傷つけても、
朽ち果てていくだけの夏樹との愛の日々を、京子が、その手から離さない限り、
後悔を拒絶し続ける夏樹の感情を、誰も受け止めてはいけないのだと知った直美は、
知る前には戻れない1秒の境界線が、流れるはずの涙さえ否定してしまう無情さに
肯定する言葉を探せないままコーヒーカップを見つめていた。
「目が見えなくなるかもしれないって恐怖は、他のどの恐怖とも違うのよね」
煙草の灰を灰皿に落としながら夏樹が言葉を続ける。
「たとへ、目が見えなくなる確率が限りなく低くても、その言葉の怖さは、それを知らされた人にしか分からない怖さ、そして、その人の未来、その全てを奪い去ってしまう。見えていた景色が見えなくなる恐怖って、自分の生きて来た人生のその全てを否定されてしまうような錯覚さえ覚えてしまうから」
「京子は、ずっと、そんな中で毎日を過ごしていたなんて、私は全然知らなくて・・・」
「あんただけじゃないわよ。子供たちも知らないはずよ。京子って、そういうの誰にも言わないから」
「それじゃ・・・夏樹さんにだけ?」
「きっとね・・・」
「そんな・・・私、何も知らなかったから、京子に・・・」
「それでいいのよ!京子ってね、誰かに同情されるのが大っ嫌いな性格してるから」
「えっ・・・?でも・・・」
「そういう弱いところは誰にも知られたくないみたいよ。他のところはどんどん同情しまくって欲しいって騒いでいたのにね。京子って可愛いでしょ?」
直美は、やっと分かりかけてきたと思っていた京子の隠す悲しみや想いが、遠くへ離れていくのを感じながら、
そんな京子のやり場のない日々の状況よりも、それを知っていた夏樹の心情の方が怖かった。
「これがあたしが知っている京子の全て。この先、京子と、どう向き合うのかはあんたが決めなさい」
「すいません、ちょっと混乱しているっていうか何ていうか・・・です。はい。」
「あははっ!その分なら大丈夫そうね!」
「へっ・・・?」
「ほら?ね!いつものあんたのままじゃない?」
「そうかな・・・?」
「でも、京子は幸せ者よね?あんたみたいなおバカがそばにいてくれるんだからさ」
「いや~・・・へっ?」
「損得勘定よりも、先に感情に触れようとするあんたって、あたしは好きよ!」
夏樹の言葉に、喜んでいいのか?それとも照れた方が良いのか?少し迷う直美が見せる仕草に、
直美の膝の上にいるカバのぬいぐるみが、「耳をクルクル回すのはやめて!」と、嬉しそうに訴えているようである。
そんなカバのぬいぐるみを優しい瞳で見つめている夏樹に直美は問いかけてみる。
「それでも夏樹さんは雪子さんを選ぶのですね・・・?」
「涙・・・流れないんでしょう?」
直美は、京子の孤独と寂しさ、そして、どうにもならない悔しい感情に涙が流れないのではなく、
その全てを知り過ぎている夏樹の前で、見え隠れさえしてはくれない出口のない未来に、
夏樹が、夏樹自身に生きてきた後悔を認めさせない非情な意思が閉ざす施錠が見せる
後悔と悔いは違うのだと言い切らなければならなかった京子への想いの儚さを知らされた。
何をどれだけ否定しても、誰をどれだけ傷つけても、
朽ち果てていくだけの夏樹との愛の日々を、京子が、その手から離さない限り、
後悔を拒絶し続ける夏樹の感情を、誰も受け止めてはいけないのだと知った直美は、
知る前には戻れない1秒の境界線が、流れるはずの涙さえ否定してしまう無情さに
肯定する言葉を探せないままコーヒーカップを見つめていた。
「目が見えなくなるかもしれないって恐怖は、他のどの恐怖とも違うのよね」
煙草の灰を灰皿に落としながら夏樹が言葉を続ける。
「たとへ、目が見えなくなる確率が限りなく低くても、その言葉の怖さは、それを知らされた人にしか分からない怖さ、そして、その人の未来、その全てを奪い去ってしまう。見えていた景色が見えなくなる恐怖って、自分の生きて来た人生のその全てを否定されてしまうような錯覚さえ覚えてしまうから」
「京子は、ずっと、そんな中で毎日を過ごしていたなんて、私は全然知らなくて・・・」
「あんただけじゃないわよ。子供たちも知らないはずよ。京子って、そういうの誰にも言わないから」
「それじゃ・・・夏樹さんにだけ?」
「きっとね・・・」
「そんな・・・私、何も知らなかったから、京子に・・・」
「それでいいのよ!京子ってね、誰かに同情されるのが大っ嫌いな性格してるから」
「えっ・・・?でも・・・」
「そういう弱いところは誰にも知られたくないみたいよ。他のところはどんどん同情しまくって欲しいって騒いでいたのにね。京子って可愛いでしょ?」
直美は、やっと分かりかけてきたと思っていた京子の隠す悲しみや想いが、遠くへ離れていくのを感じながら、
そんな京子のやり場のない日々の状況よりも、それを知っていた夏樹の心情の方が怖かった。
「これがあたしが知っている京子の全て。この先、京子と、どう向き合うのかはあんたが決めなさい」
「すいません、ちょっと混乱しているっていうか何ていうか・・・です。はい。」
「あははっ!その分なら大丈夫そうね!」
「へっ・・・?」
「ほら?ね!いつものあんたのままじゃない?」
「そうかな・・・?」
「でも、京子は幸せ者よね?あんたみたいなおバカがそばにいてくれるんだからさ」
「いや~・・・へっ?」
「損得勘定よりも、先に感情に触れようとするあんたって、あたしは好きよ!」
夏樹の言葉に、喜んでいいのか?それとも照れた方が良いのか?少し迷う直美が見せる仕草に、
直美の膝の上にいるカバのぬいぐるみが、「耳をクルクル回すのはやめて!」と、嬉しそうに訴えているようである。
そんなカバのぬいぐるみを優しい瞳で見つめている夏樹に直美は問いかけてみる。
「それでも夏樹さんは雪子さんを選ぶのですね・・・?」
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