Wizard Wars -現代魔術譚-

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セクション1『魔術学園2046篇』

第40話『炎刃乱舞』

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 先手を取ったのは、日向。

 空間中に収束させた魔力を殴り抜く術式起動動作モーションによって、猛る豪炎のレーザーを撃ち出す。

 火属性攻撃術式

『戟衝破』

 天音の『爆速弾エクスプロズブラスト』にも匹敵する速度で放たれたその一撃を、伊織は抜き放ち振り翳した一刀を以て迎え撃つ。



 退魔一刀流・『峡谷』



 振り下ろされた、地をも砕き割るかの如き豪剣。熱線が真っ二つに両断されると同時に、轟く爆音が開戦の狼煙。

 高速移動で距離を詰めつつ、上空から日向の更なる連撃が投射される。

 火属性魔力×形成術式

『散輪破』

 降り注ぐ無数の炎輪を伊織の剣が一つ残らず叩き墜とすが、その時既に日向の姿は彼の視界から消え失せていた。



 忍法『炎隠遁』。

 日向が祖父から教わった『忍法』の内、『隠形』と呼ばれる体技の一つ。

 その場に残した魔力の気配で視線と意識を誘導し、景色に紛れ消えた次の瞬間には相手の死角へ回り込んでいる。



 背後から迫る攻撃の気配に、伊織は振り向き様の一撃を叩き込んだ。

 火属性魔力×強化術式『炎撃』

 退魔一刀流・『打鐘』

 繰り出された日向の炎拳を、柄頭の打突が迎撃する。鬩ぎ合う双方の威力は、炸裂する『衝撃』へと転じ互いを大きく弾き飛ばした。



 開始早々に繰り広げられる巧みな戦闘技術の応酬に、会場のボルテージは一気に跳ね上がる。しかし響く歓声の中で、伊織は剣呑な眼を向けながら日向へ刃を突き付けた。

「オイ……眠てェ戦いさせんじゃねェ。出せよ、『形態変化』」
「……アレ結構疲れんだよな。使い所考えねーとすぐバテちまうんだわ」

 日向はそれを気に留めた様子も無く、首を鳴らしながら平然と返答する。



「フザけやがって……まァ好きにしろ。使う気が無ェなら……引き摺り出してやるだけだ」



 ◇◇◇



「……なーんか日向君、あんまし動きが良くないね。やっぱ疲れ残ってんのかな?」

 観覧席からフィールドを見下ろしていたアランが、暫し考え込んでいた後にそう零す。

 伊織を相手に激しい戦闘を展開していた日向だったが、本調子の状態と比べ僅かながらもパフォーマンスが低下しているように見えた。同様の違和感は隣の士門も感じていたようで、彼女に続いて口を開く。

「まァ、コイツと派手に戦り合ったんが昨日の今日やからなァ。体力はともかく、まだ魔力が完全に戻り切っとらんのとちゃうか?」
「だな。それに春川のあの形態変化って多分、天堂さんの『斬界』と同じで大量の魔力を凝縮させてんだろ?そんな燃費悪ィ戦い方してりゃ、すぐガス欠になりそうなモンだけどな」

 亜門を指し示しつつそう口にした士門に同意しながら、日向の『斬蒼炎』の魔力消費量について湊が言及していた。



 ◇◇◇



「――――今の伊織アイツには、一刀流と体術だけじゃなく二刀流に飛斬改式もある。戦術の数が増えればそんだけ、攻撃も防御も幅が広がるからな。相手はその都度対応してかなきゃならねェ」
「うーん……日向君にとっては、厳しい戦いになるって事だね……」

 蒼の厳しい見立てに、日向の戦いを見ていた未来が小さく唸る。

「……それはどうだろうな」

 しかしその時、静観していた諸星が不意に声を上げる。



「御剣の戦術は確かに脅威だが……自分に不利な戦況の中で、突破口を見つけ出すのが春川アイツの持ち味だろう」



 ◇◇◇



 伊織の驚異的な身体能力は、日向の体術をも凌駕する。これまで幾度となく彼と戦って来た経験上、近接戦闘に持ち込んでも恐らく勝ち目は薄い。ならば――――



「ブッ、飛べや!!」

 放出した膨大な魔力を手掌操作で制御し、渦巻く嵐を発生させる。

 火属性攻撃術式

『豪嵐破』



 ――――退魔一刀流術式を斬る剣術対応カバー出来ない程の、広範囲かつ大規模な攻撃で圧倒する。

 日向が巻き起こした炎の竜巻が、伊織を空へと吹き飛ばした。



 しかし空中で体勢を崩されながらも、伊織の眼は地上の日向を捉え逃さない。

「甘ェんだ……よッ!!」

 鋭く振り抜かれる、一刀。



 飛斬改式剣術・『鎌風』

 上空から撃ち込まれた伸張斬撃が、術式を発動した直後の日向へと寸分狂わず命中した。



「つッ……やるなァ……!!」

 不安定な体勢からでも、的確に相手を撃ち抜く技術の高さ。抉るような斬撃を腹部に叩き込まれつつも、日向は感心の声を上げながら転がるように地を疾駆する。



 一方で伊織は、巻き込まれた豪嵐破に内側から渾身の連続剣撃を繰り出した。

 内部から炸裂した凄まじい威力の剣圧に、魔力の竜巻は瞬く間に弾け散り消し飛ばされる。そしてそこから姿を現した伊織は、周囲を旋回するように疾走していた日向へと立て続けに斬撃を撃ち放った。

『鎌風・参連』

 迫り来る三連斬の内、最初の二発を左右へのステップで躱し、最後の一発を渾身の蹴りで叩き散らす。しかし日向の視線の先では、伊織がを取っていた。

 それは、刺突を繰り出す直前の"平青眼"。



 ――――『鎌風』以外の技の『型』自体は、東帝戦前に既に完成していた。そして結城との戦いの中で掴んだ成功のイメージが、更なる実現性インスピレーションを掻き立てる。

 放たれるのは、鎌風より更に速く鋭い『突き』の一撃。



 飛斬改式剣術・『貫道カンドウ

 空間内に満ちる魔力を、穿ち貫く"飛ぶ刺突"。飛斬改式を更に応用した新たな派生剣技は、唸る槍撃の如く日向へと叩き込まれた。



 ◇◇◇



 別々の場所から、戦場を見下ろしていた亜門と蒼。



(何やねん……完全に守り入っとるやんけ。ビビっとんか?)
(まァ、伊織と近接で戦り合いたくねェのは分かるが……その間合いはお前にとっても不利だろうよ)



 至近距離での戦闘になれば、恐らく優勢となるのは伊織の方だろう。そして日向がその状況接近戦を警戒している事は、傍から見ても明らかだった。

 いずれにせよ、彼等二人の心中にあった日向の戦闘に対する印象は一つ。



((――――))



 ◇◇◇



「……チマチマと遠距離一辺倒。形態変化は魔力を喰うから使わねェ。……随分と打算的な戦い方スタイルに変わったな、お前」

 日向を吹き飛ばした伊織は、剣の峰で肩を叩きながら吐き捨てるようにそう告げる。

「……言いてェコトがあんならもっと分かり易く言えや。どいつもコイツもまどろっこしいンだよ」
「……だったらハッキリ言ってやる」

 皮肉めいた言い回しに苛立った声を返す日向だったが、対する伊織は刀を腰の鞘へと収めながら口を開いた。



「――――ナメてんじゃねェよ」
「……あ?」
「間合いに入らなかったら俺に勝てるとでも思ったか?ナメられてるよォにしか感じねェっつったんだよ」



 示された、静かな怒り。そして会話を打ち切った伊織は、再び一刀を強く握り込んだ。



「もういい。――――フヌケと話すこたァ何も無ェ」

 その言葉を最後に、繰り出される抜刀一閃。撃ち放たれる剛速の斬風。





 刹那。



『――――勝つイメージが無きゃ、勝てねェぞ』



 最強の男が日向へと告げた、その言葉が不意に思い起こされた。同時に視線の先で、伊織の姿に蒼の影が重なる。



 彼等の目に一様に宿るのは、恐れを払い退ける『信念』。己の力を疑わない事。





 無意識下で、身体が動く。

 気付いた時には日向の右手は――――斬撃を掴み止め、握り潰していた。



「そうだな……悪かったよ。今までの俺は――――確かに"本気"じゃなかった」

 そう言い放つ日向の全身から立ち昇るのは、鋭く弾け爆ぜる蒼い炎。

 火属性魔力×強化術式

『形態変化・斬蒼炎』



 一方で彼と対峙する伊織は、打って変わって楽しげな表情で得物を構え直す。

「やっとその気になったかよ。……だったら俺もこっからは――――大盤振る舞いだ」
「OK。お互い出し惜しみはナシで行こう」



 そして日向が振り抜いた右脚から、蒼炎のレーザーが蹴り出される。その一撃を伊織は、再び繰り出した刺突の刃で迎え撃った。

 火属性攻撃術式『"瞬迅"戟衝破』

 飛斬改式剣術・『貫道』



 二つの『槍』が真っ向から衝突するが、日向はその瞬間既に更なる追撃魔術を構築していた。



 火属性魔力×形成術式

『"瞬迅"大輪破』

 超スピードで撃ち込まれる、蒼炎の斬輪。その一撃に対し、伊織は――――『二本目』の刀へと手を掛ける。

 一瞬の内に抜き放たれ、振り下ろされる双刃。



 退魔"二刀流"・『瀑布』

 叩き付けられた剣撃が、巨大な炎輪を両断する。轟音と共に爆風が吹き荒れるが、その時日向の姿はまたしても掻き消えていた。



 二つの飛び道具は布石。背後から迫り来る気配。

 高速移動で伊織の死角へと回り込み、一気に間合いを詰め肉薄する。



 火属性魔力×強化術式

『"瞬迅"炎撃』

 斬撃を纏った炎の拳が、唸りを上げて襲い掛かった。



(よォやっとらしなって来たやんけ……腹ァ括ったみたいやな)
(そうだ……『弱点』を庇うんじゃねェ。『強み』を押し付けろ――――!!)

 戦場を見下ろす、亜門と蒼の視線の先で。互いが最も力を発揮する領域フィールド――――クロスレンジの格闘戦インファイトで、日向と伊織が激突する。



 ◇◇◇



「近接戦闘なら、御剣君に分があると思ってたけど……あの形態変化で押し切る事が出来れば、春川君にも勝機はあるかもね」
「……そう甘くはないような気もするがな」

『加速』性質を齎す強化形態によって、伊織を相手に互角の戦いを繰り広げていた日向。あくまで俯瞰的な口調でそう推察する雪華だったが、奏がその声に応じつつ分析を交えた私見を述べる。



「昨日の亜門についても言える事だが……あの手のスピードタイプは、短期決戦で相手を倒せるかどうかが肝だ。もし仕留め損なえば、時間が経つ程に相手の眼が慣れていく。ましてや敵は御剣……長引けば不利になる一方だろうな」



 ◇◇◇



「なんか、アイツら見てると……龍臣と恭夜の大喧嘩思い出すわ」
「ふふっ、確かに……あの頃はみんな激しかったよね」

 冴羽の口からふと零れた昔を懐かしむような言葉に、篠宮が微かに笑いながら頷く。

「……二年後には、戦国達の世代をも超える可能性がある。奴等はそれだけの潜在能力を秘めているだろう」
「黄金時代の再来、ってワケだ……未来は明るいね」

 続く万丈が示した日向達の成長性ポテンシャルの高さに、久世もまた興味深そうな視線を向けつつ同意していた。



 ◇◇◇



「やっぱり凄いね、あの二人……同学年とは思えないな……」
「クソ……俺もアイツらと戦いたかった……!!」

 双方一歩も譲らぬ互角の接戦を、沙霧と創来は息を呑んで注視している。



「……御剣を応援しているのかい?」

 その二人の後ろで啓治から唐突な問い掛けを受けた天音は、あくまで冷静な口調を崩さず訊き返した。

「……いきなり何よ」
「いや……さっきもアイツに会いに行っていたみたいだから。もし違ったならすまない」
「ッ……」

 気づかれていないと思っていただけに、僅かな気恥ずかしさを押し殺しつつも無言の肯定を示す。

「まァ正直、6:4……いや、7:3と言った所かな。多分、勝つのは御剣だろう」
「……意外ね。アンタがあいつを認めるって」
「まァ、気に食わない事に変わりは無いけどね……実力に関してだけは本物だろう」

 シードを打ち破った勢いのまま日向が圧倒するかと思われていたが、やはりその追い風をも押し返す程の力を伊織は有していた。戦況は拮抗しているように見えて、伊織の剣速は斬蒼炎の速度を捉え凌駕し始めている。

 着実に日向を追い詰めつつある事を、啓治のみならず学園の実力者達もまた察知していた。



 しかし。

「けれど――――はいつだって、俺達の想像を超える事態を引き起こす。どんな結果になってもおかしくはない……この戦いの行方がどうなろうと、驚きはしないよ」

 日向はこれまで何度でも、予想を覆す出来事を起こして来た。



「……確かに、が予測不能の奇想天外男ってコトについては大方同意だけど……」

 自分達とは違う『何か』を持った、特別な人間。測り知れない可能性を持った未知数の存在である事を認めつつも、天音は啓治へと言葉を続ける。



「もしそんな人間を倒せるとしたら――――私には、一人しか思い浮かばないかな……」

 彼女の視線の先で――――少年は、刃を振るう。



 ◇◇◇



 交錯する、拳と刃。

 斬炎を纏った右の拳が伊織の口元を掠めるが、カウンターの斬り上げもまた日向の肩口を捉える。裂かれた肉から鮮血が舞うが、伊織の撃ち上げるような蹴りを受け日向は上空へと吹き飛ばされた。



 そして地表を削り取るようにして、下段から刃を振り上げ追撃を放つ伊織。突き上げるような斬撃が、上昇気流に乗って空中へと撃ち込まれる。

 飛斬改式剣術・『天翔テンショウ

 飛来したその剣撃を日向は、交差した両腕で防ぎ弾き散らす。そしてすかさず双腕を振り抜き、蒼炎のレーザーを撃ち返した。



 火属性攻撃術式

『"瞬迅"戟衝破・双連』

 迫る二つの反撃に対し、伊織は自身を軸として独楽のように高速回転する。



 飛斬改式剣術・『円月エンゲツ

 全方位を薙ぎ払うように振り抜かれた刃は、周囲の魔力気流諸共双つの熱線を一撃で消し飛ばした。



 鬩ぎ合い、空間で弾ける火炎と斬撃。乱れ舞う炎刃の中、着地と同時に一直線の突撃を仕掛ける。

 日向がその右手に宿すのは、最強の一撃を型作る蒼き猛炎。



「今日ここで――――お前を、超える!!」

 火属性攻撃術式

『"瞬迅"爆皇破』



 その撃炎に対し伊織は、大上段から渾身の一刀を振り下ろし迎え撃つ。

「来い、日向!!」

 飛斬改式剣術・『震霆シンテイ

 フィールドを揺るがす程の威力で叩き付けられた刃は、地を砕き進む激烈な斬撃を生み出す。



 交差する、双撃。雌雄を決する刻が、迫る――――


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