Wizard Wars -現代魔術譚-

sorairo0628

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セクション1『魔術学園2046篇』

第41話『龍炎天閃』

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 恭夜が日向達へと授けた、魔術戦闘の極意。その"三番目"。

『――――最後の一つは……っつー"必殺"のパターンを作る事だ』
『それは……蒼の「斬界」みてーな大技を作れってコトか?』
『まァそれが出来りゃ言う事は無ェが……何もそんな無理難題をフッ掛けてるワケじゃねェよ』

 訊き返して来た日向へと、恭夜が実例を示すべく言葉を続けた。

『例えば天音。お前の爆速砲エクスプロズバスターやら神速戟雷ハイスピードランサーなんかは、伊織や徹彦みてェな特殊な防御技能を持ってねェ限り、マトモに決まれば大抵のヤツは吹っ飛ばせるよな。あの辺の術式使う時に、何か考えてるか?』
『……他の術式で左右の逃げ場を塞いで、一本道に誘い込むようにしてます』
『そう、言っちまえばもうソレが答えだな』

 発言を促された天音が暫し思案しながらも出した答えに、恭夜は満足気に頷く。

『そのパターンを知ってるヤツは、そもそも左右を挟まれないように立ち回る必要が出て来る。相手の思考リソースを余分に割かせる事が出来るってワケだ』
『つまり、その攻撃手段の存在自体が相手の意識と行動を縛る、と……』
『そういうこった。そしてそのコンマ数秒の判断阻害が、戦闘中には命取りになるっつーコトは……もう言わなくても解るよな?』

 啓治が言及した『戦術』と『思考』の関係性に同意しながら、更なる具体例を挙げていく恭夜。

『さっき日向が言ってた、蒼の斬界にしても同じだな。気持ち良く刀がブン回せる空間スペースさえあれば、アイツは迷わずアレを撃って来る。だから相手はとにかく太刀筋に入らないように、回避主体の立ち回りを自ずと強制されるワケだ』
『見せさえすれば、戦術的選択の何割かは制限出来るってコトか……』
『言わば思考誘導だな。ギリシャのゼノンの「神弾ゴッドバレット」然り、米国アメリカのアレックスの「トリニティブラスト」もそうだ。あの手の「一撃必殺」は相手に戦闘そのものを避けさせる脅威だが……アレは一朝一夕で身につくようなモンでもねェ。参考程度に頭に置いときゃいいさ』

 伊織の呟きにそう応えるが、その時創来は表情を顰めながら首を傾げていた。

『誰の話してんだ?』
『逆になんであんな有名人を知らないワケ?……天堂先輩と同じ、"世界学生十傑"。それぞれの国のエース級魔術師よ』
『さもご存じみてェな言い方されても知らねェモンは知らねェ……』

 呆れながら天音が"彼等"について補足的に説明していたが、その横で口を開いた陣から恭夜へ一つ意見が投げ掛けられる。

『せやけどあんまし早よ使いすぎたら、相手に対策されるリスクも出て来るワケやろ。初見殺しのメリットが無くなるのはどうなん?』
『ま~そりゃ各々に任せるわ。ここぞって時まで隠しといて大本命の相手にブチ当てるもヨシ。早めに見せといて牽制の手札カードにしても良い。使い所はお前ら次第だな』



 ◇◇◇



 伊織の必殺パターンは、恐らくハルとの戦いでも見せた『退魔二刀流』。飛斬改式剣術も依然として脅威ではあるが、決着を左右する場面で選択するのはより練度の高い戦術の筈。

 不用意に近付けば、即座に"喰"われる。そう告げるように揺らぐ伊織の刃から、蠢き立ち昇る"圧力"。

 やはり彼との近接戦闘は鬼門だが、かと言って日向の遠距離攻撃では決定力に欠ける。ならば、こちらの攻撃威力を保ちつつ二刀流の間合いを外すギリギリの距離で仕掛けるしかない。

 即ち、

(――――中距離術式……!!)

 退魔二刀流と飛斬改式剣術のどちらの優位性アドバンテージも軽減出来る、伊織の戦術の『隙間』とも呼ぶべき戦闘領域。勝負を決めるのはその一点だと、日向は試合前から既に想定していた。



 瞬迅爆皇破と震霆の衝突による爆風を全身に受けながらも、更なる追撃を叩き込みその反動で後退する。自身の持ち得る最大威力の一撃を止められた以上、まだ見せていない技での奇襲に賭けるしかない。

 蒼炎を、その掌に握り込む。



「――――ッ!!」
「遅ェよ」

 日向の視線の動きで伊織は彼の狙いを察知するが、その時既に術式の構築は完了していた。繰り出された拳から、放射状の爆炎が撃ち出される。



 火属性攻撃術式

『"瞬迅"閃空破センクウハ

 相手を覆うように焼き尽くす、中距離範囲攻撃。斬蒼炎によって向上した術式展開速度ならば、恐らく『峡谷』で両断されるより速く攻撃は伊織へと到達出来る。



 しかし。

「――――どうかな」

 迫り来る炎を前にして、伊織は不敵に嗤っていた。そして二刀目の柄を逆手で掴み取り、一瞬の内に抜き放つ。



「ッ!?」

(まさか――――!!)

 瞠目する日向の視線の先で、振り抜かれる伊織の双刀。

 斬り上げ、撃ち下ろされるその挟刃は――――空を喰らう牙を備えた、アギトの如く。



 飛斬改式""・『飛龍ヒリュウ

 放たれた龍型の斬撃が、瞬迅閃空破と激突する。飛斬改式を、伊織は既に完成させていた。



 吼える刃龍と、猛る蒼炎。二つの力が交錯し、天に閃く。



 激しく鬩ぎ合い、炸裂する衝撃。そしてその斬撃は、魔力によって生み出された閃炎を爆発させ消し飛ばした。



 ◇◇◇



 轟音と風圧が、瞬く間に空間を埋め尽くす。

「どうなった……!?」

 戦場を包み隠す爆煙に、目を瞠りながら唸るように声を上げる啓治。観衆が息を呑む中で、次第に視界が晴れていく。



 ◇◇◇



 そこに在ったのは、互いに背を向け立つ二人の姿。



 しかし一方の呼吸は荒く、その足元には少なくない量の血が流れ出している。やがて苦しげな表情で膝を突いたのは――――日向の方だった。



 一方で伊織は静かにその場に佇んでいたが、日向もまた意識を失う事無く持ち堪えている。そして、刀を地に突き立てた伊織が日向へ向けて口を開いた。

「…………俺の、敗けだ」

 そう零しながら、仰向けに倒れ込み目を閉じる。その胸元には深々と、袈裟懸けの斬創が刻まれていた。





 東帝戦トーナメント本戦、三回戦。

 勝者、春川 日向。準々決勝、進出。



 激闘は、此処に決着した。



 ◇◇◇



「……今何起きた……!?」
「速すぎて……目で追えなかった……!!」
「…………」

 戦場を注視していながらも、決着の瞬間を視認出来なかったアランがそう呟く。その隣の絵恋とハルも、最後の急展開を目視出来ていない様子だった。



「……視えたか?」
「あァ……一瞬だったな」

 一方で高速戦闘に長けた亜門と、狙撃手としての優れた動体視力を有していた湊はその一瞬の交錯を捉えていた。



 ◇◇◇



「アイツ……爆発の中から飛び出して来たな……」
「だね……どゆことよ……」

 唖然とした様子で、戦場を見下ろしながら奏と千聖がそう口にする。蒼達三年の面々は視覚だけでなく魔力知覚によって、日向と伊織の戦闘の最後を認識していた。



 ――――瞬迅閃空破と飛龍が激突した、あの瞬間。日向は突進していた。

 通過する瞬間に奇しくも二つの攻撃が互いに相殺し合った事で、その威力は消失した。



「……もし一瞬でもタイミングを見誤れば、モロに爆発に巻き込まれて自滅していただろうな……」
「アイツは信じて賭けたんだ。……自分と伊織の技の威力が、全くの互角ってコトにな」

 とんだ博打ヤローギャンブラーだと呆れながらも、日向の胆力を認める蒼に奏が頷く。そして魔力爆発を突破した日向の右脚には、鋭く燃える蒼炎が纏われていた。



 伊織が繰り出した迎撃の一刀より迅く、叩き込まれる渾身の足刀。

 火属性攻撃術式

『"瞬迅"炎刀』



 明暗を分けたのは、刹那の読み合いか。若しくは僅かな勝機を掴み取る"嗅覚"か。何れにせよ、勝敗は決した。



 天堂 蒼。
 黒乃 雪華。
 諸星 敦士。
 蛇島 司。
 神宮寺 奏。
 如月 士門。
 風切 アラン。
 春川 日向。

 東帝最強の座を競い争う、八人の魔術師が出揃う。



 ◇◇◇










 ◇◇◇



 ――――数時間前。



 午前9時。魔術管理局内、シャワールームにて。

「っァ~~~~…………ねっむ……たった40分しか寝られなかったっスよ」
「仕方ねェだろォが。今は状況が状況だ。一分一秒の態勢の遅れで結果が大きく変わって来る以上、俺達は警戒して備えるしかねェ」
「か~~、こんな時でも模範的正論ゴリラ。ブラック体質ワーカホリックを自覚出来ない日本人のサガってヤツですかね?」
「よーし国民を代表してお前は俺が殺す」

 昨夜から明け方まで続いた緊急会議を終え、僅かばかりの仮眠を取った後本郷と柊は揃って湯を被っていた。



「……でも、良かったんスか?」
「あ?何がだ」
「捜査課と情報共有したコトっスよ」

 柊からの口から出た疑念に、長く息を吐いた本郷が応える。

「…………相手は番号刻印ナンバーズだぞ。もう特務課オレらだけでどうこう出来るヤマじゃねェっつーコトぐらいテメーも解ってんだろ」
「そりゃそうですけどねェ……どうします?もし"彼女"以外にも内通者がいて、それが管理局内部ウチの人間だったりしたら」
「ブチのめすに決まってんだろが。分かり切ったコト訊いてくんじゃねェよ」
「おーこわ……」



 ◇◇◇



 そして――――



「速水さん!!2分前に目撃情報が入りました!目標が動きます!」

 会議室へ飛び込んで来た北斗が、アイマスクを着けて椅子で休んでいた速水へと声を掛けた。

「武装部隊は?」
「第一第二、共に準備完了しました。いつでも出撃出来ます」
「OK。てか帯刀ワキさんは?」
「丁度隊員の方々の食事を調達しに出て行きました……」
「コンビニか。沢村さんは多分喫煙所でしょ?こういう時ホント足並み揃わないよね僕等って……正と俊哉君は?」
「あの二人はついさっきガレージから飛び出して行きましたよ。現場付近の待機ポイントに急行してます」
「え、もう!?あの二人先に行かせちゃったら何しでかすか分かんないっしょ」
「なので急ぐべきかと……」
「間違いないね。よし、行こう」

 席を立った速水は、髪を結い直しながら歩き出す。



 ◇◇◇



 東京某所、地下駐車場にて。





「…………ありがとう。来てくれて」

 薄暗い空間に、響く声。そこに立っていたのは――――



 ――――魔術テロ組織、『刻印結社』に属する一人。JOKER達に、『ディエス』と呼ばれていた少年だった。



「……説明して。ユウ

 そして彼と相対していたのは、一人の少女。動揺を隠すような声色で、"彼女"は問い掛ける。





 更科 凪の姿が、そこには在った。


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