12 / 124
012 ヘヴィークロスボウ
しおりを挟む
「早く! こっち!」
ジゼルに手を引かれて辿り着いたのは、小高い丘の上だった。頂上に登ると、一気に視界が広がる。
その広がった視界の中に、草原を移動する集団が見えた。ここは街道から外れた場所だ。こんな所を大人数で移動しているとは考えにくい。何者だ?
オレは目を細めて移動する集団を確認すると同時に息を呑む。少女だ。二人の少女が小柄な人影の集団に追われている。身長はオレの腹ぐらいまでの小柄な身体、緑の肌、その図体には似合わないほど大きな耳。ゴブリンだ。ゴブリンの集団に少女たちが追われているッ! なんでこの王都の近くに魔物が居るんだッ!?
まだ距離は離れている。今から助けようとしても間に合うかどうか……。ここはクロエの安全を確保した方がいいか?
「なんてことッ!?」
「イザベルッ! リディッ!」
エレオノールとクロエの悲鳴が耳朶を打つ。その瞬間に、オレは駆け出していた。緩やかな丘の下り坂を全速力で下っていく。
クロエの悲痛な叫びに、オレは弾かれたように反応したのだ。
名前を知っているということは、襲われている少女たちはクロエの知り合いなのだろう。もしかしたら、友だちかもしれない。状況を考えれば、あの二人こそ探していた残りのパーティメンバーの可能性が高い。
パーティを組むほど、それだけクロエと深い関係の少女たちかもしれないのだ。
冒険者パーティってのは、伊達や酔狂で組むものじゃない。コイツらになら自分の命を預けられる。時には、自分の命を投げ出せるほどの深い信頼で結ばれている。それが冒険者のパーティだ。
そんな仲間が失われたら、クロエはどう思うだろう?
オレはクロエを護ると誓った。ならば、クロエの心まで護らないのは嘘だッ!
「クロエたちは待機してろッ!」
オレはそれだけ叫ぶと、脇目も振らずに疾走する。クロエとエレオノールは武装していない。助けに来られても守るべき対象が増えるだけだ。クロエを危険にはさらせない。
きっとクロエは今頃悔しがっているかもしれない。仲間のピンチに動けないのは、とても苦しいのだ。だが、今は耐えてもらうしかない。クロエが耐えきれなくなる前に、全てを終わらせなくてはッ!
「こっちを見ろ! ゴブリンどもッ!」
オレは精いっぱいの大声を張り上げて、少しでもゴブリンの注意を引く。我ながら、慣れないことをしているな。オレは戦闘では役立たずのパーティの荷物持ちでしかない。そんなオレが、多数の野生のゴブリンたち相手に単騎で立ち向かうことになるとは……。
ダンジョンのモンスターと違って、野生の魔物は強さが分からない。オレでは手に負えないような強敵の可能性もある。もしかしたら、オレは犬死かもな。だが、少しでも可能性があるなら、そこに賭けるべきだ。
普段だったら、そんな博打のようなマネをオレはしない。入念に準備したうえで、安全を確保して、その上で負けない戦いをするのがオレだ。
だが、今回はクロエの心が懸かっている。無茶をする理由なんて、それだけで十分だ。
視界の先で、逃げていた背の高い方の少女が転んだのが見えた。最悪だ。
背の低い方の少女が、転んだ少女を守るように手を広げて前に出るが、そんなものはなんの役にも立たないだろう。クソがッ!
少女たちに迫るゴブリンが、剣を振り上げて襲いかかるのが見えた。もう一刻の猶予も無いことは明白だ。
止まってしまった少女たちとオレとの間には、まだ距離がある。その距離は絶望的だ。この距離を埋める手段が……あるッ!
「こっち向けコラッ!」
オレは【収納】のギフトを発動した。右手のすぐ傍に現れる真っ黒な空間。まるでそこだけ抉り取られたかのように、見通せないほど真っ暗な闇が姿を現す。
オレはその真っ黒な空間に右手を差し入れた。右手に返ってくる慣れ親しんだ触り心地に満足し、それを取り出す。
大きい。とても巨大なヘヴィークロスボウだ。ツヤ消しを施された真っ黒な機体。まるで猛獣の咢を思わせる純粋な暴力の化身。これこそがオレの相棒だ。野太いボルトが既に装填され、発射準備を完了している。このバケモノは、自らの力の解放の時を静かに待っているのだ。後はトリガーを引くだけで、暴力が形になる。
先にも嘆いたが、オレは戦闘では役立たずのタダの荷物持ちだ。そんなオレが唯一戦闘に参加できる機会。それが、このヘヴィークロスボウだ。
威力だけを追求したため、連射性も扱いやすさも皆無だが、その威力は高レベルダンジョンでも通用することを既に実証済み。オレのもっとも信頼する武器だ。
「弾けろッ!」
オレは走りながらヘヴィークロスボウを発射する。
ボウンッ!!!
まるで猛獣の唸り声のような重低音を響かせて、ヘヴィークロスボウに装填されたボルトが吐き出される。
パァンッ!!!
それと同時に起こるのは、汚い花火だ。少女たちに向かって錆の浮いた剣を振りかぶっていたゴブリンの頭が、真っ赤な血飛沫を上げて、まるで内側から爆発したかのように弾けていた。
ジゼルに手を引かれて辿り着いたのは、小高い丘の上だった。頂上に登ると、一気に視界が広がる。
その広がった視界の中に、草原を移動する集団が見えた。ここは街道から外れた場所だ。こんな所を大人数で移動しているとは考えにくい。何者だ?
オレは目を細めて移動する集団を確認すると同時に息を呑む。少女だ。二人の少女が小柄な人影の集団に追われている。身長はオレの腹ぐらいまでの小柄な身体、緑の肌、その図体には似合わないほど大きな耳。ゴブリンだ。ゴブリンの集団に少女たちが追われているッ! なんでこの王都の近くに魔物が居るんだッ!?
まだ距離は離れている。今から助けようとしても間に合うかどうか……。ここはクロエの安全を確保した方がいいか?
「なんてことッ!?」
「イザベルッ! リディッ!」
エレオノールとクロエの悲鳴が耳朶を打つ。その瞬間に、オレは駆け出していた。緩やかな丘の下り坂を全速力で下っていく。
クロエの悲痛な叫びに、オレは弾かれたように反応したのだ。
名前を知っているということは、襲われている少女たちはクロエの知り合いなのだろう。もしかしたら、友だちかもしれない。状況を考えれば、あの二人こそ探していた残りのパーティメンバーの可能性が高い。
パーティを組むほど、それだけクロエと深い関係の少女たちかもしれないのだ。
冒険者パーティってのは、伊達や酔狂で組むものじゃない。コイツらになら自分の命を預けられる。時には、自分の命を投げ出せるほどの深い信頼で結ばれている。それが冒険者のパーティだ。
そんな仲間が失われたら、クロエはどう思うだろう?
オレはクロエを護ると誓った。ならば、クロエの心まで護らないのは嘘だッ!
「クロエたちは待機してろッ!」
オレはそれだけ叫ぶと、脇目も振らずに疾走する。クロエとエレオノールは武装していない。助けに来られても守るべき対象が増えるだけだ。クロエを危険にはさらせない。
きっとクロエは今頃悔しがっているかもしれない。仲間のピンチに動けないのは、とても苦しいのだ。だが、今は耐えてもらうしかない。クロエが耐えきれなくなる前に、全てを終わらせなくてはッ!
「こっちを見ろ! ゴブリンどもッ!」
オレは精いっぱいの大声を張り上げて、少しでもゴブリンの注意を引く。我ながら、慣れないことをしているな。オレは戦闘では役立たずのパーティの荷物持ちでしかない。そんなオレが、多数の野生のゴブリンたち相手に単騎で立ち向かうことになるとは……。
ダンジョンのモンスターと違って、野生の魔物は強さが分からない。オレでは手に負えないような強敵の可能性もある。もしかしたら、オレは犬死かもな。だが、少しでも可能性があるなら、そこに賭けるべきだ。
普段だったら、そんな博打のようなマネをオレはしない。入念に準備したうえで、安全を確保して、その上で負けない戦いをするのがオレだ。
だが、今回はクロエの心が懸かっている。無茶をする理由なんて、それだけで十分だ。
視界の先で、逃げていた背の高い方の少女が転んだのが見えた。最悪だ。
背の低い方の少女が、転んだ少女を守るように手を広げて前に出るが、そんなものはなんの役にも立たないだろう。クソがッ!
少女たちに迫るゴブリンが、剣を振り上げて襲いかかるのが見えた。もう一刻の猶予も無いことは明白だ。
止まってしまった少女たちとオレとの間には、まだ距離がある。その距離は絶望的だ。この距離を埋める手段が……あるッ!
「こっち向けコラッ!」
オレは【収納】のギフトを発動した。右手のすぐ傍に現れる真っ黒な空間。まるでそこだけ抉り取られたかのように、見通せないほど真っ暗な闇が姿を現す。
オレはその真っ黒な空間に右手を差し入れた。右手に返ってくる慣れ親しんだ触り心地に満足し、それを取り出す。
大きい。とても巨大なヘヴィークロスボウだ。ツヤ消しを施された真っ黒な機体。まるで猛獣の咢を思わせる純粋な暴力の化身。これこそがオレの相棒だ。野太いボルトが既に装填され、発射準備を完了している。このバケモノは、自らの力の解放の時を静かに待っているのだ。後はトリガーを引くだけで、暴力が形になる。
先にも嘆いたが、オレは戦闘では役立たずのタダの荷物持ちだ。そんなオレが唯一戦闘に参加できる機会。それが、このヘヴィークロスボウだ。
威力だけを追求したため、連射性も扱いやすさも皆無だが、その威力は高レベルダンジョンでも通用することを既に実証済み。オレのもっとも信頼する武器だ。
「弾けろッ!」
オレは走りながらヘヴィークロスボウを発射する。
ボウンッ!!!
まるで猛獣の唸り声のような重低音を響かせて、ヘヴィークロスボウに装填されたボルトが吐き出される。
パァンッ!!!
それと同時に起こるのは、汚い花火だ。少女たちに向かって錆の浮いた剣を振りかぶっていたゴブリンの頭が、真っ赤な血飛沫を上げて、まるで内側から爆発したかのように弾けていた。
267
あなたにおすすめの小説
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』
アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた
【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。
カクヨム版の
分割投稿となりますので
一話が長かったり短かったりしています。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる