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014 【収納】

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「うらぁあああああああああああ!」

 ゴブリンどもとの睨み合いの末、先に動いたのはオレだった。オレとしては、このまま時間を稼いで少女たちの治療の時間を作りたかったが、そんな悠長な話はゴブリンアーチャーたちに許されなかった。

 オレがゴブリンウォーリアと睨み合っている間に、ゴブリンアーチャーが次の矢の準備をしていたのだ。

 このまま睨み合っていれば、ゴブリンアーチャーにいいように撃たれるだけだろう。オレから動かざるをえなかった。

「極光の担い手よッ!」

 オレは目を瞑ると、剣先を地面に突き立てる。すると、目を瞑っても尚、視界が真っ白に塗りつぶされ、目の奥が焼けるような痛みを感じた。宝具の発動に成功したのだ。

 宝具《極光の担い手》。オレの持つ闇を切り取ったかのような漆黒の長剣は、ダンジョンで見つかる不思議な力を持つ道具。宝具だ。

 その効果は、今まで吸収した光を放出すること。強く、一気に放出すれば、強い光の閃光で、上手くすれば敵の目を焼き潰すことができる。戦えないオレのいざという時のお守りだ。今回の戦闘でのオレの切り札になる。

「GYAAAAAAAAAAAA!?」
「BUMOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!?」
「HUGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」

 ゴブリンどもの悲鳴に、オレは成功を確信して目を開く。薄く霧のかかったような白濁の視界の中、ゴブリンウォーリアどもが目を押さえて剣や棍棒を闇雲に振っているのが見えた。

 急に視界を奪われ、目の痛みに襲われたのだ。混乱しているのだろう。

 オレは、混乱に乗じて、静かにゴブリンへと詰め寄った。

「ふんっ!」
「ッ!?」

 オレは、剣を振り回すゴブリンウォーリアに近づくと、一刀のもとに首を刎ねる。大きな耳の付いたゴブリンの首が、まるでおもちゃのように飛び、残された体からは血が噴き出す。白濁した視界の中でも鮮明な赤。まずは一体。

 斬り捨てたゴブリンウォーリアに構わず、オレは更に前へと駆ける。ゴブリンウォーリアどもは目を潰されて混乱している。しばらくは放っておいてもいいだろう。

「GEGYA!?」

 しかし、ゴブリンアーチャーどもを早く処理しなくてはならない。三体のゴブリンアーチャーの内、一体は目を潰すことに成功したようだが、残り二体のゴブリンアーチャーが健在だ。

 きっとゴブリンウォーリアが盾になって、閃光を受けなかったのだろう。この二体は素早く潰す必要がある。

「GEGYA!」
「GYAGYA!」

 混乱して弓をブンブン振っているゴブリンアーチャーの横、二体のゴブリンアーチャーが弓に矢をつがえ、オレを狙うのが分かった。

 ゴブリンアーチャーとの距離は、残り五歩ほど。先手を許すことになりそうだ。オレに、この距離で矢を二本避けるなどできない。オレにできるのは、下に着込んだチェインメイルの防御力を信じて最短距離を走ることだけだ。

 オレは覚悟を決めて足を踏み出す。残り四歩。

 その時だった――――。

「GYAGYAGYA!」
「KEKYAKYAKYAKYA!」

 オレから見て右奥に居るゴブリンアーチャーの弓が、オレから狙いを逸らす。オレは瞬時に理解した。少女たちが狙われているッ!?

 ゴブリンってのは悪知恵が働くなんて、耳にタコができるほどよく聞く話だが、まさか、ここにきてそれかよッ!?

 ゴブリンアーチャーの狙いは、少女たちを狙うことで、オレの侵攻を止めようとしているのだろう。オレが少女たちを庇うために足を止めて身を挺することを狙ったのだろう。

 だが、それはお互いにとって最悪のタイミングだった。

 足を踏み出したばかりのオレには方向転換など今更できない。したくてもできない。ゴブリンアーチャーの目論見は叶わず、オレは少女たちを守ることができず、お互い最悪の結果しか待ち受けていない。

「クソがぁああああああああああああああああああ!」

 なにか手は無いか。だが、有効な手など瞬時に浮かぶはずもない。オレには収納空間を限界まで広げてゴブリンアーチャーの前に配置して、ゴブリンアーチャーの視界を奪うことしかできなかった。

 オレの収納空間は、物を出し入れすることしかできない。現実にはなにも影響を及ぼさないギフトだ。ゴブリンアーチャーの矢を止めることもできないだろう。本当に、タダの目隠しの効果しかない。

 オレにできるのは、ゴブリンアーチャーが狙いを外すのを願うだけだ。

「GOBU!?」

 ブンッ! ブンッ!

 いきなり目の前が黒く染まって驚いたのか、ついにゴブリンアーチャーどもの矢が放たれる。

 オレは剣を両手で構え、限界まで体を前に倒した。後先考えない、ただ相手を刺し貫くことのみを考えた構えだ。

 矢を避けれるなら万々歳。矢を受けても足が止まらないように、矢の勢いに押されて後ろにひっくり返らないように、全体重を前へと駆ける。

 ジャリッ!

「GEYA!?」

 左耳のすぐ近くから不快な音が響くと同時に、オレは自分のギフトに違和感を感じた。なにか入ってる――――?
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