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066 狩り

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「前方にオオカミ! 一体だけ!」

 パーティの最前列を歩くクロエの報告に、『五花の夢』のメンバーに緊張が走る。敵は前方にオオカミ一体だけだ。一見しただけでは楽勝に見えるが、それには大きな罠が隠れている。

 オオカミは、群れで狩りをする動物なのだ。

 ガサガサ……ッ!

 ガササ……ッ!

 聞き逃してしまいそうなほど小さな音だが、左右の森から微かに響いている。このダンジョン『白狼の森林』の十八番である奇襲攻撃だ。

 前方に見えるオオカミは、オレたちの注目を集めるためのデコイのようなものだ。本命は、森の迷宮を形造る壁の向こうからの奇襲攻撃。便宜上、壁と呼んでいるが、その正体は木や草の緑に覆われた薄いヴェールに過ぎない。簡単に壁の中に入ることができるのだ。オオカミたちは、この死角を活用して襲ってくる。

「チッ」

 低レベルダンジョンのモンスターが、一丁前に戦術を使ってくるのは、おそらくここ『白狼の森林』くらいだろう。これが目当てで、このダンジョンを攻略に選んだのだが、実際に相手にすると悪態をつきたくなるほど面倒だ。

「前のを殺る! 両側から来るぞ! 気を付けろよ!」
「ええ。トロワル、ストーンショット、起動! 待機!」

 イザベルの言葉を合図に、数瞬遅れて、なにもなかった空間に石の槍が生成されていく。イザベルお得意の精霊魔法、ストーンショットだ。発動に時間はかかるが、その威力は折り紙付きである。

「収納開放」

 オレは前方に見える白銀のオオカミに右の手のひらを向けた。

「ショット」

 ダダダッ!

 破裂音のような音が連続で響き、手のひらを向けた白狼の姿がザクロのように弾けるのを確認する。ギフトの収納空間に納められた発射済みのヘヴィークロスボウのボルトを解き放ったのだ。その数は三発。正直、このレベル帯のモンスターには過剰な数だが、まだ収納空間からの直接射撃は狙いの定め方が慣れない。狙いとズレることもままある。なので、念のための三連射だ。

 まぁ、これはオレの訓練次第で、すぐに克服できる問題だろう。

「WAUWAU!」
「GAUGAU!」
「GAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 イザベルの精霊魔法を脅威に感じたのか、オレの射撃音に驚いたのか、左右の壁の中から一斉にオオカミたちが飛び出してきた。その数は五体。左に三、右に二だ。

 今のクロエたちには少し難しいかもしれないが、五体のオオカミの処理を任せてみるか。危なくなったら手助けすればいいだろう。

 しかし、我ながら便利な能力を発見したものだな。ヘヴィークロスボウクラスの威力のボルトを、好きな時に好きなだけ放つことができるようになるとは……。重たいヘヴィークロスボウで狙いを定めるより楽だし、なにより、一斉に何発も発射できるのは魅力的だ。

 ヘヴィークロスボウを一発放つだけだったオレに、足りなかった戦闘能力や火力を一気に補ってくれる。

 それに、この能力の攻撃だけではなく守りにも使える。敵の飛び道具を収納空間に収納してしまえるのだ。これで敵の矢や投げ槍などの投擲物などを無効化し、カウンターのように発射し返すこともできる。アーチャーやシューターにとっては、こっちの方が凶悪な能力かもな。

 危なくなったら、いつでも戦闘に介入できるというのは、オレの心に大きな余裕をもたらしてくれた。言い方は悪いが、その分、クロエたちを追い込むことができる。クロエたちの負担は増えるが、クロエたちがオレの課す試練を越えられるようになれば、一気に成長するだろう。

「楽しみだ」

 オレは自然と口角が上がるのを抑えられず、クロエたちの戦闘をジッと観察するように見守るのだった。

「トロワル、放ちなさい! ストーンショットッ!」

 ティウンッ!!!

 まず動いたのは、魔法の発動を待機させていたイザベルだ。イザベルの合図と共に、それまで空間を浮遊していた石の短槍の姿が消える。イザベルがついにストーンショットを放ったのだ。その独特な発射音に数瞬遅れて強風が吹き荒れ、イザベルのドレスのスカートを強く揺らしていた。

 改めて周りに目を向ければ、左に展開していた三体のオオカミの内、一体がたなびく白い煙と化していた。

 断末魔を上げさせることもなくオオカミを処理するとは、見事だな。やはり、イザベルの精霊魔法の威力は突出している。あれなら高レベルのダンジョンでも通用するだろう。

「トロワル、ストーンショットッ!」

 しかし、その発射速度は改善の余地があるな。イザベルの指示に、また空間に石の槍が形成されていくが、そのスピードは遅い。これでは二発目までまだ時間がかかるだろう。

「やぁああああああああああ!」

 左手から凛々しいウォークライが耳朶を打つ。エレオノールだ。白銀の鎧に身を包み、深紅のマントを翻して、エレオノールがオオカミを迎え撃つべく前に出ていた。盾に剣を打ち付けて鳴らし、必死にオオカミの注意を引こうとしている。

 前回はオオカミにスルーされてしまったが、今回はどうなるかな?
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