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067 泥にまみれる

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 エレオノールが少し腰を落とし、どっしりと構えている。前回はオオカミを目がけて突撃していったが、今度はオオカミたちを待ち受ける作戦のようだ。

 たしかに、走りながらよりも、待ち構えている方が次の動きに移行しやすい。オオカミたちに抜かれることがあっても、すぐに対応しようとしているのだろう。

「GAUGA!」
「GURURURU!」
「強固ッ!」

 エレオノールが、オオカミに負けずと叫び、その身に授かったギフトを発動する。エレオノールの体から、淡い黄色の粒子が湧き上がるのが見えた。

 エレオノールのギフトには、発動している時間制限と、クールタイムと呼ばれるギフトを発動できない時間が存在する。普段は、ここぞという時のために温存しているが、今回は初手から切るようだ。少しでもオオカミたちの注意を引きたいのだろう。

 そして、ついにエレオノールと二体のオオカミとの距離がゼロになる。

 オオカミはどう動くのか、エレオノールはオオカミたちを止めることができるのか。エレオノールのお手並み拝見だな。

 最初に動きを見せたのはオオカミたちの方だった。

 一体のオオカミが勢いよく跳躍し、エレオノールの首目がけて襲いかかり、もう一体のオオカミが、エレオノールの左脚を目がけて疾走する。

 オオカミたちのコンビネーションによる同時攻撃だ。どうやら今回はエレオノールをスルーしないらしい。

「せやぁああ!」

 オオカミたちの挙動に遅れること数瞬。エレオノールも動き出す。エレオノールは、僅かに体をひねると、慌てることなく、跳びかかってきたオオカミへと剣による突きを放った。

 防御を一切捨てたエレオノールの対応に、オレは少し驚きを感じた。エレオノールは、今まで丁寧に敵の攻撃を受け止めるイメージだったのだが、思い切ったことをしたものだ。おそらく、敢えて隙を見せて、確実に自分へと注目を集めようとしている。

 エレオノールにとって、前回の失敗はとても大きな失態となって自身に深く刻み付けられていると感じられた。

 さてさて、それが吉と出るか凶と出るか……。

 オレは収納空間を広げ、いつでも援護できるようにしながら、エレオノールの挑戦を見守る。

「GAAAAAAAAAA!」

 その大きな咢を開き、エレオノールに跳びかかるオオカミ。その口へとエレオノールの剣が突き刺さる。

「GUA!?」
「はぁああああああああああ!」

 エレオノールの攻撃は、それで終わりではない。エレオノールは、その右手に持った剣を更にオオカミの喉へと刺し込むと、まるで投球フォームのようにオオカミを地面に叩きつけようとする。防御を捨てた代わりに、確実に一体始末するつもりだ。

 しかし……。

「GAUGAU!」

 エレオノールの目論見は、脆くももう一体のオオカミによって崩されることになる。

「ッ!?」

 右手のオオカミを地面に叩きつけようとするエレオノール。その軸足である左足にもう一体のオオカミが噛み付いたのだ。

「GURURURURURU!」

 エレオノールの左足に噛み付いたオオカミは、低く唸り声を上げながら、激しく首を振り、エレオノールの左足を噛み千切ろうと暴れ、エレオノールのバランスを崩していく。

「ぁあッ!?」

 ついにエレオノールの重心が崩れ、右手のオオカミを地面に叩きつける寸前に、エレオノールの左足が浮いてしまった。

 まるで突然投げ出されたように後ろに倒れるエレオノール。ついにエレオノールが大きく尻もちをついて倒されてしまった。その拍子に、右手の剣で串刺しにしていたオオカミも抜け出し、状況はエレオノールが引き倒されてしまった分、不利となっていた。

 オオカミに多少ダメージを与えたようだが、倒しきれなかったのは痛い。エレオノールが引き倒されてしまったのは最悪だ。

「クッ、このっ!」

 オオカミに左足を引っ張られ、再び立つこともできないエレオノール。地面を転がるエレオノールに、迫る影があった。喉を串刺しにされていたオオカミだ。

 オオカミは喉から血の代わりにもうもうと白い煙上げていたが、未だその脅威は健在。残念ながらエレオノールの攻撃は、致命傷には至らなかったようだ。

 オオカミにとって、地面に引き倒されたエレオノールなど、もはやどう料理するのも自由な状態だろう。エレオノールも迫るオオカミの存在に気が付き、剣や盾で応戦しようとしている。だが、左足に噛み付いたオオカミによって、地面を引き回され、ろくに対応することができていない。

 もはや、エレオノールは絶体絶命だ。パーティの盾役を担うタンクとしても、言い方は悪いが無様と言われても仕方がないほどである。しかし、エレオノールはタンクとして最低限の仕事は為した。

「トロワル、ストーンショット! 発動ッ!」

 高らかに響くイザベルの麗しい声。イザベルの精霊魔法が、ついに完成したのだ。そのための時間をエレオノールは作ってみせた。たしかに、その姿は間違っても優雅ではないし、無様と言われても仕方がない泥に塗れたものだったかもしれない。

 だが、無駄ではなかった。
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