74 / 124
074 観察
しおりを挟む
「ふむ……」
オレは目の前で展開されている戦闘を観察していく。特に注目しているのは、三体のオオカミに襲われているエレオノールだ。
以前、二体のオオカミの攻撃に引き倒されてしまってから、幾度もの戦闘を経て、エレオノールは、二体のオオカミまでなら、危なげなく攻撃を凌げるようになっていた。
しかし、今回は三体のオオカミが相手だ。果たして、エレオノールに耐えられるだろうか?
「叔父さん! 早く助けないと!」
「あぁ、危なくなったら手を出す。クロエは戦闘に参加してこい」
「う、うん。行ってくる!」
少し戸惑いを帯びた顔を浮かべて、クロエが素早く音を殺して走り出す。クロエは真正面から敵と戦うタイプじゃない。敵の隙を窺って、致命の一撃を繰り出すアサシン。それがクロエの戦闘方法だ。真っ直ぐに味方のピンチに助けに入りたいだろうに、その心を押し殺して、敵に気取られないように静かに忍び寄っていく。
さて、オオカミなんぞ即座に昇天させてしまいそうなほどかわいいクロエだが、その援護にはまだ時間がかかる。エレオノールにこのピンチを切り抜けられるか?
とはいえ、オレはそこまで心配していなかった。エレオノールならば、可能性はあると踏んでいるからだ。エレオノールのギフトは【強固】。自身と自身の身に着けている物を強固にする地味だが強力なギフトだ。【強固】さえ発動すれば、エレオノールが大怪我を負うことはないだろう。
焦点は、エレオノールがタンクとしての役割を果たせるかどうかだな。タンクってのは、敵にとって攻撃するに値する存在であり続けなくてはならない。ただ硬いだけの人形など、敵にスルーされてしまうだけだ。
まぁ、エレオノールなら大丈夫だろう。いざとなれば、【強固】を発動してゴリ押しもできる。
それに、エレオノールには近い内に三体のオオカミの相手をさせるつもりだった。多少予定が早まったくらいどうってことない。
「収納……」
オレは【収納】のギフトを発動すると、真っ黒な底なしの収納空間が現れる。これで援護射撃準備は終わりだ。事前にヘヴィークロスボウで撃ったボルトを収納しておく必要があるが、これはかなり便利だな。連射も一斉射撃も思うがままだ。今までヘヴィークロスボウでの一射しか戦闘に介入できなかった身からすれば、まさに革命的にオレの戦闘能力は上昇した。
「さて……。どうなるか……」
オレは改めてエレオノールの様子を観察する。
紺のロングスカートに、白銀の鎧。優美な片手剣と小型のラウンドシールド。黄金の髪を靡かせて、その姿は、まるで童話から飛び出した戦乙女のようだ。一枚の絵画のように凛々しく美しい。
だが、オオカミたちにはその美しさを解す心は無いようだ。その咢を大きく開き、戦女神を喰い破らんと跳びかかる。
三体のオオカミによる連携攻撃だ。
「えいっ!」
いつもほんわかした空気を纏い、ゆったりとしたお上品な所作をするエレオノールが、機敏に反応する。一体目のオオカミをラウンドシールドで受け流すと、二体目のオオカミも剣で撫でるようにしてその軌道をズラした。
「ふむ」
以前のように、オオカミを早く討伐しようと焦ることがなくなったな。二体のオオカミを、難無くいなしてみせた。しかし……。
「ッ!?」
エレオノールの息を呑む音が、離れているこちらにも聞こえてきた。地を這うようにエレオノールに迫る最後のオオカミに気が付いたようだ。
「気付けただけでも成長だが……」
だが、オレはエレオノールに“もっと”を望んでしまう。敢えて援護射撃はせずに、エレオノールを見守ることにした。
「強固ッ!」
エレオノールの凛々しい声が、その身に宿ったギフトの力を発動したことを告げる。今のエレオノールは、オオカミたちの跳びかかり攻撃を受け流すために両腕を使ってしまった状態だ。最後のオオカミの攻撃を体で受け止めることにしたのだろう。
このあたりは、まだ改善の余地があるな。体で受け止めるのは、最後の手段だ。できれば避けるなどして乗り切りたい。可能ならば反撃を加えたいところだが、それはまだ高望みというものだろう。
そんなことを思っていた時だった。
「GYAUN!?」
オオカミたちの連携攻撃。その最後を飾る地を這うように疾走していた三体目のオオカミが、情けない鳴き声を上げて弾き飛ばされたのが見えた。
「ほう……」
予想外の事態に、オレは感嘆の声を上げていた。オレの視線の先には、白銀の脚甲に包まれた右足を振り上げた状態のエレオノールが居た。オオカミを蹴り上げたのだ。紺のロングスカートが翻っている。あのロングスカートが、いい感じに目隠しになったのかもしれないな。狙い通りだ。
「GAAAAAAAA!」
オオカミたちによる三連撃を凌いだエレオノールだが、その身に安息は訪れることはない。最初にラウンドシールドで受け流したオオカミが、再度、跳びかかってくる。
だが、エレオノールに慌てた様子は見られない。そうだ。それでいい。
「ちょいなっ!」
相変わらず変わった掛け声を上げて、ジゼルがエレオノールに飛びかかるオオカミの首を刎ねてみせた。
オレは目の前で展開されている戦闘を観察していく。特に注目しているのは、三体のオオカミに襲われているエレオノールだ。
以前、二体のオオカミの攻撃に引き倒されてしまってから、幾度もの戦闘を経て、エレオノールは、二体のオオカミまでなら、危なげなく攻撃を凌げるようになっていた。
しかし、今回は三体のオオカミが相手だ。果たして、エレオノールに耐えられるだろうか?
「叔父さん! 早く助けないと!」
「あぁ、危なくなったら手を出す。クロエは戦闘に参加してこい」
「う、うん。行ってくる!」
少し戸惑いを帯びた顔を浮かべて、クロエが素早く音を殺して走り出す。クロエは真正面から敵と戦うタイプじゃない。敵の隙を窺って、致命の一撃を繰り出すアサシン。それがクロエの戦闘方法だ。真っ直ぐに味方のピンチに助けに入りたいだろうに、その心を押し殺して、敵に気取られないように静かに忍び寄っていく。
さて、オオカミなんぞ即座に昇天させてしまいそうなほどかわいいクロエだが、その援護にはまだ時間がかかる。エレオノールにこのピンチを切り抜けられるか?
とはいえ、オレはそこまで心配していなかった。エレオノールならば、可能性はあると踏んでいるからだ。エレオノールのギフトは【強固】。自身と自身の身に着けている物を強固にする地味だが強力なギフトだ。【強固】さえ発動すれば、エレオノールが大怪我を負うことはないだろう。
焦点は、エレオノールがタンクとしての役割を果たせるかどうかだな。タンクってのは、敵にとって攻撃するに値する存在であり続けなくてはならない。ただ硬いだけの人形など、敵にスルーされてしまうだけだ。
まぁ、エレオノールなら大丈夫だろう。いざとなれば、【強固】を発動してゴリ押しもできる。
それに、エレオノールには近い内に三体のオオカミの相手をさせるつもりだった。多少予定が早まったくらいどうってことない。
「収納……」
オレは【収納】のギフトを発動すると、真っ黒な底なしの収納空間が現れる。これで援護射撃準備は終わりだ。事前にヘヴィークロスボウで撃ったボルトを収納しておく必要があるが、これはかなり便利だな。連射も一斉射撃も思うがままだ。今までヘヴィークロスボウでの一射しか戦闘に介入できなかった身からすれば、まさに革命的にオレの戦闘能力は上昇した。
「さて……。どうなるか……」
オレは改めてエレオノールの様子を観察する。
紺のロングスカートに、白銀の鎧。優美な片手剣と小型のラウンドシールド。黄金の髪を靡かせて、その姿は、まるで童話から飛び出した戦乙女のようだ。一枚の絵画のように凛々しく美しい。
だが、オオカミたちにはその美しさを解す心は無いようだ。その咢を大きく開き、戦女神を喰い破らんと跳びかかる。
三体のオオカミによる連携攻撃だ。
「えいっ!」
いつもほんわかした空気を纏い、ゆったりとしたお上品な所作をするエレオノールが、機敏に反応する。一体目のオオカミをラウンドシールドで受け流すと、二体目のオオカミも剣で撫でるようにしてその軌道をズラした。
「ふむ」
以前のように、オオカミを早く討伐しようと焦ることがなくなったな。二体のオオカミを、難無くいなしてみせた。しかし……。
「ッ!?」
エレオノールの息を呑む音が、離れているこちらにも聞こえてきた。地を這うようにエレオノールに迫る最後のオオカミに気が付いたようだ。
「気付けただけでも成長だが……」
だが、オレはエレオノールに“もっと”を望んでしまう。敢えて援護射撃はせずに、エレオノールを見守ることにした。
「強固ッ!」
エレオノールの凛々しい声が、その身に宿ったギフトの力を発動したことを告げる。今のエレオノールは、オオカミたちの跳びかかり攻撃を受け流すために両腕を使ってしまった状態だ。最後のオオカミの攻撃を体で受け止めることにしたのだろう。
このあたりは、まだ改善の余地があるな。体で受け止めるのは、最後の手段だ。できれば避けるなどして乗り切りたい。可能ならば反撃を加えたいところだが、それはまだ高望みというものだろう。
そんなことを思っていた時だった。
「GYAUN!?」
オオカミたちの連携攻撃。その最後を飾る地を這うように疾走していた三体目のオオカミが、情けない鳴き声を上げて弾き飛ばされたのが見えた。
「ほう……」
予想外の事態に、オレは感嘆の声を上げていた。オレの視線の先には、白銀の脚甲に包まれた右足を振り上げた状態のエレオノールが居た。オオカミを蹴り上げたのだ。紺のロングスカートが翻っている。あのロングスカートが、いい感じに目隠しになったのかもしれないな。狙い通りだ。
「GAAAAAAAA!」
オオカミたちによる三連撃を凌いだエレオノールだが、その身に安息は訪れることはない。最初にラウンドシールドで受け流したオオカミが、再度、跳びかかってくる。
だが、エレオノールに慌てた様子は見られない。そうだ。それでいい。
「ちょいなっ!」
相変わらず変わった掛け声を上げて、ジゼルがエレオノールに飛びかかるオオカミの首を刎ねてみせた。
128
あなたにおすすめの小説
異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』
アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた
【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。
カクヨム版の
分割投稿となりますので
一話が長かったり短かったりしています。
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる