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144 大聖者
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豪華な屋敷の応接間。オレの前にはソファーに深く座り込んだ壮年の男の姿があった。この屋敷の主である伯爵家の当主だ。
「このような姿で失礼するよ、バウムガルテン伯爵。以前にも言ったが、まぁ見ての通りなのだ」
「お気になさいますな。私はそれを治しに来ました」
男の左足は膝から下が無い。聞いた話では、昔モンスターに喰い千切られたらしい。もう二十年も前の話だという。
実は、オレがこの男の元を訪ねるのは二回目だ。一度目も男の左足の再生に挑み、しかし、失敗していた。オレには時間が経ってしまった欠損を治すことができなかったのだ。
ギフトが聖者の状態でも、オレは体の欠損を再生することができた。しかし、それは傷を負った直後から長くても一年ほどまでが限界だった。それ以上の時間が経ってしまうと、オレは体の欠損を治せなくなってしまう。
しかし、オレのギフトは治癒が聖者に、そして大聖者へと進化している。今ならば治せるという確信があった。
「失礼します」
オレは男の左膝に手を当てて唱える。
「ヒール」
その瞬間、奇跡が起きた。
男の左膝から下に淡い緑の光が集まると、一瞬だけカッと光る。そして、光が晴れた後には、男の左足がそこにあった。
「なんと!? 足が!? 足がある!?」
「動かせますか?」
「うむ! 膝も足首も、指先まで自由に動く! 足があるとはこんな感覚だったか! ははっ! 動く! 動くぞ!」
男が何度も左足を伸ばして子どものように目をキラキラさせてはしゃいでいる。
それにしても、リハビリもなしに失った足を自由自在に動かせるとは。魔法とはすごいな。
「感謝、感謝するバウムガルテン伯爵! まさか本当に足が治るとは! 見てくれ! 立つこともできる! 歩くこともできるぞ! ははっ! 素晴らしい! 私には足がある!」
よほど嬉しいのだろう。男は広い応接間の中を歩いたり、走ったり、ジャンプしたり、それはもう喜んでいた。
これほど素直に喜ばれると、オレとしても嬉しくなるな。
「感謝する、バウムガルテン伯爵! 本当に! ああ、すまない。本当に感謝しているんだ。だが、うまい言葉が見つからない!」
「喜んでいただけてよかった」
「なんと礼をすればいいのかわからないくらいだ。忌々しい役立たずの教会さえなければ、ちゃんと礼ができるのに心苦しい限りだよ」
「お気持ちだけで十分ですよ。以前、治療することができなかったことは私の心残りでしたので」
「本当に感謝する。そういえば、教会だが教皇が変わったことは知っているかね?」
「教皇が?」
そうなの? そんな大ニュース噂にならないわけがないと思うのだが……。
「私は教会に知り合いも多いからね。耳打ちしてくれたんだ。近々発表されるらしいが、教皇が変わる。今度の教皇は融和適応主義のヨハンネスだ。前教皇は過激な原理主義だったから頭が固かったが、ヨハンネスならば現実に即した判断をしてくれるだろうと皆が期待しているところだ」
「なるほど……」
教皇が変わるのはどうやら本当らしい。原理主義だの融和適応主義だのはなんのことだかわからないが、教会の体制も変わるかもしれないな。できれば邪神との戦争までに少しでも鍛えてほしいところだね。
◇
まぁ、オレには関係ないだろう。そう思っていた教皇の変更だったが、新しい教皇はオレの取り込みに本気のようだ。
「教皇就任おめでとうございます。まさかヨハンネス猊下が直接お越しになるとは驚きました……」
「突然の訪問すみません。ですがバウムガルテン卿とはどうしてもお会いしたくて」
王都のバウムガルテン屋敷。その応接間には、白い豪華な衣装を身に着けた壮年の男、ヨハンネス教皇が居た。
人好きのする柔和な笑みを浮かべた男だな。
よく見たら、オレとクラウディアの婚約式を当時の教皇の代理として執り行った男だった。教皇の補佐をする立場だったみたいだし、元から教会での序列は高かったらしい。
「クラウディアとの婚約式ではお世話になりました」
「いえいえ、とんでもございません。こちらこそ当時の教皇が失礼な態度をとってしまったこと申し訳なく思っています」
「それで、今日はどういった要件でしょうか? 私は恥ずかしながら幼少期から信仰が特別篤いというわけでもありませんし、猊下が直接来られるような栄誉に与る理由がわかりません」
「そう身構えなくてもけっこうですよ。今日はただお話をしに来ました」
「お話、ですか?」
「はい」
また柔和な笑みを浮かべてみせるヨハンネス。
いったいなにが目的なんだ?
オレの教会への所属か? それともオレのギフトの強化の仕方か。まぁ、そんなところだろう。
だが、その後はヨハンネスは世間話に終始した。あとはオレの生い立ちなどか。
本当に些細な話だ。
「今日はお時間を頂きありがとうございました。今日はこのあたりでお暇させていただきます」
結局、最後まで取るに足らない話で終わってしまった。
だが、オレはなんとなくヨハンネスの狙いに気が付いた。ヨハンネスはオレの教会への悪感情を見抜き、まずは信頼を勝ち取るために来たのだ。
それに、これからもヨハンネスが屋敷に来るとしたら、周りの人間はどう思うか。きっとオレと教会は親しい関係にあると勘違いするに違いない。
まずは既成事実で外堀を埋め、そして本丸であるオレの心を狙っている。極めて強かな手だ
どうにかしなければな……。
「このような姿で失礼するよ、バウムガルテン伯爵。以前にも言ったが、まぁ見ての通りなのだ」
「お気になさいますな。私はそれを治しに来ました」
男の左足は膝から下が無い。聞いた話では、昔モンスターに喰い千切られたらしい。もう二十年も前の話だという。
実は、オレがこの男の元を訪ねるのは二回目だ。一度目も男の左足の再生に挑み、しかし、失敗していた。オレには時間が経ってしまった欠損を治すことができなかったのだ。
ギフトが聖者の状態でも、オレは体の欠損を再生することができた。しかし、それは傷を負った直後から長くても一年ほどまでが限界だった。それ以上の時間が経ってしまうと、オレは体の欠損を治せなくなってしまう。
しかし、オレのギフトは治癒が聖者に、そして大聖者へと進化している。今ならば治せるという確信があった。
「失礼します」
オレは男の左膝に手を当てて唱える。
「ヒール」
その瞬間、奇跡が起きた。
男の左膝から下に淡い緑の光が集まると、一瞬だけカッと光る。そして、光が晴れた後には、男の左足がそこにあった。
「なんと!? 足が!? 足がある!?」
「動かせますか?」
「うむ! 膝も足首も、指先まで自由に動く! 足があるとはこんな感覚だったか! ははっ! 動く! 動くぞ!」
男が何度も左足を伸ばして子どものように目をキラキラさせてはしゃいでいる。
それにしても、リハビリもなしに失った足を自由自在に動かせるとは。魔法とはすごいな。
「感謝、感謝するバウムガルテン伯爵! まさか本当に足が治るとは! 見てくれ! 立つこともできる! 歩くこともできるぞ! ははっ! 素晴らしい! 私には足がある!」
よほど嬉しいのだろう。男は広い応接間の中を歩いたり、走ったり、ジャンプしたり、それはもう喜んでいた。
これほど素直に喜ばれると、オレとしても嬉しくなるな。
「感謝する、バウムガルテン伯爵! 本当に! ああ、すまない。本当に感謝しているんだ。だが、うまい言葉が見つからない!」
「喜んでいただけてよかった」
「なんと礼をすればいいのかわからないくらいだ。忌々しい役立たずの教会さえなければ、ちゃんと礼ができるのに心苦しい限りだよ」
「お気持ちだけで十分ですよ。以前、治療することができなかったことは私の心残りでしたので」
「本当に感謝する。そういえば、教会だが教皇が変わったことは知っているかね?」
「教皇が?」
そうなの? そんな大ニュース噂にならないわけがないと思うのだが……。
「私は教会に知り合いも多いからね。耳打ちしてくれたんだ。近々発表されるらしいが、教皇が変わる。今度の教皇は融和適応主義のヨハンネスだ。前教皇は過激な原理主義だったから頭が固かったが、ヨハンネスならば現実に即した判断をしてくれるだろうと皆が期待しているところだ」
「なるほど……」
教皇が変わるのはどうやら本当らしい。原理主義だの融和適応主義だのはなんのことだかわからないが、教会の体制も変わるかもしれないな。できれば邪神との戦争までに少しでも鍛えてほしいところだね。
◇
まぁ、オレには関係ないだろう。そう思っていた教皇の変更だったが、新しい教皇はオレの取り込みに本気のようだ。
「教皇就任おめでとうございます。まさかヨハンネス猊下が直接お越しになるとは驚きました……」
「突然の訪問すみません。ですがバウムガルテン卿とはどうしてもお会いしたくて」
王都のバウムガルテン屋敷。その応接間には、白い豪華な衣装を身に着けた壮年の男、ヨハンネス教皇が居た。
人好きのする柔和な笑みを浮かべた男だな。
よく見たら、オレとクラウディアの婚約式を当時の教皇の代理として執り行った男だった。教皇の補佐をする立場だったみたいだし、元から教会での序列は高かったらしい。
「クラウディアとの婚約式ではお世話になりました」
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「それで、今日はどういった要件でしょうか? 私は恥ずかしながら幼少期から信仰が特別篤いというわけでもありませんし、猊下が直接来られるような栄誉に与る理由がわかりません」
「そう身構えなくてもけっこうですよ。今日はただお話をしに来ました」
「お話、ですか?」
「はい」
また柔和な笑みを浮かべてみせるヨハンネス。
いったいなにが目的なんだ?
オレの教会への所属か? それともオレのギフトの強化の仕方か。まぁ、そんなところだろう。
だが、その後はヨハンネスは世間話に終始した。あとはオレの生い立ちなどか。
本当に些細な話だ。
「今日はお時間を頂きありがとうございました。今日はこのあたりでお暇させていただきます」
結局、最後まで取るに足らない話で終わってしまった。
だが、オレはなんとなくヨハンネスの狙いに気が付いた。ヨハンネスはオレの教会への悪感情を見抜き、まずは信頼を勝ち取るために来たのだ。
それに、これからもヨハンネスが屋敷に来るとしたら、周りの人間はどう思うか。きっとオレと教会は親しい関係にあると勘違いするに違いない。
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どうにかしなければな……。
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