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001 転生、出会い
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『燃やせ、命の輝き! パイロバーガンディー!』
「やめろよ……。やめてくれ、レオンハルト……。お前、そんな……」
PCの前で、オレは滂沱の涙を流していた。
主人公たちが確かに倒したはずの邪神。しかし、邪神は無限に回復する能力を持っていた。
その邪神に命を懸けて止めを刺すのが、今まで何度も主人公に挑み、無様に負け、笑いものとなり、挙句の果てには最愛の人まで主人公に奪われてしまった悪役貴族のデブモブだ。
もう何度見た光景だろう。だが、オレはこのシーンで涙を禁じ得なかった。
オレの推しであるサブヒロイン、セレスティーヌを一途に想い続けたその心に共感するし、主人公が諦めかけたその時、セレスティーヌを助けるために若いその命を投げ出すのだ。
これで泣かないなんてことがあるか!?
その活躍から、レオンハルトはPCゲーム『精霊の国~精霊に愛された少年~』の影の主人公とまで呼ばれ、人気投票では主人公を抜いて一位に輝いたこともあった。
当然オレもレオンハルトのことが大好きになり、攻略情報や公式設定資料集、公式の小説やマンガを隅から隅まで読み漁った。
それによると、レオンハルトには誰にも教えていない秘密の力があり、それ故に邪神を消滅させるだけの力を手に入れたらしい。
その秘密の力がなんなのかはわからない。
でも、オレは思うのだ。もっと上手く立ち回ることができただろ!
なんで実家からは冷遇され、学園では笑いものになり、挙句の果てには最愛の人まで主人公ハーレムのサブヒロインだ。
主人公になびいてしまったセレスティーヌをそれでも一途に想い続け、最後は命まで捧げている。
なんなんだよ! この報われない人生は!
レオンハルトの人生を思うと泣けてくる。それでも、レオンハルトはセレスティーヌを守れて満足して逝ったのだろう。
「クソッ! こんなの、あんまりだ……」
その時、オレはふと意識が遠のくのを感じた。さすがに五徹は無理があったか? でも、彼女にフラれたオレは無性に涙を流したい気分だったんだ。
「さすがに寝ないとか……。あ……?」
オレは立ち上がった瞬間に強烈な眩暈を覚えて、机の上に置かれた空のエナジードリンクの束をなぎ倒し、転倒していた。
転倒して頭を打ったというのに、まったく痛みを感じない。まるでカメラが倒れてしまった映像でも見ているようだった。
「へけ……」
もう意味のある言葉も紡げず、視界がだんだんと暗く狭くなっていく。
もう恐怖しか感じなかった。
そのままなにも見えなくなり、オレの意識は途絶えた。
◇
「これは……?」
そして現在へといたる。
そこは熱狂的な場所だった。人々が集まり、一方向を見ている。人々の視線の先には、鉄格子で囲われた檻があり、中には粗末な服を着た人々が入っていた。
『おい、貴様! 我が見えるのだろう!?』
そして、視界が空飛ぶトカゲで埋め尽くされる。まるで赤いウーパールーパーみたいなトカゲだ。
だが、オレはその姿に見覚えがあった。
「炎の大精霊、イフリート……?」
ゲーム『精霊の国』に登場したキャラクターだ。滅ぼされたルクレール王国を守る大精霊で、たしか今は力を失っているはず……。
「ぐッ!?」
その時、オレは強烈な頭の痛みを感じた。まるで規格の合わない部品を無理やり取り付けられたみたいだ。
そして、流れ込んできたのは九年間分の膨大な記憶だ。
オレは。オレは……。
「オレは、レオンハルトだ……」
レオンハルトとして生きてきた九年間分の記憶を吸収し、オレたちは一つになった。
どうやらオレはゲーム『精霊の国』の悪役貴族、レオンハルトに転生したらしい。そして、生まれて初めて大精霊を見た衝撃で前世の記憶を取り戻した。
このままではオレに待っているのは報われない人生。そして非業の死。
今のオレにそんな覚悟はできない。そんな未来は認められない。絶対にそんな未来変えてやる!
『おい、レオンハルト。我のことを知っているなら話が早い。貴様に頼みたいことがある』
目の前で赤いウーパールーパーが叫ぶ。イフリートの声は周りの人間には聞こえていないのか、誰も見向きもしなかった。
しかし、なんでイフリートがこんな所にいるんだ?
前世の知識によると、たしか、ルクレール王国が滅んでからは行方知れずだった気がするんだが……。
『ルクレール王国を滅ぼした国の貴族に頼むのは業腹だが仕方がない。貴様には、ある一人の少女を救ってもらいたい。その対価は我の力だ』
「少女……?」
『ああ、あの牢の中に囚われている』
イフリートと小さな指が指す方向を見ると、そこには見覚えのある少女がいた。銀色に輝く長い髪に深紅の瞳。まだ幼いながらも美しく気高いものを感じる少女だった。
セレスティーヌだ!
オレが推しを見間違えるはずなんてない!
『彼女が何者か。それは我と契約したら教えよう。頼む、彼女を守ってやってくれ……』
「契約しよう……!」
オレの心は、レオンハルトの心はもうセレスティーヌに奪われていた。
ここは奴隷市だ。今のセレスティーヌは奴隷なのだ。オレが買わなければ、誰かに買われてしまうかもしれない。
「あの少女は何者だ?」
「美しい。ありゃきっと目玉商品だな」
「だが使うにはまだ二、三年はかかるだろうな」
「ちげえねえ」
「なんとか安く手に入れれないもんかねえ」
間違ってもこんな下卑た男たちの手に渡していいわけがない!
だが、どうする?
オレは金なんて持ってないぞ?
無論、屋敷に帰れば金はある。だが、手持ちがない。
オレの焦りとは裏腹に、スムーズに奴隷の売買は進み、ついにセレスティーヌの番になってしまった。
「次はこの少女の奴隷ですな。見てくださいこの美しさ。将来どんな美姫となるか。それをこの年齢から躾けてみるのも一興だとは思いませんか? まずは五百から始めましょう」
「五百十!」
「五百二十!」
「五百五十!」
ゲーム『精霊の国』では、セレスティーヌはレオンハルトのメイドだった。つまり、レオンハルトはこの競りに勝ったはずだ。そうじゃなければおかしい。
「六百!」
「六百十!」
男たちの声に焦りばかりが浮かび、キュッと胸が苦しくなる。
胸をかきむしるように服を掴むと、腰に重みを感じた。
そうか! これを使えば!
「七百三十!」
「ええい! 七百五十だ!」
オレは腰の短剣を外し、振りかざすようにして競りに参加する。
「一千だ!」
「ええ!?」
「おい、あれ!?」
「子ども……? いや、あの紋章は!?」
「どうしてこんな所に!?」
「あの子どもは……、いや、あの方は……!」
熱狂していた奴隷市がしんと静まり返った。オレのかざした短剣の柄には、この地を治める侯爵家、クラルヴァインの紋章があったからだ。
この短剣は、クラルヴァイン侯爵家の嫡子のみが持てる短剣だ。とりあえずの質にしては十分だろう。
そして、だれも侯爵家嫡子であるオレと競ろうとは思わなかったのか、セレスティーヌは無事に確保できた。
奴隷商に引き渡されたセレスティーヌは、まるで生きる気力を失くしたように呆然とした表情をしていた。
オレはひざまずくと、まるで壊れやすい細工物を扱うように慎重にセレスティーヌの手を取った。
「レオンハルト・クラルヴァインです。以後お見知りおきを」
「セレ……。セリア……です……」
今は王家が血眼になってセレスティーヌの行方を捜している。彼女は自分の本当の名前も名乗ることができない。
『小僧、たしかレオンハルトと言ったな? まずは彼女を助けてもらったことに礼を言おう。しかし、彼女に不埒なマネをしたら我が貴様を燃やし尽くすからな。覚悟をしておけ』
イフリートの忠告を受けても、オレはセレスティーヌの顔から視線を逸らすことができなかった。
彼女は今、絶望の中にいる。国を滅ぼされ、家族を殺され、帰る場所さえない。
救ってあげたいと思った。そのためならば、なんでもできるような気さえした。
「やめろよ……。やめてくれ、レオンハルト……。お前、そんな……」
PCの前で、オレは滂沱の涙を流していた。
主人公たちが確かに倒したはずの邪神。しかし、邪神は無限に回復する能力を持っていた。
その邪神に命を懸けて止めを刺すのが、今まで何度も主人公に挑み、無様に負け、笑いものとなり、挙句の果てには最愛の人まで主人公に奪われてしまった悪役貴族のデブモブだ。
もう何度見た光景だろう。だが、オレはこのシーンで涙を禁じ得なかった。
オレの推しであるサブヒロイン、セレスティーヌを一途に想い続けたその心に共感するし、主人公が諦めかけたその時、セレスティーヌを助けるために若いその命を投げ出すのだ。
これで泣かないなんてことがあるか!?
その活躍から、レオンハルトはPCゲーム『精霊の国~精霊に愛された少年~』の影の主人公とまで呼ばれ、人気投票では主人公を抜いて一位に輝いたこともあった。
当然オレもレオンハルトのことが大好きになり、攻略情報や公式設定資料集、公式の小説やマンガを隅から隅まで読み漁った。
それによると、レオンハルトには誰にも教えていない秘密の力があり、それ故に邪神を消滅させるだけの力を手に入れたらしい。
その秘密の力がなんなのかはわからない。
でも、オレは思うのだ。もっと上手く立ち回ることができただろ!
なんで実家からは冷遇され、学園では笑いものになり、挙句の果てには最愛の人まで主人公ハーレムのサブヒロインだ。
主人公になびいてしまったセレスティーヌをそれでも一途に想い続け、最後は命まで捧げている。
なんなんだよ! この報われない人生は!
レオンハルトの人生を思うと泣けてくる。それでも、レオンハルトはセレスティーヌを守れて満足して逝ったのだろう。
「クソッ! こんなの、あんまりだ……」
その時、オレはふと意識が遠のくのを感じた。さすがに五徹は無理があったか? でも、彼女にフラれたオレは無性に涙を流したい気分だったんだ。
「さすがに寝ないとか……。あ……?」
オレは立ち上がった瞬間に強烈な眩暈を覚えて、机の上に置かれた空のエナジードリンクの束をなぎ倒し、転倒していた。
転倒して頭を打ったというのに、まったく痛みを感じない。まるでカメラが倒れてしまった映像でも見ているようだった。
「へけ……」
もう意味のある言葉も紡げず、視界がだんだんと暗く狭くなっていく。
もう恐怖しか感じなかった。
そのままなにも見えなくなり、オレの意識は途絶えた。
◇
「これは……?」
そして現在へといたる。
そこは熱狂的な場所だった。人々が集まり、一方向を見ている。人々の視線の先には、鉄格子で囲われた檻があり、中には粗末な服を着た人々が入っていた。
『おい、貴様! 我が見えるのだろう!?』
そして、視界が空飛ぶトカゲで埋め尽くされる。まるで赤いウーパールーパーみたいなトカゲだ。
だが、オレはその姿に見覚えがあった。
「炎の大精霊、イフリート……?」
ゲーム『精霊の国』に登場したキャラクターだ。滅ぼされたルクレール王国を守る大精霊で、たしか今は力を失っているはず……。
「ぐッ!?」
その時、オレは強烈な頭の痛みを感じた。まるで規格の合わない部品を無理やり取り付けられたみたいだ。
そして、流れ込んできたのは九年間分の膨大な記憶だ。
オレは。オレは……。
「オレは、レオンハルトだ……」
レオンハルトとして生きてきた九年間分の記憶を吸収し、オレたちは一つになった。
どうやらオレはゲーム『精霊の国』の悪役貴族、レオンハルトに転生したらしい。そして、生まれて初めて大精霊を見た衝撃で前世の記憶を取り戻した。
このままではオレに待っているのは報われない人生。そして非業の死。
今のオレにそんな覚悟はできない。そんな未来は認められない。絶対にそんな未来変えてやる!
『おい、レオンハルト。我のことを知っているなら話が早い。貴様に頼みたいことがある』
目の前で赤いウーパールーパーが叫ぶ。イフリートの声は周りの人間には聞こえていないのか、誰も見向きもしなかった。
しかし、なんでイフリートがこんな所にいるんだ?
前世の知識によると、たしか、ルクレール王国が滅んでからは行方知れずだった気がするんだが……。
『ルクレール王国を滅ぼした国の貴族に頼むのは業腹だが仕方がない。貴様には、ある一人の少女を救ってもらいたい。その対価は我の力だ』
「少女……?」
『ああ、あの牢の中に囚われている』
イフリートと小さな指が指す方向を見ると、そこには見覚えのある少女がいた。銀色に輝く長い髪に深紅の瞳。まだ幼いながらも美しく気高いものを感じる少女だった。
セレスティーヌだ!
オレが推しを見間違えるはずなんてない!
『彼女が何者か。それは我と契約したら教えよう。頼む、彼女を守ってやってくれ……』
「契約しよう……!」
オレの心は、レオンハルトの心はもうセレスティーヌに奪われていた。
ここは奴隷市だ。今のセレスティーヌは奴隷なのだ。オレが買わなければ、誰かに買われてしまうかもしれない。
「あの少女は何者だ?」
「美しい。ありゃきっと目玉商品だな」
「だが使うにはまだ二、三年はかかるだろうな」
「ちげえねえ」
「なんとか安く手に入れれないもんかねえ」
間違ってもこんな下卑た男たちの手に渡していいわけがない!
だが、どうする?
オレは金なんて持ってないぞ?
無論、屋敷に帰れば金はある。だが、手持ちがない。
オレの焦りとは裏腹に、スムーズに奴隷の売買は進み、ついにセレスティーヌの番になってしまった。
「次はこの少女の奴隷ですな。見てくださいこの美しさ。将来どんな美姫となるか。それをこの年齢から躾けてみるのも一興だとは思いませんか? まずは五百から始めましょう」
「五百十!」
「五百二十!」
「五百五十!」
ゲーム『精霊の国』では、セレスティーヌはレオンハルトのメイドだった。つまり、レオンハルトはこの競りに勝ったはずだ。そうじゃなければおかしい。
「六百!」
「六百十!」
男たちの声に焦りばかりが浮かび、キュッと胸が苦しくなる。
胸をかきむしるように服を掴むと、腰に重みを感じた。
そうか! これを使えば!
「七百三十!」
「ええい! 七百五十だ!」
オレは腰の短剣を外し、振りかざすようにして競りに参加する。
「一千だ!」
「ええ!?」
「おい、あれ!?」
「子ども……? いや、あの紋章は!?」
「どうしてこんな所に!?」
「あの子どもは……、いや、あの方は……!」
熱狂していた奴隷市がしんと静まり返った。オレのかざした短剣の柄には、この地を治める侯爵家、クラルヴァインの紋章があったからだ。
この短剣は、クラルヴァイン侯爵家の嫡子のみが持てる短剣だ。とりあえずの質にしては十分だろう。
そして、だれも侯爵家嫡子であるオレと競ろうとは思わなかったのか、セレスティーヌは無事に確保できた。
奴隷商に引き渡されたセレスティーヌは、まるで生きる気力を失くしたように呆然とした表情をしていた。
オレはひざまずくと、まるで壊れやすい細工物を扱うように慎重にセレスティーヌの手を取った。
「レオンハルト・クラルヴァインです。以後お見知りおきを」
「セレ……。セリア……です……」
今は王家が血眼になってセレスティーヌの行方を捜している。彼女は自分の本当の名前も名乗ることができない。
『小僧、たしかレオンハルトと言ったな? まずは彼女を助けてもらったことに礼を言おう。しかし、彼女に不埒なマネをしたら我が貴様を燃やし尽くすからな。覚悟をしておけ』
イフリートの忠告を受けても、オレはセレスティーヌの顔から視線を逸らすことができなかった。
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救ってあげたいと思った。そのためならば、なんでもできるような気さえした。
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