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014 双剣
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「負けたか……。世界は広い……」
目の前でオイゲンが地面に座り込んでがっくり肩を落としていた。
ここは先生に花を持たせるためにわざと負けた方がよかっただろうか?
だが、あのオイゲンの一撃は確実にオレの命を取りに来てたような気がするんだよなぁ……。
「オイゲン……?」
「じゃが、お前をどう育てるかは決まった!」
オイゲンが急に立ち上がった。
「お前は基本が全然なっとらん! たしかにその身体能力は脅威じゃ。じゃが、それに頼るばかりで剣の使い方がまるでなっとらん! それでは世界最強にはなれんぞ?」
「いや、オレはべつに最強になりたいわけじゃ……」
「剣を習う以上、目指すは最強以外はない!」
この爺ちゃん思想が強いなぁ……。
「それと、お前は双剣を習うべきだな。その方がその身体能力を活かしやすい」
「双剣を?」
「今のお前なら、片手で剣を持っても剣先がブレることはないじゃろ?」
試しに左手で剣を持ってみたが、まるで軽い木の枝でも持っているような負荷しかない。下手すればなにも持ってないと感じるくらいだ。
「まぁ、ブレることはなさそうだが……」
「普通はそれが難しい。お前は双剣向きだ。お前の力ならば、片手でも十分に相手に致命傷を与えられる。ならば、手数が倍に増える双剣の方が有利じゃ」
「なるほど……」
やけに双剣を推してくるなぁ。だが、その言い分は正しいような気がした。
双剣はゲームでは攻撃一辺倒なスキル構成だったな。できれば、セリアを守るようなスキルも欲しいところだが……。まぁ、敵を早く倒すなら双剣が有利だな。攻撃は最大の防御とも言うし。
「それに、儂は元々双剣士じゃからな。双剣の方がいろいろ教えられるぞ?」
「じゃあ、双剣にするわ」
「うむ!」
オイゲンは満足そうに頷くと、折られた、というか焼き切られた双剣を大事そうに拾った。あんまりしっかりと見てなかったけど、これってなかなかレアな剣じゃね?
「その、剣すまなかったな……」
「いや、こいつらも長い戦いの中で散ったのじゃ。満足じゃったじゃろう。さて、湿っぽい話はなしじゃ。お前には一つの練習方法を授けよう」
「練習方法?」
オイゲンは頷くと、両手を合わせる手前のような恰好を取った。手の間は三センチほどの隙間がある。
「よし、お前はまずは身体強化の魔法を解いて、両手とも手刀の形を取れ」
「ああ……」
なにをするんだ?
「では、まずは右からいくか。右の手刀を振り上げて、儂の手の間を通してみろ」
「そんな簡単なことでいいのか?」
「いい」
オレは右手を振り上げると、そのまままっすぐオイゲンの手の間を通るように振り下ろす。オレの手刀はスッとオイゲンの手の間を通った。
こんなの簡単だ。これがなんの練習になるんだ?
「今、手の間を通る直前に速度を緩めて狙いを改めたな?」
「ん? ああ。それがどうしたんだ?」
「次はそれは無しだ。速度を変えず、ただまっすぐ下ろせ」
「ああ」
オレはまた手を振りかぶると、そのままオイゲンの手の間を狙って振り下ろす。
しかし、今度はオイゲンの手にぶつかってしまった。失敗だ。
「なぁ、これになんの意味があるんだ?」
「次は力いっぱい振り下ろしてみろ。それでわかる」
「ああ……」
オレは疑問を押し殺して、次は力いっぱい振り下ろした。すると、オレの手刀はオイゲンの指の間を通るどころかオイゲンの腕に当たった。
「これでわかっただろ?」
オイゲンがドヤ顔で訊いてくるが、オレには訳がわからなかった。
「……つまり、どういうことだ?」
「はぁ、お前も鈍い奴だな。ゆっくりやって手の間を通すなど誰でもできる。だが、力いっぱいやったらこんなにズレただろ? 手だけでこれだけズレるんだぞ? 手で持った剣で狙った所を斬ろうとしたらどれだけズレる?」
「なるほど、そういうことか……」
たしかに、剣を振る時は全力で振るだろう。その時、手だけでこんなに狙いとズレているんだ。そんなんじゃ剣先がどれだけズレているのかって話だな。
「人間、自分の体を完璧に制御できているようで全然できてねえ。試合の前にお前は素振りがどうのと言っていたが、素振りをやる意味がわかるか? あれはただ剣を振る練習じゃねえ。剣を狙った所に振り下ろす練習だ。お前にはまだ早い。まずは手を完璧に振る練習だ」
たしかにオレは素振りの練習の意味すら知らなかった。だが、まさか素振り以前の問題だったとは思わなかったな……。
「先は長そうだな……」
「なにを言っている?」
つい疲れた声が漏れたオレをオイゲンは笑っていた。
「剣術なんてのは一生練習だ。終わりなんてねえよ」
深いなぁ……。
オレはどこかでゲームの感覚があった。ゲームでは双剣のマスタリーにもカンストがあるから、どこかで上限があるのかと思っていた。
だが、一生練習か。
たしかに、一生学ばないとな。
それに、最初にオイゲンが見せた足運び。あれも練習の賜物なのだろう。強力なスキルを覚えるよりも、基本を大事にした方がよさそうだ。
目の前でオイゲンが地面に座り込んでがっくり肩を落としていた。
ここは先生に花を持たせるためにわざと負けた方がよかっただろうか?
だが、あのオイゲンの一撃は確実にオレの命を取りに来てたような気がするんだよなぁ……。
「オイゲン……?」
「じゃが、お前をどう育てるかは決まった!」
オイゲンが急に立ち上がった。
「お前は基本が全然なっとらん! たしかにその身体能力は脅威じゃ。じゃが、それに頼るばかりで剣の使い方がまるでなっとらん! それでは世界最強にはなれんぞ?」
「いや、オレはべつに最強になりたいわけじゃ……」
「剣を習う以上、目指すは最強以外はない!」
この爺ちゃん思想が強いなぁ……。
「それと、お前は双剣を習うべきだな。その方がその身体能力を活かしやすい」
「双剣を?」
「今のお前なら、片手で剣を持っても剣先がブレることはないじゃろ?」
試しに左手で剣を持ってみたが、まるで軽い木の枝でも持っているような負荷しかない。下手すればなにも持ってないと感じるくらいだ。
「まぁ、ブレることはなさそうだが……」
「普通はそれが難しい。お前は双剣向きだ。お前の力ならば、片手でも十分に相手に致命傷を与えられる。ならば、手数が倍に増える双剣の方が有利じゃ」
「なるほど……」
やけに双剣を推してくるなぁ。だが、その言い分は正しいような気がした。
双剣はゲームでは攻撃一辺倒なスキル構成だったな。できれば、セリアを守るようなスキルも欲しいところだが……。まぁ、敵を早く倒すなら双剣が有利だな。攻撃は最大の防御とも言うし。
「それに、儂は元々双剣士じゃからな。双剣の方がいろいろ教えられるぞ?」
「じゃあ、双剣にするわ」
「うむ!」
オイゲンは満足そうに頷くと、折られた、というか焼き切られた双剣を大事そうに拾った。あんまりしっかりと見てなかったけど、これってなかなかレアな剣じゃね?
「その、剣すまなかったな……」
「いや、こいつらも長い戦いの中で散ったのじゃ。満足じゃったじゃろう。さて、湿っぽい話はなしじゃ。お前には一つの練習方法を授けよう」
「練習方法?」
オイゲンは頷くと、両手を合わせる手前のような恰好を取った。手の間は三センチほどの隙間がある。
「よし、お前はまずは身体強化の魔法を解いて、両手とも手刀の形を取れ」
「ああ……」
なにをするんだ?
「では、まずは右からいくか。右の手刀を振り上げて、儂の手の間を通してみろ」
「そんな簡単なことでいいのか?」
「いい」
オレは右手を振り上げると、そのまままっすぐオイゲンの手の間を通るように振り下ろす。オレの手刀はスッとオイゲンの手の間を通った。
こんなの簡単だ。これがなんの練習になるんだ?
「今、手の間を通る直前に速度を緩めて狙いを改めたな?」
「ん? ああ。それがどうしたんだ?」
「次はそれは無しだ。速度を変えず、ただまっすぐ下ろせ」
「ああ」
オレはまた手を振りかぶると、そのままオイゲンの手の間を狙って振り下ろす。
しかし、今度はオイゲンの手にぶつかってしまった。失敗だ。
「なぁ、これになんの意味があるんだ?」
「次は力いっぱい振り下ろしてみろ。それでわかる」
「ああ……」
オレは疑問を押し殺して、次は力いっぱい振り下ろした。すると、オレの手刀はオイゲンの指の間を通るどころかオイゲンの腕に当たった。
「これでわかっただろ?」
オイゲンがドヤ顔で訊いてくるが、オレには訳がわからなかった。
「……つまり、どういうことだ?」
「はぁ、お前も鈍い奴だな。ゆっくりやって手の間を通すなど誰でもできる。だが、力いっぱいやったらこんなにズレただろ? 手だけでこれだけズレるんだぞ? 手で持った剣で狙った所を斬ろうとしたらどれだけズレる?」
「なるほど、そういうことか……」
たしかに、剣を振る時は全力で振るだろう。その時、手だけでこんなに狙いとズレているんだ。そんなんじゃ剣先がどれだけズレているのかって話だな。
「人間、自分の体を完璧に制御できているようで全然できてねえ。試合の前にお前は素振りがどうのと言っていたが、素振りをやる意味がわかるか? あれはただ剣を振る練習じゃねえ。剣を狙った所に振り下ろす練習だ。お前にはまだ早い。まずは手を完璧に振る練習だ」
たしかにオレは素振りの練習の意味すら知らなかった。だが、まさか素振り以前の問題だったとは思わなかったな……。
「先は長そうだな……」
「なにを言っている?」
つい疲れた声が漏れたオレをオイゲンは笑っていた。
「剣術なんてのは一生練習だ。終わりなんてねえよ」
深いなぁ……。
オレはどこかでゲームの感覚があった。ゲームでは双剣のマスタリーにもカンストがあるから、どこかで上限があるのかと思っていた。
だが、一生練習か。
たしかに、一生学ばないとな。
それに、最初にオイゲンが見せた足運び。あれも練習の賜物なのだろう。強力なスキルを覚えるよりも、基本を大事にした方がよさそうだ。
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