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052 約束
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ウンディーネとの邂逅も終わり、オレとセリアは火竜グレンプニールの背中の上に座っていた。
オレの魔法が効いたのか、グレンプニールは古傷もなくなり、ピカピカの鱗をしている。おかげでツルツル滑ってちょっと怖い。
のだけど……。実はそんなことよりもたいへんなことがある。
なんと、セリアがオレに抱き付いているのだ!
「もう……。心配しました……」
そして、甘えたような態度でオレの胸を軽く叩く。
え? なにこれ? どういう状況なの!?
モテ期? これがモテ期ってやつ!?
「セリア、えっと、その……」
「いや……」
そっとセリアを剥がそうとすると、セリアは抵抗するようにオレの胸の中へと入り込む。まるで甘いミルクのようなセリアのいい匂いがするよ。どうにかなっちゃいそうだ!
「セリア、あの、えっと……?」
今日のセリアはいったどうしちゃったんだろう?
オレはドキドキする心を落ち着けて言葉を紡ごうとするけど、上手くいかなかった。
セリアがそっと胸から上目遣いでオレの顔を見つめてきた。
それだけで、口に出そうとした言葉も忘れてくらくらしてしまいそうだった。
「ご無理をなさったんでしょう?」
「無理? 無理なんてしてない、よ?」
「嘘。だって、こんなにやつれてしまわれて……」
セリアの手が労わるようにオレの頬を撫でる。
それだけでカッと火が付いたように顔が熱くなるのを感じた。
「た、たしかに、ちょっと痩せちゃったかもしれないけど……」
「ちょっとどころではありません! こんなに……」
セリアの青い瞳が涙で揺れる。
「あー泣かないで! 泣かないで!」
オレはあたふたしながら、セリアの背中をさすったりしてみた。それが効果的だったのかはわからないけど、セリアの涙は危ういところで押し留まっていた。
「そうだわ。レオン様、私、クッキーを持っているんです!」
そう言ってセリアが後ろに置いていたバケットを手に取って、その中からクッキーを取り出してみせた。
たぶん、オレがお腹が空いた時にすぐに出せるように用意していたものだろう。バターと小麦の香しい匂いに、猛烈に空腹であることを自覚した。今すぐに食べたい。
すると、セリアがオレの口の前にクッキーを持ってきた。
「あ、あーん」
下を見れば、セリアが顔を赤らめているのが見えた。
え? これ食べていいの? セリアにあーんしてもらっちゃっていいの!?
戸惑いが先行するけど、空腹には耐えられず、パクリとクッキーを頬張った。
なんだか緊張しすぎてクッキーの味がわからないよ。
すると、セリアはいそいそと次のクッキーをオレの口の前に持ってきた。
「あ、あーん」
「パクッ!」
それからわんこそばのように次々と現れるクッキーをセリアの手から食べていく。
「お茶もお飲みになりますか?」
「うん。あ、セリア。もう自分で食べられるよ?」
「いけません。こんなにやつれてしまわれたのですもの。私がお世話しなくては!」
「あいえー……?」
セリアにお茶を飲ませてもらって、それからまたクッキーを食べさせてもらう。
なんだろう。ずっと心をくすぐられているような心地だ。
こんなご褒美があっていいのだろうか?
まぁ、がんばったしね。これくらいいいよね……?
その時だった。
『仲睦まじいところ悪いが、そろそろどこへ行くか決めてもらってもいいか?』
なんだか威厳のある男の声が頭に響いた。グレンプニールの声だ。
「このお声は……!」
セリアも聞いたことがあるのか、オレの腕の中でハッとした様子をみせる。
そして、渋々といった感じにオレから体を離した。
オレとしては、助かったのか寂しいのか、よくわからない感情になる。
「グレンプニール様、ですか?」
『いかにも。久しいな、セレスティーヌよ』
「はい!」
セリアがオレを真剣な顔で見てきた。
「申し訳ありません、レオンハルト様。レオンハルト様はもうご存じかもしれませんが、私は訳あって名を偽っていました。わたくしの本当の名前はセレスティーヌと申します」
「知ってるよ。グレンプニールに聞いたんだ」
オレはグレンプニールの背でひざまずく。
「知らぬこととはいえ、セレスティーヌ様にはたいへんなご無礼をいたしました。申し訳ございません」
「……本当に知らなかったんですか?」
「と、いいますと?」
敢えて白を切るオレをセレスティーヌは見極めようと見ていた。
「わたくしはあなたの奴隷になりましたが、なに不自由なく暮らしてこれました。普通はありえないことだというのはわたくしにもわかります。わたくしは幼い頃から不思議な温かな視線に守られてきました。きっとイフリート様のものだったのだと今では思っています」
そこでセレスティーヌは一度目を伏せる。
セレスティーヌはもう、イフリートが亡くなったことを受け入れつつあるのだと感じた。
「そして、なによりレオンハルト様のそのお力。そのお力は、イフリート様のものではありませんか? あなたは、イフリート様から後を頼まれたのではありませんか? だから、わたくしを見るあなたの目も温かさに満ちているのではないのですか?」
真剣な表情のセレスティーヌ。もう誤魔化しきれない。だが、オレの口からは言えない。それがイフリートとの最期の約束だからだ。
オレの魔法が効いたのか、グレンプニールは古傷もなくなり、ピカピカの鱗をしている。おかげでツルツル滑ってちょっと怖い。
のだけど……。実はそんなことよりもたいへんなことがある。
なんと、セリアがオレに抱き付いているのだ!
「もう……。心配しました……」
そして、甘えたような態度でオレの胸を軽く叩く。
え? なにこれ? どういう状況なの!?
モテ期? これがモテ期ってやつ!?
「セリア、えっと、その……」
「いや……」
そっとセリアを剥がそうとすると、セリアは抵抗するようにオレの胸の中へと入り込む。まるで甘いミルクのようなセリアのいい匂いがするよ。どうにかなっちゃいそうだ!
「セリア、あの、えっと……?」
今日のセリアはいったどうしちゃったんだろう?
オレはドキドキする心を落ち着けて言葉を紡ごうとするけど、上手くいかなかった。
セリアがそっと胸から上目遣いでオレの顔を見つめてきた。
それだけで、口に出そうとした言葉も忘れてくらくらしてしまいそうだった。
「ご無理をなさったんでしょう?」
「無理? 無理なんてしてない、よ?」
「嘘。だって、こんなにやつれてしまわれて……」
セリアの手が労わるようにオレの頬を撫でる。
それだけでカッと火が付いたように顔が熱くなるのを感じた。
「た、たしかに、ちょっと痩せちゃったかもしれないけど……」
「ちょっとどころではありません! こんなに……」
セリアの青い瞳が涙で揺れる。
「あー泣かないで! 泣かないで!」
オレはあたふたしながら、セリアの背中をさすったりしてみた。それが効果的だったのかはわからないけど、セリアの涙は危ういところで押し留まっていた。
「そうだわ。レオン様、私、クッキーを持っているんです!」
そう言ってセリアが後ろに置いていたバケットを手に取って、その中からクッキーを取り出してみせた。
たぶん、オレがお腹が空いた時にすぐに出せるように用意していたものだろう。バターと小麦の香しい匂いに、猛烈に空腹であることを自覚した。今すぐに食べたい。
すると、セリアがオレの口の前にクッキーを持ってきた。
「あ、あーん」
下を見れば、セリアが顔を赤らめているのが見えた。
え? これ食べていいの? セリアにあーんしてもらっちゃっていいの!?
戸惑いが先行するけど、空腹には耐えられず、パクリとクッキーを頬張った。
なんだか緊張しすぎてクッキーの味がわからないよ。
すると、セリアはいそいそと次のクッキーをオレの口の前に持ってきた。
「あ、あーん」
「パクッ!」
それからわんこそばのように次々と現れるクッキーをセリアの手から食べていく。
「お茶もお飲みになりますか?」
「うん。あ、セリア。もう自分で食べられるよ?」
「いけません。こんなにやつれてしまわれたのですもの。私がお世話しなくては!」
「あいえー……?」
セリアにお茶を飲ませてもらって、それからまたクッキーを食べさせてもらう。
なんだろう。ずっと心をくすぐられているような心地だ。
こんなご褒美があっていいのだろうか?
まぁ、がんばったしね。これくらいいいよね……?
その時だった。
『仲睦まじいところ悪いが、そろそろどこへ行くか決めてもらってもいいか?』
なんだか威厳のある男の声が頭に響いた。グレンプニールの声だ。
「このお声は……!」
セリアも聞いたことがあるのか、オレの腕の中でハッとした様子をみせる。
そして、渋々といった感じにオレから体を離した。
オレとしては、助かったのか寂しいのか、よくわからない感情になる。
「グレンプニール様、ですか?」
『いかにも。久しいな、セレスティーヌよ』
「はい!」
セリアがオレを真剣な顔で見てきた。
「申し訳ありません、レオンハルト様。レオンハルト様はもうご存じかもしれませんが、私は訳あって名を偽っていました。わたくしの本当の名前はセレスティーヌと申します」
「知ってるよ。グレンプニールに聞いたんだ」
オレはグレンプニールの背でひざまずく。
「知らぬこととはいえ、セレスティーヌ様にはたいへんなご無礼をいたしました。申し訳ございません」
「……本当に知らなかったんですか?」
「と、いいますと?」
敢えて白を切るオレをセレスティーヌは見極めようと見ていた。
「わたくしはあなたの奴隷になりましたが、なに不自由なく暮らしてこれました。普通はありえないことだというのはわたくしにもわかります。わたくしは幼い頃から不思議な温かな視線に守られてきました。きっとイフリート様のものだったのだと今では思っています」
そこでセレスティーヌは一度目を伏せる。
セレスティーヌはもう、イフリートが亡くなったことを受け入れつつあるのだと感じた。
「そして、なによりレオンハルト様のそのお力。そのお力は、イフリート様のものではありませんか? あなたは、イフリート様から後を頼まれたのではありませんか? だから、わたくしを見るあなたの目も温かさに満ちているのではないのですか?」
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