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「今まで、本当にお世話になりました」
アンナは、慣れ親しんだ騎士団の付設食堂でもう一度頭を下げていた。普段はいかつい料理長までが、目を真っ赤にしている。
「アンナちゃんが辞めちゃうのは寂しいけれど、こればっかりは仕方がないねえ」
「旦那さんの仕事についていくってんだから、まったく優しい子だよ」
「嫌になったらいつでも帰っておいで」
「そうそう、ここは第二の実家みたいなもんだから」
涙ぐむアンナに、ラザラスが困り顔でハンカチを渡した。
「みなさん、妻をそそのかすのはやめてほしい。せっかく、北部までついてきてくれると言ってくれたのだから」
「もう、ラザラスさま。私がついていかないはずがないでしょう?」
異母兄の悪事を暴いたラザラスは、その力を隠すことをやめ、王太子派に属することを決めた。これからは王都の目が届きにくい辺境を回り、情報収集につとめることになる。その1ヶ所目が、これから行く北部地方だった。
「だがあなたの夢は、故郷への偏見をなくし、美味しい料理を王都に広めることだったはずだ」
「草の根運動って、大事なんですよ。それに他の地方に行けば、また面白い料理に出会えるでしょう? いつかそれを、王都で紹介できたらいいですよね」
アンナは片目をつぶってみせた。
「それに、故郷の料理を作るって約束をしたでしょう。まだラザラスさまに作っていないものがたくさんあるんです」
「そうか。これからも、作ってもらえるか」
「もちろんです。おじいさんになるまで、毎日出しますし、飽きたと言っても許してあげませんから」
「一生食べても、飽きるわけがない」
赤面するアンナの頬に、ラザラスは口づけを落とした。
食の国として知られる王国がある。ここでは、どんな辺境であっても飢えることなく、人々は穏やかに暮らしているという。そして王都のとある食堂には、各地の名物料理をふるまうおしどり夫婦がいるそうだ。
アンナは、慣れ親しんだ騎士団の付設食堂でもう一度頭を下げていた。普段はいかつい料理長までが、目を真っ赤にしている。
「アンナちゃんが辞めちゃうのは寂しいけれど、こればっかりは仕方がないねえ」
「旦那さんの仕事についていくってんだから、まったく優しい子だよ」
「嫌になったらいつでも帰っておいで」
「そうそう、ここは第二の実家みたいなもんだから」
涙ぐむアンナに、ラザラスが困り顔でハンカチを渡した。
「みなさん、妻をそそのかすのはやめてほしい。せっかく、北部までついてきてくれると言ってくれたのだから」
「もう、ラザラスさま。私がついていかないはずがないでしょう?」
異母兄の悪事を暴いたラザラスは、その力を隠すことをやめ、王太子派に属することを決めた。これからは王都の目が届きにくい辺境を回り、情報収集につとめることになる。その1ヶ所目が、これから行く北部地方だった。
「だがあなたの夢は、故郷への偏見をなくし、美味しい料理を王都に広めることだったはずだ」
「草の根運動って、大事なんですよ。それに他の地方に行けば、また面白い料理に出会えるでしょう? いつかそれを、王都で紹介できたらいいですよね」
アンナは片目をつぶってみせた。
「それに、故郷の料理を作るって約束をしたでしょう。まだラザラスさまに作っていないものがたくさんあるんです」
「そうか。これからも、作ってもらえるか」
「もちろんです。おじいさんになるまで、毎日出しますし、飽きたと言っても許してあげませんから」
「一生食べても、飽きるわけがない」
赤面するアンナの頬に、ラザラスは口づけを落とした。
食の国として知られる王国がある。ここでは、どんな辺境であっても飢えることなく、人々は穏やかに暮らしているという。そして王都のとある食堂には、各地の名物料理をふるまうおしどり夫婦がいるそうだ。
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