私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠

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 この喫茶店に初めてきたのは、2年前。第一志望の会社の面接で落とされてへこんでいた時だ。

 お祈りメールなんて届かなくても、面接終了の時点で完全にアウトなのがわかった。

『これから、どうするの?』
『カレーでも食べて帰ります』
『そうだね。ダメな時こそ、たくさん食べて体力をつけた方がいいよ。頑張って』

 お腹が空いていたはずなのに、きゅっと胃が痛くなったのを覚えている。それからどこに行こうか決められずにふらふらして、そうして目に入ったのがここ、サラセニアだ。

 大通りに面しているはずなのに、少しだけ道から引っ込んでいるビルの1階にあるせいか、見落としそうな古めかしい喫茶店。外からではやっているかどうかもわからない薄暗い店内だったのに、ドアを開けることができたのはいつの間にか意地になっていたのかもしれない。絶対にカレーを食べて帰ってやるんだと。

 テーブルに座り注文したのは、もちろんカレー。けれど残念ながら売り切れ。私は知らなかったけれど、このお店のカレーは数量限定な上に不定期販売。マスターの気がのった時にしか食べることができないスペシャル品なのだとか。そんなことを知らなかった私は、一瞬固まり……恥ずかしいことに泣き出したのだった。

『え、ごめん、うそ、そんなに食べたかったの? カレーがなくてゴネたひとや怒ったひとは見たことあるけれど、泣いたひとは初めてだよ!』
『ちが、違うん、でっすっ』

 しゃくりあげながら、必死に否定した。お腹は空いていたし、カレーが食べられなかったことは確かに悲しかったけれど、別に泣くほどじゃない。ただ、面接が終わってから我慢していたものが溢れだしただけだ。

 今なら笑い飛ばせるけれど、明確に「お前はいらない」と言われたことが私にダメージを与えていた。他の友人には内定が出ていたのに、私は「無い内定」。ちょっと病んでいたのかもしれない。

『す、すみ、ません。も、もう、出ますっ、から』
『マスターのカレーじゃなきゃ食べたくない? オムライスもオススメなんだけど』
『す、好きっ、です』
『……よかった。今はちょうどお客さんもはけて誰もいないし、落ち着いてから帰りなよ。大丈夫だから、ね』
『……はい』

 そうやってしばらく放っておいてくれたんだよな。

 泣きながら食べたオムライスがとっても美味しかったから、そして食後のデザートを食べながら陽斗はるとさんに愚痴を聞いてもらえたから、気持ちを切り替えて就職活動を再開できたんだっけ。
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