聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠

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 屋敷の中では、エリカは賓客としてもてなされている。

「ここまでしていただく必要とかありませんから!」
「いえいえ、旦那さまの大切なかたです。どうぞ、お仕えさせてくださいませ。奥さまのお越しを、我々は今か今かと首を長くしてお待ちしていたのです」

(嘘でしょ、契約結婚だってこのひとたち知らないの? えーん、期待させてごめんなさい。私、書類上の妻なんです)

 にこにこ笑顔の家令を前に頭を抱えるエリカ。その横で、騎士団長が笑う。

「すまない。彼は俺が結婚するのを長いこと待っていたんだ。君との結婚についてのいきさつは伝えているから、罪悪感を持つ必要はないよ」
「ううう、すみません。酔った勢いで、大事な旦那さまをたぶらかしてしまい……」
「いえいえ、坊っちゃまのことをたぶらかしていただきありがとうございます。どうぞこの先もどんどん弄んでやってくださいませ」
「だから、どうしてそういう話になるんだ。だいたい坊っちゃまはやめてくれと言っているだろう」

 どうやら家令は騎士団長の結婚を心待ちにしていたようだ。貴族らしく後継などの問題があるのだろうか。それならば、契約結婚をする理由もわかる。自分への同情うんぬんだけでなく、結婚を急かしてくる家族や親戚たちへの牽制にはなるはずだ。

(でも、それって後々結局ご自身の首を絞めることになるのでは?)

 この結婚は自分にしか得がないのではないか。そう訝しんでいたエリカは、用意された部屋に足を踏み入れて仰天した。ドレスにアクセサリー、靴やバッグといったものが流行をおさえた形でしっかりとそろえられている。昨夜、エリカが泣きついたから用意したというレベルではない。

「なんですか、このザ新妻なお部屋は!」
「まさしく、若奥さまのお部屋でございます」
「いやいや、いろんなものがそろいすぎじゃありませんか。ほ、ほら、これとかなんか凄すぎる……」

 どこで手に入れることができるのか知りたいような知りたくないような、そんなスケスケいやんなランジェリーを指差しつつ、エリカは家令に言い募る。

「口下手な坊っちゃまは、贈り物を購入するもののお渡しすることがまったくできないありさまでして……」

 数年来の片思いなら、この部屋をがっつり調えられるのもわかる気がする。だがそんな相手がいるなら、どうして自分と契約結婚を結んだのだろう。なんだか急に胃が重くなった。

「好きなひとがいるとか初耳ですよ。……って、じゃあお相手に今も気持ちが伝わっていないままなんですか?」
「おっと、失礼いたしました。この辺りのことはわたしではなく、坊っちゃまに直接訊いていただいたほうが良いですね」

(両思いじゃないのに着てほしい下着を準備するとか、騎士団長って思ったよりこじらせているのでは?)

 妙にもやもやするのは、二日酔いか騎士団長の性癖のせいだということにした。
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