私の好きなひとは、私の親友と付き合うそうです。失恋ついでにネイルサロンに行ってみたら、生まれ変わったみたいに幸せになりました。

石河 翠

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(カルテを書いたあとにナチュラルに名前を確認し、速攻で下の名前呼びを始めたあとは、魔法使い宣言? イケメンってどうなってるの?)

 それでも、「魔法使い」云々の発言が似合ってしまうのは、やはりイケメン特権なのかもしれない。

「でもね、この魔法には守ってほしいことがあるんです」
「夜中の12時を過ぎたら、全部元通りになってしまう?」

 あおいの言葉に、要が吹き出した。

「約束してほしいことはね、そんなに難しいことじゃないです。できるだけ、自分に嘘をつかない。それだけ」
「嘘をつかない、ですか」
「大人になったら、本音と建前を使い分けなくてはいけないことはもちろんありますが。無理をする必要がないところでは、気にせず自分の心を大事にしてほしいんです」

 嘘をつかないこと。それはたぶん自分が思っているよりもきっと難しい。だって、自分の気持ちに蓋をできない。心に向き合わなければいけないということなのだから。

 難しい顔をしながら小さく頷く葵に、にっこりと微笑まれて、葵は思わずみとれた。確かにこのひとなら、魔法使いになれるのかもしれない。そう思わせるような笑顔だった。

「よかった。葵さんが笑ってくれて、ほっとしました。あ、でも魔法をかけるっていうのは、冗談じゃありませんからね」
「わかってますよ。ネイルのお手入れをしに、定期的にお店に来ますから。ちゃんと要さんを指名しますから、安心してください」

 葵が伝えてみれば、要が「そういう意味じゃないんだけど」と言いながら肩をすくめた。

「それじゃあ、ネイルも完成したことですし食事に出かけましょうか」
「え?」
「ちょっと時間がかかってしまってすみません。お腹、空いていますよね」
「え、なんでお腹が空いているって……?」
「お店を覗きこんだ顔を見て、喫茶店に間違えたんだとわかったので」

(喫茶店と間違えたの、バレてた? どんな顔をしていたの、私?)

「え、でも、店長さんに怒られない?」
「ここは僕の店なので大丈夫です。好きなときに休みが取れます」
「じゃあ、指名とか意味ないのでは?」
「あははは、そんなことないですよ。かなめさんって、葵さんに呼んでもらえて嬉しいです。そうでもしなきゃ、葵さんは僕のことを『店長さん』でゴリ押ししそうですからね」

(思考回路が、いろいろバレてる!)

 おすすめだという喫茶店への道すがら、葵が呟いた。

「私なんかがこんなおしゃれをしてもいいんでしょうか?」
「当然。僕のことを信用してください。明日職場に行ってみたら、みんなに褒められますから。もしこれで何も言わないひとがいたら、それはあなたのことを見下しているひとです」
「そういうものでしょうか」
「ええ。だから、相手にしなくていいんですよ。子どものワガママより理不尽なんですから」

 翌日。職場で、葵は同僚の女性たちに声をかけられていた。いつもなら出勤時と退勤時の挨拶しか交わさない同僚とも会話がはずむ。

「あら、ネイル新しくしたの?」
「素敵ね」
「ありがとうございます」
「どこで?」
「先日教えていただいたセレクトショップの近くの」

 他愛のないおしゃべり。とはいえ予想通り、 職場ですれ違った美結みゆは、挨拶はおろか、指先の変化に触れることもない。

 けれど葵は、不思議なほど美結のことが気にならなかった。
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