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「すみません、美結から最近相談を受けていませんか?」
「……いったい何のことでしょう?」
かつての想いびとから声をかけられたのは、それからしばらくあとのことだった。
(美結と喧嘩でもしたのかしら……)
内心疑問に思いつつも、葵は首を振った。あの日以降、まともに美結と会話をしていない。挨拶をしようと声をかけても、あからさまに美結が無視している状態なのだ。美結の近況など知るはずもなかった。
「あの、何かありましたか?」
「最近、美結から避けられているようで……。俺のプロポーズのタイミングが早すぎたみたいでして」
「プロポーズ、ですか」
確かに、年齢的に結婚を視野に入れていてもおかしくはない。けれど美結にとっては、「結婚を前提にした付き合い」ではなかったのだろうか。
「まあ、そうだったんですね」
片思いをしていた相手の情熱を見せつけられたはずなのに、葵の胸は意外なほど痛まなかった。
「俺の実家は、同業でしてね。この会社で修行をさせてもらい、いずれ家を継ぐために戻るつもり予定でした」
「なるほど」
「結婚相手は、もともと両親が選ぶ予定でしたが、そんな地方独特のしがらみが嫌で……。そんなときに美結と出会ったんですよ」
「美結にはそのことを話したんですか?」
「ちょうど近々親戚も集まるので、手土産を持って両親に会いに行こうと誘ったんですが。女手も必要でしょうし。それが美結はびっくりしたみたいで」
相手の話を聞けば聞くほど、葵は美結が逃げ出したのがわかる気がした。美結にしてみれば寝耳に水だったに違いない。
(美結は生粋の都会っ子でお嬢さまだから。男尊女卑が強めの田舎で、夫を立てて生活するのはちょっと難しいかもしれない。そもそも、義理の両親から歓迎されない可能性が高いとわかっていて、行きたがる女性がどこにいるのかしら……)
「美結の気持ちを聞いてやってはくれませんか」
「それは……」
言外に説得してくれと言われて、葵は眉をひそめた。
(本当に大切なことは、自分の言葉で伝えないといけないのに。私が間に入ったところで、こじれるだけ。入りたくもない。美結は負けず嫌いだから、しきたりを覚える根性はあるはず。お嬢さまだから、立ち振舞いに問題はないし、もしかしたら意外といい組み合わせなのかもしれない)
ちょっとだけ、不慣れな田舎でしごかれてしまえばいいと思ってしまったけれど。要領のいい美結のことだ、案外姑たちの懐に入り込み、幸せな結婚生活を送れるのかもしれない。
ちらりと廊下の向こう側で、美結の元カレがこちらを見つめているのがわかった。フロアが違うとはいえ、同じ社内なのだ。別れかたに問題があれば、容易く修羅場になる。
(美結がどんな未来を選ぶにせよ、まずはしっかりと話し合いが大事ね)
もちろん、巻き込まれるのは御免こうむる。
「私にもわからないことが多いので、この件についてはお力になれないと思います」
「でも、君たちは親友だと」
「私、生まれ変わったんです」
(魔法使いと約束をしたんだもの。もう、自分に嘘はつかないって。かけてもらった私が、魔法を信じなくてどうするの)
頭を下げて、葵はさっさとその場を離れた。
「……いったい何のことでしょう?」
かつての想いびとから声をかけられたのは、それからしばらくあとのことだった。
(美結と喧嘩でもしたのかしら……)
内心疑問に思いつつも、葵は首を振った。あの日以降、まともに美結と会話をしていない。挨拶をしようと声をかけても、あからさまに美結が無視している状態なのだ。美結の近況など知るはずもなかった。
「あの、何かありましたか?」
「最近、美結から避けられているようで……。俺のプロポーズのタイミングが早すぎたみたいでして」
「プロポーズ、ですか」
確かに、年齢的に結婚を視野に入れていてもおかしくはない。けれど美結にとっては、「結婚を前提にした付き合い」ではなかったのだろうか。
「まあ、そうだったんですね」
片思いをしていた相手の情熱を見せつけられたはずなのに、葵の胸は意外なほど痛まなかった。
「俺の実家は、同業でしてね。この会社で修行をさせてもらい、いずれ家を継ぐために戻るつもり予定でした」
「なるほど」
「結婚相手は、もともと両親が選ぶ予定でしたが、そんな地方独特のしがらみが嫌で……。そんなときに美結と出会ったんですよ」
「美結にはそのことを話したんですか?」
「ちょうど近々親戚も集まるので、手土産を持って両親に会いに行こうと誘ったんですが。女手も必要でしょうし。それが美結はびっくりしたみたいで」
相手の話を聞けば聞くほど、葵は美結が逃げ出したのがわかる気がした。美結にしてみれば寝耳に水だったに違いない。
(美結は生粋の都会っ子でお嬢さまだから。男尊女卑が強めの田舎で、夫を立てて生活するのはちょっと難しいかもしれない。そもそも、義理の両親から歓迎されない可能性が高いとわかっていて、行きたがる女性がどこにいるのかしら……)
「美結の気持ちを聞いてやってはくれませんか」
「それは……」
言外に説得してくれと言われて、葵は眉をひそめた。
(本当に大切なことは、自分の言葉で伝えないといけないのに。私が間に入ったところで、こじれるだけ。入りたくもない。美結は負けず嫌いだから、しきたりを覚える根性はあるはず。お嬢さまだから、立ち振舞いに問題はないし、もしかしたら意外といい組み合わせなのかもしれない)
ちょっとだけ、不慣れな田舎でしごかれてしまえばいいと思ってしまったけれど。要領のいい美結のことだ、案外姑たちの懐に入り込み、幸せな結婚生活を送れるのかもしれない。
ちらりと廊下の向こう側で、美結の元カレがこちらを見つめているのがわかった。フロアが違うとはいえ、同じ社内なのだ。別れかたに問題があれば、容易く修羅場になる。
(美結がどんな未来を選ぶにせよ、まずはしっかりと話し合いが大事ね)
もちろん、巻き込まれるのは御免こうむる。
「私にもわからないことが多いので、この件についてはお力になれないと思います」
「でも、君たちは親友だと」
「私、生まれ変わったんです」
(魔法使いと約束をしたんだもの。もう、自分に嘘はつかないって。かけてもらった私が、魔法を信じなくてどうするの)
頭を下げて、葵はさっさとその場を離れた。
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