拾った仔猫の中身は、私に嘘の婚約破棄を言い渡した王太子さまでした。面倒なので放置したいのですが、仔猫が気になるので救出作戦を実行します。

石河 翠

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 帰宅後、汚れきった仔猫をさっそくお風呂に入れてあげることにしました。

「まあ、お嬢様が直々にお風呂に入れて差し上げるのですか」
「ええ、そうよ。だってこの仔猫ちゃん、私に一番懐いているんだもの」

 ショールから出してあげても、ちょこんとお風呂の準備が整うのを待っていられるなんて何と賢い猫ちゃんでしょう!

「さようでございますか。でもこの仔猫、妙にお嬢さまにべっとりまとわりついていて、どことなくあの王太子さまみたいで嫌なんですよねえ」
「あらまあ。王太子さまとこの子は全然似てないわよ。王太子さまはツンデレのデレがどこかにすっ飛び、ツンもひねくれ過ぎてただの面倒くさいひとだけれど、この子はデレデレでしょう。はあ、可愛いわ~」
「みゅわああああああああ」
「ど、どうしたの。いきなりそんなブレイクダンスなんて始めて。背中が痒いのかしら。待っててね。すぐに綺麗にしてあげるから」
「それより蚤取り粉が必要なのでは?」

 慌てて温かいお湯がたっぷりの洗面器に入れてあげれば、にゃごにゃご言いながら仔猫は静かになりました。お湯がひどい茶色になっているので、泥汚れ以外にもやはりいろいろあったのでしょう。馬のお世話をしているお抱えの獣医を呼んでいるので、しっかり検査もしてもらう予定です。

「まあ、おとなしくお風呂に入れるなんて人間みたいね」
「みゅわーん」
「あら、お返事してくれるの」
「みゃーん」

 専用の石鹸で洗いしっかり乾かせば、ふかふかもふもふの可愛らしい仔猫が出来上がりました。ふさふさの長いしっぽが小刻みに震えているのが可愛くてたまりません。

「……お嬢さま、この子ブサイクですね……」
「あら、ブサイクだなんて。味のある顔をしているでしょう」
「物は言い様とはこのことでしょうか。一体どうしたら、こんなに顔面を壁か何かに激突させたようなべっちゃんこの顔になるのでしょうか」
「そこが可愛いのよね~」

 私の言葉に同意するかのように、仔猫がゴロゴロと喉を鳴らします。はあ、本当に癒されますね。
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