お飾り王妃の愛と献身

石河 翠

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「父親は、男になってはいけないのでしょうか?」
「え?」
「母親は、女になってはいけないのでしょうか?」
「ギルバート、何を言っているの?」

 唐突に、男がエスターを抱き寄せて叫んだ。

「わたしは、あなたが笑って過ごせる国を作りたかった。幼いあなたが、青臭いわたしの理想を楽しそうに聞いてくださったときから、あなたのために国をどうにかしたかった。けれど、わたしの力では国を変えることはおろか、あなたを王家の贄にするしかなかった」
「……そんな」
「かつて今でこそ、『冷酷王妃』と呼ばれるあなたが、かつては表情をころころと変えるあどけない少女だったことを、誰が信じるでしょう。そして、あなたの表情が変わらないようにしてしまったのは、我々の不甲斐なさゆえ」

 それは壮絶な教育の賜物だった。王妃教育とは言われなかったが、他の貴族令嬢と比べても徹底的に感情を表すことを禁じられたのは、エスターだけ。愚かな王族たちを支えるためには、顔色を読まれることは避けねばならなかったのだ。

「あなたは自分の感情を浅ましいと言ったが、本当に浅ましいのはわたしです。あなたが苦しい立場に置かれていることを知りながら、白い結婚であることに安堵していた。あなたの側で、手足となって働くことができる喜びに浮かれていた。そして、臣下としてはあるまじきことながら、あなたを温めたい。そう思ってしまったのです」
「ギルバート」
「共和制がどうとか、立憲君主制がどうかなんて、建前でしかない。権力が誰にどれくらい与えられるかなんて、心底どうだってよかった。わたしが欲しかったのは、あなただったのだから」

 そっと手の甲に口づけが落とされる。指先に触れた唇は、信じられないほど熱い。おずおずとその背に腕を回せば、もう離さないと言わんばかりにさらにきつく抱きしめられた。もう寒さに凍える必要はないのだと安心し、エスターはギルバートの温度に身を任せる。春の温もりを知った彼女の瞳からは、雪解けのように涙があふれていた。
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