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(14)べっ甲−8
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なんだかんだでいい感じにまとまったらしい高校生カップルを見送り、私はほっと胸を撫でおろした。いつもならお届け物を無事に渡したということで、この辺でおひらきだ。けれど、今回はもうしばらく時間がかかりそうである。
「で、君はどうするの?」
犬はやっぱり何も言わない。「犬ですか? 犬はお散歩大好きですよ。せっかくだから、お散歩はどうですか。ほら、坂道だってすいすい上れますよ」と言わんばかりに、また丸山公園側に歩き始める始末。
「ええ、もう、なんでよ。指輪をイケメンくんに届けて、ちゃんと現世のふたりが破局しないようにアシストしたじゃん。前世と同じ悲恋は回避したじゃん。ココちゃん、もう自宅に帰りなよ。女子高生ちゃんは旅行中だけど、ココちゃんのパパやママが心配しているんじゃないの?」
あるいは、女子高生ちゃんのご両親は共働きなのかもしれないが。それなら、ちょっとくらいペットカメラに映らないだけなので、たまたま見えないだけということで済まされてしまうのかもしれない。さすが遊郭で飼われていただけのことはある。狆、あざとい。
「これ以上のボランティアは勘弁してえ。もうお腹空いちゃったんだってばあ」
「あれ、お腹空いちゃったんですか。飴でも食べます?」
「へ?」
自由気ままな狆に振り回され、再び丸山公園に向かっていた私は急に馴染みのある低音に声をかけられた。この、耳が照れてしまいそうな優しげな声は、宅配便のお兄さんだった。ちょうど休憩中だったらしい。ペットボトルのお茶を飲んでいる。ありきたりのペットボトルのお茶を飲んでいるだけなのにカッコいいとか、さすがイケメンはヤバい。
「こ、こんにちは! お仕事の担当エリア、この辺もなんですね」
「ええ、そうなんですよ。この辺り周辺を担当していまして。さっきまで見返り柳付近にいませんでしたか? 坂を下っていたはずなのに、また丸山公園の方に戻ってきていたので、気になって声をかけたんです。何か落とし物でも?」
「ええと、実はちょっと」
この子が行きたがっていたものでと、足元にいるはずの犬を紹介しようとして固まる。私の周囲、どこを見渡してもアナゴくんもといココちゃんはいなかった。それだけではない。絶対になくさないように、手首にぐるぐる巻いてから握りしめていたはずのリードまた、どこかに消えてしまっているではないか。
「え、嘘、い、いない!」
「どうかされましたか?」
「あの、い、犬がいないんです!」
「犬、ですか? ええと、僕が先ほどお見掛けした際にはわんちゃんはいませんでしたけれど。どの時点まで一緒だったか、覚えていらっしゃいますか?」
「見返り柳付近の時点で、犬はいなかった?」
「はい」
お兄さんの返事に、私は固まった。先ほど私が女子高生ちゃんとイケメンくんのラブストーリーを壁になって眺めていたときには、すでにあの犬はお兄さんから見えなかったらしい。お兄さんは、かなり目がいい。なにせこの狭い坂道で巻き込み事故を発生させないように運転をしているのだ。犬がいるか、いないかを見間違えることはしない。
ということは、急にリードごと姿を消したあの犬はあやかしのような存在で、自分の意志で行方をくらましたのだろう。あるいは、主人たちの恋路を手助けした礼代わりに、私にもイケメンをおすそわけしてくれたのかもしれない。
「いや、手の届かないイケメンじゃなくって、実際に縁結びしてくれないかなあ」
そもそも、犬がいないと言い出しておいて、実は気のせいでしたなんて誤魔化すような人間は、はたから見てただのやべえ奴である。乙女ゲームのような面白い女に昇格するスキはない。
「わんこよ、お礼するにしてもやり方ってもんがあるでしょうよ」
あこがれ以上の感情を私がお兄さんにもっていた場合、完全に逆効果だよ、これ。
ぼやく私の声なんて聞こえなかったらしいお兄さんが、タイミングよく紅茶味の純露をわけてくれる。空きっ腹に糖分が染みて、心の中でちょっとだけ泣いた。
「で、君はどうするの?」
犬はやっぱり何も言わない。「犬ですか? 犬はお散歩大好きですよ。せっかくだから、お散歩はどうですか。ほら、坂道だってすいすい上れますよ」と言わんばかりに、また丸山公園側に歩き始める始末。
「ええ、もう、なんでよ。指輪をイケメンくんに届けて、ちゃんと現世のふたりが破局しないようにアシストしたじゃん。前世と同じ悲恋は回避したじゃん。ココちゃん、もう自宅に帰りなよ。女子高生ちゃんは旅行中だけど、ココちゃんのパパやママが心配しているんじゃないの?」
あるいは、女子高生ちゃんのご両親は共働きなのかもしれないが。それなら、ちょっとくらいペットカメラに映らないだけなので、たまたま見えないだけということで済まされてしまうのかもしれない。さすが遊郭で飼われていただけのことはある。狆、あざとい。
「これ以上のボランティアは勘弁してえ。もうお腹空いちゃったんだってばあ」
「あれ、お腹空いちゃったんですか。飴でも食べます?」
「へ?」
自由気ままな狆に振り回され、再び丸山公園に向かっていた私は急に馴染みのある低音に声をかけられた。この、耳が照れてしまいそうな優しげな声は、宅配便のお兄さんだった。ちょうど休憩中だったらしい。ペットボトルのお茶を飲んでいる。ありきたりのペットボトルのお茶を飲んでいるだけなのにカッコいいとか、さすがイケメンはヤバい。
「こ、こんにちは! お仕事の担当エリア、この辺もなんですね」
「ええ、そうなんですよ。この辺り周辺を担当していまして。さっきまで見返り柳付近にいませんでしたか? 坂を下っていたはずなのに、また丸山公園の方に戻ってきていたので、気になって声をかけたんです。何か落とし物でも?」
「ええと、実はちょっと」
この子が行きたがっていたものでと、足元にいるはずの犬を紹介しようとして固まる。私の周囲、どこを見渡してもアナゴくんもといココちゃんはいなかった。それだけではない。絶対になくさないように、手首にぐるぐる巻いてから握りしめていたはずのリードまた、どこかに消えてしまっているではないか。
「え、嘘、い、いない!」
「どうかされましたか?」
「あの、い、犬がいないんです!」
「犬、ですか? ええと、僕が先ほどお見掛けした際にはわんちゃんはいませんでしたけれど。どの時点まで一緒だったか、覚えていらっしゃいますか?」
「見返り柳付近の時点で、犬はいなかった?」
「はい」
お兄さんの返事に、私は固まった。先ほど私が女子高生ちゃんとイケメンくんのラブストーリーを壁になって眺めていたときには、すでにあの犬はお兄さんから見えなかったらしい。お兄さんは、かなり目がいい。なにせこの狭い坂道で巻き込み事故を発生させないように運転をしているのだ。犬がいるか、いないかを見間違えることはしない。
ということは、急にリードごと姿を消したあの犬はあやかしのような存在で、自分の意志で行方をくらましたのだろう。あるいは、主人たちの恋路を手助けした礼代わりに、私にもイケメンをおすそわけしてくれたのかもしれない。
「いや、手の届かないイケメンじゃなくって、実際に縁結びしてくれないかなあ」
そもそも、犬がいないと言い出しておいて、実は気のせいでしたなんて誤魔化すような人間は、はたから見てただのやべえ奴である。乙女ゲームのような面白い女に昇格するスキはない。
「わんこよ、お礼するにしてもやり方ってもんがあるでしょうよ」
あこがれ以上の感情を私がお兄さんにもっていた場合、完全に逆効果だよ、これ。
ぼやく私の声なんて聞こえなかったらしいお兄さんが、タイミングよく紅茶味の純露をわけてくれる。空きっ腹に糖分が染みて、心の中でちょっとだけ泣いた。
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