あやかし坂のお届けものやさん

石河 翠

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エピローグ

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 旧正月が近づいてきた長崎は、あちこちにランタンが飾られていてとても賑やかだ。昼間も綺麗だけれど、夜、特にランタンフェスティバルが始まる春節期間中はとてもロマンチックに街が染まる。

 そんな景色の中を早足で進む私と、同じ速度でまとわりつく私服姿の朔夜さん。私服姿がカッコいいと言われたことに味をしめたらしい。平日でしょうが、仕事はどうした。

「清香さん、こんにちは」
「はい、こんにちは」
「清香さんはつれないですねえ。僕はずっと清香さんといたいのに。清香さんときたら、一言挨拶を交わしただけで、僕のことは放置してしまうんですね」
「だって今は仕事ですからね! ただ偶然、用があって外出しているだけですから!」
「仕事と僕と、どちらが大切なんですか!」
「それ、普通は私が言う台詞じゃないですかね? 朔夜さんこそ、お仕事はどうしたんです」
「大丈夫です。友人に頼んで、終わらせてきましたから」

 ……あやかしの友人なのか。あの可愛らしい地域猫ちゃんたちなのか。猫ちゃんたちの肉球が酷使されていないことを願うばかりだ。

 ひょいと恋人繋ぎされたと思ったら、ごく自然に路地裏の細い坂道に引き込まれた。さすが、猫は道を熟知している。そのまま髪の毛の下に隠れているピアスを確認される。

「清香さんのピアスの色、桃色から全然変化してくれませんね。寂しいです」
「え、これ、色が変わるの?」
「だから、最初から赤い方をあげたかったのに」
「ねえ、桃色と赤色だと何が違うの? 赤色になるとどうなるの?」
「まあ、すぐに真っ赤に染めてみせますから。僕、頑張りますね!」
「何を? ねえ、何を頑張るの?」
「はあ、清香さんともっと一緒にいたいです。僕は寂しいですよ」
「遅刻するとまずいから、もう行きますね! あ」

 私の質問には答えてくれない朔夜さん。その上真面目に相手をしていると、とんでもないことになりそうだ。とりあえず、会社に戻らなくては。そう思ったところで、ぐにゃりと足元が揺れる。

「よかったですね。お仕事のご依頼ですよ」
「いやいやいや、今はお昼休みですらないですから。こんな時間にあやかしさんからのご依頼を受けていたらいつかクビになっちゃいます!」
「大丈夫です。僕、宅配便のお仕事以外にもいろいろやって稼いでますので、安心してください!」
「そういう問題じゃないんで」
「今回のご依頼を引き受けたら、とりあえず会社の近くに着くように手配しますから。一緒にお仕事、頑張りましょうね。せっかくなら、南山手周辺のお届けものだといいですね。素敵なカフェもありますし」
「何か騙されている気がする」
「だって、清香さんと一緒にいるために始めたお届けものやさんのお仕事なんですよ。一緒にいる時間が取れないなら、働く意味がないです」

 その台詞は、あのお狐さまに喧嘩を売ってはいないだろうか。少々心配になりながら、私は小さく頷いた。なんだかんだで、私は朔夜さんに弱いのだ。あの目でお願いされて断ることなんてできない。

「わかりました、わかりました。じゃあもう、とりあえずご依頼のお客さまのところにいきましょう」

 待つと言いながら、日々待ったなしの朔夜さんに振り回されているけれど、それが実のところ結構楽しいだなんて口が裂けても言えやしない。あやかし坂のお届けものやさんは大繁盛。今日も一日、忙しくなりそうである。
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みんなの感想(1件)

衿乃 光希
2024.01.31 衿乃 光希

16話まで拝読いたしました。
長崎を舞台にした日常×あやかしモノ
しっかりとした文章なのに、ぐいぐい読めます。くすっと笑える一人称に、ちょこっとうんちくが混ざってバランスが良いと感じました。
なにより、犬がカワイイ。長崎は猫のイメージが強いのですが、犬の素直でカワイイところを代弁している文が好きです。

解除

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