竜神に愛された令嬢は華麗に微笑む。〜嫌われ令嬢? いいえ、嫌われているのはお父さまのほうでしてよ。〜

石河 翠

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 竜穴から崖に向かって風が吹きあがる。突風にあおられたのだろう、屑野郎が車椅子から転げ落ち、したたかに腰を打つのが見えた。せっかくなら、もっと近くで笑ってやろう。そう思って一気に近づけば、屑野郎は信じられないものを見たかのように悲鳴を上げた。

「なぜだ、なぜお前がここにいる!」
「なぜと言われても。この美しい竜に乗せてもらって竜穴から登場したところで、察しがつかない? 竜神さまにここまで連れてきてもらったからだって」
「そんな馬鹿なことがあってたまるか」
「馬鹿なことねえ。でも、事実なのだから仕方がないわよね?」
「きれいねえ。竜神さまのうろこ、ぴかぴかねえ」
「僕も乗りたいっ。竜神さま、僕たちも乗せて!」
「ほら、わたくしの言葉が信じられなくても、可愛いあの子たちの言葉なら信じられるんじゃないのかしら。それとも新しい奥さまにも聞いてみる?」

 よいしょっと、声を上げて崖の上に舞い戻る。ひらりと動けなかったのは、久しぶりに身体を動かすせいか。

 信じられないものを見てしまったかのように頭を抱えて叫び声をあげる男の横で、子どもたちはようやっと見られた大好きな竜神さまの本来の姿に興奮が隠せない様子だ。目をきらきらさせて身を乗り出してくるので、周囲のものたちはふたりが落ちないように慌てている。まあ、何かあっても竜神さまがフォローしてくれるから大丈夫だろうけれど。

 問題はこの屑野郎だ。まったく出会った頃から脳筋であまり賢くないとは思っていたが、とうとう目まで悪くなってしまったのだろうか。だが年をとったということなら、それは近眼ではなく老眼である。老眼は近くのものは見えなくても、遠くのものは見えやすいはずだったが。近くにある大切なものにも気が付かず、遠くにある事実さえ目に入らないのなら、もはやこの男に眼球なんて必要ないのかもしれない。

「意味がわからない。なぜ竜神さまがお前などを助ける。竜神さまは、竜の宝をもらい受けると言っていた。最後には、それなりの礼をさせてもらおうとも。あの口調は確実に何か腹の底に言いたいことを抱えているものだったぞ。預かっていた竜の宝を切り売りしていた儂らに天罰を与えるつもりだったのではないのか?」
「どうして、そういう話になるのかしら。夢の中できちんと竜神さまに確認をしたの? 鉱脈から宝石の原石を掘り出し、売っていたことを怒っているのか確かめた?」
「なぜそんなことをする必要がある。お前が責任をとればよい話だろう」
「そもそも、鉱脈の宝石が竜の宝という認識が間違いなのよ。竜の宝というのは、ジェニファーのことなのだから」
「そんなはずがない」
「あなたが知らないだけで、これは王家と神殿の公式見解でもあるの。わたくしも直接竜神さまから、お言葉をいただいたし。それによく考えてみて。竜の宝が本当に鉱脈の宝石だったとして、王家と神殿が領主による勝手な売買を見逃すと思っているの。速攻で、お家がお取りつぶしにあっているわ」

 我が家の成り立ちを、王家が知らないはずがない。そして竜神さまは、この国では信仰の対象だ。竜神さまを崇める神殿は、辺鄙なこの地にかなり立派な神殿を立てている。この領地で起きている出来事は、必然的に王家と神殿の耳に入ることになる。つまり、この男が正当な理由もなく嫡子であり、竜の宝であるジェニファーを虐げていることだって、彼らはとっくの昔に把握しているのだ。

「じゃあ、どういうことだ。お前が竜の宝だというのなら、なぜ竜神さまはお前を守らなかった。王家と神殿が我が家の内情を知っていたというのなら、なぜ彼らは介入してこなかった?」
「竜神さまはジェニファーを助けてくれていたわよ? それに王家と神殿も我が家にひとを送り込んでいたけれど? 侍女も侍従も、みんなかなりの手練れよ。なあに、そんなことにすら気が付いていなかったの?」
「は?」
「そもそもあなたのお世話をしてくれていた執事こそが、竜神さまだったというのに。まったく、呆れたわ」

 わたくしの言葉に目の前の男は悲鳴をあげてへたりこんだ。
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