泥棒猫になり損ねた男爵令嬢は、策士な公爵令息に溺愛される。第二王子の公妾になるつもりが、どうしてこうなった。

石河 翠

文字の大きさ
3 / 6

(3)

 騙された!
 ケリーは地団駄を踏んだ。おかげでちょっと年季が入っていた靴のヒールが折れる。本当についてない。

 でもこれで吹っ切れた。必死でお金を貯めて買った憧れの靴だったが、いつの間にかすっかりヘタレてしまっていたのだから。どうして気がつかなかったのだろう。今目に飛び込んでくるのは小さな傷ばかりだ。目の前のこの男と同じように。

 ベアトリスと異なり、目立たないようにサロンに呼び出すという心配りもできない、気の利かない男。声は聞こえずとも、学園のいたるところから様子を伺い知ることが可能な中庭で、ベアトリスは第二王子に詰問されていた。

「ベアトリスの周りをうろちょろするんじゃない。わたしだって、彼女とは今週まだ一度しかお茶をしていないというのに」
「何を勘違いしているのか知りませんが、うろちょろしているのは私のほうではなく、ベアトリスさまのほうです」
「お前ごときが、ベアトリスの名を呼ぶだと?」
「そうおっしゃられましても。ベアトリスさまのご命令ですので」
「ならば、わたしも命じよう。ベアトリスの視界から今後一切消えろ」

(面倒くせえな、こいつ)

 あの一件以来、ベアトリスはケリーのことを「お友だち」認定したらしい。ケリーは正直迷惑だと思っているので、ふたりきりのときはかなりの塩対応だ。だが、普段かしずかれ、媚びへつらわれるベアトリスには、ケリーのその対応こそが心地良いのだという。恐ろしいことに、次期公爵家当主となる弟の嫁になれと積極的に仲を取り持とうとしてくる有様だ。

(結局のところ、「親友」枠も「おもしれー女」枠の亜種なのでは?)

 その上、叶わぬ恋に身を焦がしているらしい第二王子の八つ当たりにまで付き合ってやる心の余裕は、ケリーには存在しなかった。何よりベアトリスの呼び出し以来、ケリーは自分から彼に近づくことはやめている。うざ絡みは迷惑でしかないのだ。

 ベアトリスが言葉通り親友であるというのなら、がつんと第二王子に言ってもなんとかなるだろう。とうとうケリーはベアトリスの実家の権力に頼ることに決めた。王子には散々暴言を吐かれてきたが、借りは返してやるつもりだ。

(ベアトリスさまに後ろから刺されませんように)

「まるでベアトリスさまが大切なようにおっしゃるのですね」
「ベアトリスはわたしの婚約者だ。大切に思うのは当たり前だろう」
「それならば、どうしてあのような不実な行いを繰り返すのです?」

 見目の良い女性がいれば当然のように自身の取り巻きにしてしまう軽薄な男。そんなゲス野郎が何を言うと鼻を鳴らせば、第二王子は日頃の女受けする甘い笑みを投げ捨てて、ギラギラとした瞳で睨み付けてきた。

「ベアトリスが大切だからこそ、彼女が望むように不実な行いを繰り返しているんだ」
「はあ?」
「彼女はね、馬鹿で愚かで軽薄な当て馬が好きなんだよ」
「正気か?」
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】いくら溺愛されても、顔がいいから結婚したいと言う男は信用できません!

大森 樹
恋愛
天使の生まれ変わりと言われるほど可愛い子爵令嬢のアイラは、ある日突然騎士のオスカーに求婚される。 なぜアイラに求婚してくれたのか尋ねると「それはもちろん、君の顔がいいからだ!」と言われてしまった。 顔で女を選ぶ男が一番嫌いなアイラは、こっ酷くオスカーを振るがそれでもオスカーは諦める様子はなく毎日アイラに熱烈なラブコールを送るのだった。 それに加えて、美形で紳士な公爵令息ファビアンもアイラが好きなようで!? しかし、アイラには結婚よりも叶えたい夢があった。 アイラはどちらと恋をする? もしくは恋は諦めて、夢を選ぶのか……最後までお楽しみください。

【完】皇太子殿下の夜の指南役になったら、見初められました。

112
恋愛
 皇太子に閨房術を授けよとの陛下の依頼により、マリア・ライトは王宮入りした。  齢18になるという皇太子。将来、妃を迎えるにあたって、床での作法を学びたいと、わざわざマリアを召し上げた。  マリアは30歳。関係の冷え切った旦那もいる。なぜ呼ばれたのか。それは自分が子を孕めない石女だからだと思っていたのだが───

地味な悪役令嬢は卒業します!せっかくですから着飾ってやりますわ!

柊 花澄
恋愛
類稀なる美しさを持つ公爵令嬢のプリムローズは、第一王子フェリクスに見初められて婚約者となる。だが行き過ぎた王太子妃教育により、お洒落とは無縁の地味な淑女になった。 ある時、ここは前世で読んだ恋愛小説の世界でフェリクス様はヒロインの聖女と結ばれ、自分は悪役令嬢で修道院に入れられるという結末を思い出す。 フェリクス様の記憶に、地味な淑女の姿で残りたくない! せっかく美しく生まれたんですもの、と開き直って着飾るプリムローズと、それを取り巻く美形の男達。フェリクスの我慢はついに限界に達して⋯⋯ (※なろう掲載あり)

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

虚弱姫はコワモテ将軍の筋肉に触りたい

隙間ちほ
恋愛
◼︎無骨な英雄×病弱な筋肉フェチ姫 ◼︎辺境伯の末娘エルナは、領軍の英雄マテウスとの結婚が決まった。政略結婚――のはずが、実は姫は将軍の熱烈なファン。姫がノリノリで嫁ぐ一方、当のマテウスは「か弱い姫君に嫌われている」と思い込み、距離を取ってしまう……。 ◼︎筋肉と鼻血とすれ違いラブコメ。 ◼︎超高速展開、サクッと読めます。

お買い上げありがとうございます旦那様

キマイラ
恋愛
借金のかたに嫁いだ私。だというのに旦那様は「すまないアデライン、君を愛することはない。いや、正確には恐らく私は君を愛することができない。許してくれ」などと言ってきた。 乙女ゲームのヒロインの姉に転生した女の結婚のお話。 「王太子殿下に魅了をかけてしまいました。大至急助けてください」にチラッと出てきたアデラインが主人公です。単体で読めます。

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。