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 精霊とゆかりの深いこの神聖王国の姫たちは、他国の姫君にはない特徴を持っている。彼女たちは誕生と同時に精霊王から、祝いの品として「黄金の卵」を授けられるのだ。

 黄金でできた殻の周囲を飾るのは、ダイヤにルビーにエメラルド。精緻な白金の草花が描かれ、大粒の真珠が実っている。聖獣によって届けられた黄金の卵はうっとりするほど美しいが、卵の真の価値は美術品としての美しさにあるのではない。

 彼女たちが成長するとやがて卵が割れ、中から彼女たちの相棒となる精霊が出てくるのである。精霊を見ることができる人間は少ない。精霊を使役することができる人間はさらに限られている。

 精霊の力を扱うことのできる王女たちは神聖王国の国民たちから敬われるだけではなく、他国の王族や有力貴族との婚姻相手としても実に重宝される存在なのであった。

 ところがもうすぐ成人するというのに、デイジーの卵は割れる気配が微塵も感じられない。最初のうちは、「よほど素晴らしい精霊が生まれるのだろう」と期待していた周囲の人々も、デイジーよりも年下の妹姫たちが精霊を生み出すようになると、彼女を「出来損ない」と軽蔑するようになった。今ではデイジーを王族として扱ってくれるのは、従者のジギスムントただひとりである。

 父親はデイジーの存在を忘れた。美しく可愛げがあり、精霊を持つ姫たちはたくさんいるのだ。落ちこぼれに回す金も気持ちもない。

 母親はデイジーを憎んでいる。彼女は側室の中でも実家の力が弱く、身分の低い側室だった。だからこそ、自分の足を引っ張るような足手まといは不要だったのだ。

 同腹の兄弟姉妹には、儚くなることを願われていた。彼女の存在は、彼ら自身の瑕疵となる。痛くもない腹を探られるのは迷惑だ、どうか頼む、さっさと死んでくれ。そうすれば嫌わずに悲しんでやれるのにと。

 異母兄弟たちは、楽しげにデイジーをいじめた。王宮の中は弱肉強食。隙を見せれば頭から食われてしまう場所だ。血の繋がった母親に見捨てられた彼女など絶好の獲物でしかない。しかもデイジーにはとある秘密があった。

「あら、今日はだんまりかしら。いつぞやのように、予言じみたことは言わないのかしら。この疫病神!」

(ああ、どうしてあの時、あんなことを言ってしまったのかしら。こうなることがわかっていたなら、やっぱり知らないふりをすればよかった)

 かつての出来事をデイジーは今更ながらに後悔していた。
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