婚約破棄され命を落としました。未練を残して死ぬと魔王が生まれると言われてやり直していますが、私の心残りは叶わぬ恋の相手であるあなたです。

石河 翠

文字の大きさ
2 / 7

(2)

しおりを挟む
「あなた、どうして笑っていられるの。あたし、あなたの婚約者を奪ったのよ。悔しくないの? それともあなたにとって彼はそれだけの存在でしかなかったってこと?」
「そうだ、昔からお前は俺にああしろこうしろと口やかましく言っていたではないか。それがなんだ、まるで俺のことをすっかり理解しているとでも言いたげな顔をして」

 責められるのは嫌がるくせに、おとがめなしになるのは納得がいかないらしい。あるいは、彼女にすがってほしかったのだろうか。なんともわがままなふたりの言葉に対し、ローラは小さくかぶりを振った。

「おふたりの門出を心から祈っております。もう少し時間があれば、私のほうからみなさんに根回しなどのお手伝いができたのですが。何度やってもここにしか戻ってこられないのです」

 肩をすくめる彼女は、まるで婚約破棄を何度も繰り返してきたかのような口ぶりだったが、慌てふためく彼らは違和感に気がつかない。

「大丈夫です。そう焦らずとも、邪魔者はすぐに消えますわ。どうやって退場するのが良いのでしょう。そこの給仕が持っている毒入りワインを飲むべきかしら。それとも、このまま国外追放されて、馬車で移動する途中で盗賊に扮した近衛のみなさまに襲われるべきかしら」
「な、何をっ」

 ローラの言葉で、給仕は騎士に取り押さえられ、お盆に載せられていたワインは床にひっくり返る。さらに第二王子の後ろに控えていた近衛たちは、仲間割れを始めた。

「あら、もったいない。その毒薬は、他の死にかたに比べてずいぶんと穏やかで優しいものでしたのに。それならば仕方ありませんね」

 ローラは心底残念そうにため息をつくと、扉とは反対側に向かって歩き出した。

「どこへ行く気だ! ワインの毒はむしろお前自身が混入させたのではないか? そうでなければ、毒杯を当てることなどできるはずがない! そんなに婚約破棄を告げた俺が憎いのか!」
「大事なことは相手を愛し、そして許すこと。神の御使いもそうおっしゃっているでしょう?」

 彼女の歩みは止まらない。つきあたりにはバルコニーがあるだけだ。

「さて、今回は飛び降りてみることにいたしましょう。きっと空を飛ぶように、天に行けるに違いありませんわ」
「お前はおかしいよ」
「でも恋というものは、熱病のようなものなのでしょう?」
「やめろっ!」
「私、死ぬのは怖くありませんの。。ねえ、ですから、どうぞ笑ってくださいませ」

 ローラは美しく淑女の礼をとる。

「それではみなさん、ごきげんよう。どうぞ、お幸せに」

 そのまま何の迷いもなくバルコニーから身を投げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「君との婚約は時間の無駄だった」とエリート魔術師に捨てられた凡人令嬢ですが、彼が必死で探している『古代魔法の唯一の使い手』って、どうやら私

白桃
恋愛
魔力も才能もない「凡人令嬢」フィリア。婚約者の天才魔術師アルトは彼女を見下し、ついに「君は無駄だ」と婚約破棄。失意の中、フィリアは自分に古代魔法の力が宿っていることを知る。時を同じくして、アルトは国を救う鍵となる古代魔法の使い手が、自分が捨てたフィリアだったと気づき後悔に苛まれる。「彼女を見つけ出さねば…!」必死でフィリアを探す元婚約者。果たして彼は、彼女に許されるのか?

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言

夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので…… 短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。 このお話は小説家になろう様にも掲載しています。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

勝手にしろと言われたので、勝手にさせていただきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
子爵家の私は自分よりも身分の高い婚約者に、いつもいいように顎でこき使われていた。ある日、突然婚約者に呼び出されて一方的に婚約破棄を告げられてしまう。二人の婚約は家同士が決めたこと。当然受け入れられるはずもないので拒絶すると「婚約破棄は絶対する。後のことなどしるものか。お前の方で勝手にしろ」と言い切られてしまう。 いいでしょう……そこまで言うのなら、勝手にさせていただきます。 ただし、後のことはどうなっても知りませんよ? * 他サイトでも投稿 * ショートショートです。あっさり終わります

【完結】転生したら断罪イベントの真っ最中。聖女の嘘を暴いたら、王太子が真っ青になりました

丸顔ちゃん。
恋愛
王太子は私――エリシアに婚約破棄を宣言し、 隣では甘ったるい声の“聖女”が「こわかったんですぅ♡」と泣き真似をしている。 だが私は知っている。 原作では、この聖女こそが禁術で王太子の魔力を吸い取り、 私に冤罪を着せて処刑へ追い込んだ張本人だ。 優しい家族を守るためにも、同じ結末は絶対に許さない。 私は転生者としての知識を武器に、 聖女の嘘と禁術の証拠を次々に暴き、 王太子の依存と愚かさを白日の下に晒す。 「婚約は……こちらから願い下げです」 土下座する王太子も、泣き叫ぶ聖女も、もう関係ない。 私は新しい未来を選ぶ。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

ベッドの上で婚約破棄されました

フーツラ
恋愛
 伯令嬢ニーナはベッドの上で婚約破棄を宣告された。相手は侯爵家嫡男、ハロルド。しかし、彼の瞳には涙が溜まっている。何か事情がありそうだ。

処理中です...