凍えた星のあたため方

石河 翠

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 小さな女の子は、一体何が好きなのでしょう。かつて小さな女の子だったはずの円さんですが、何を用意したら良いのかさっぱり思い浮かびません。

「あなたは何が好きなのかしら」
『あなたは何が好きなのかしら』

 蜂蜜入りのホットミルクと一緒に円さん御用達の栄養補助食品を出してみましたが、もちろんそっぽを向かれてしまいました。

 はたしてこのおうちに、彼女の心をときめかせるものはあるのでしょうか。会社と自宅を往復するだけの円さんには、少々難しいかもしれません。

 ふわふわと空をとぶ彼女は、円さんと一緒に冷蔵庫を見て首をかしげました。やはり、チューハイの並ぶ単身者用冷蔵庫は妖精さんの範疇外のようです。

「美味しいものはどこかな」
『美味しいものはどこかな』

 結局お部屋のなかを一回りした女の子が選んだのは、今日もらったばかりのバウムクーヘンでした。誰かの役に立つのなら、寒さと胸と懐の痛みに震えながらも、結婚式に出た甲斐があるというものです。

 女の子は箱に巻かれていた金色のリボンを持ち上げて、きゃっきゃっと喜んでいます。そういえば円さんもその昔、長いリボンを割り箸の先にくくりつけて新体操をしたものでした。

「キラキラが好きなの?」
『キラキラが好きなの?』

 家の中で休んだからでしょうか。ねじれて丸まっていた羽が少しだけ、元に戻っています。ちょっぴり元気になった女の子を見て、円さんは久しぶりに楽しい気持ちになってきました。

 帰省しないままひとりで過ごすはずだった年末年始は、女の子のおかげで「キラキラ」になりそうです。

「そうだ、これなんてどう?」
『そうだ、これなんてどう?』

 円さんが戸棚から取り出したものは、会社の忘年会でもらったバスボムです。中にはキラキラのラメや本物のお花が入っています。使ったあとのお掃除が面倒だとしまいこんでいましたが、女の子と一緒なら湯船に入れてみるのもいいかもしれません。

「きっと素敵よ」
『きっと素敵よ』

 一緒にお風呂に入ってほかほかになった女の子は、円さんの手作りベッドを前にしてご機嫌です。



 引き出物の中にあったかごや造花を使って、あっという間に妖精サイズのベッドをこしらえた円さんは、くすくすと笑いながら胸を張りました。

「私、図工が得意だったのよ」
『私、図工が得意だったのよ』

 買った方が安くて早いから。既製品の方が見映えがいいから。そう自分に言い聞かせながらやめてしまっていたハンドクラフトを久しぶりにやりたくなります。レジンを使って妖精さんサイズのアクセサリーを作ってみるのもよいかもしれません。

 円さんはどれくらいぶりかにわくわくしながら、お布団の中に潜り込みました。
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