9 / 9
(9)
しおりを挟む
「もしも君が婚約を解消する前に、俺が婚約者を見つけていたり、結婚していたりしていたらどうするつもりだったんだ」
「そもそもカルロに来ていた縁談は、すべてこちらが手を回して叩きつぶしておりましたわ! ちょっと容姿の良い男性や、財力のある男性を紹介するだけで譲ってくださる方ばかりでしたから本当に助かりました」
「おい」
「カルロは気づいていませんでしたけれど、意外と女性からの人気が高かったのですよ。子どもの私はもう心配で仕方がなかったのです!」
嫉妬をちらりと滲ませて、アンジェラは組んでいたカルロの腕に自身の豊満な胸元を押し当てた。柔らかな肢体に触れてしまったと焦るカルロだが、アンジェラの拘束は解けそうにない。
「アンジェラ、密着しすぎている。寒いなら羽織るものを持ってこさせるから、離れなさい」
「あら、私はわざと押し当てているんですけれど?」
「君のことを大事にしたいんだ」
「大事にしたいのならなおさら、早めに美味しく召し上がってくださいませ」
「せめて結婚してからだ」
「もたもたしていては傷んでしまいますわ」
「だから、俺を茂みに連れ込もうとするんじゃない!」
「ふふふふ、そんな生娘のような反応をなさって。可愛らしくて、襲ってしまいたくなりますわ」
「ふざけるな。男は君が考えるよりずっと危険な生き物なんだぞ」
「あら、私、辺境伯領で剣と魔術の修行も行っておりますのよ。私が嫌だと思う行動は、カルロさまであってもとらせませんわ」
「……まさか親父とお袋の修行に耐えたのか?」
「ええ。おふたりから、お墨付きをいただきましたので、どうぞご安心くださいまし」
カルロが王都で商会の仕事に勤しんでいる間、アンジェラは男装をした状態で修業に励んでいたのだという。日頃から公爵家にてみっちり鍛錬を積んでいたこともあり、何の問題も起きなかったのだとか。それを聞いてカルロが頭を抱えた。
「正直、心配しかない」
「大丈夫です。私が、きっとカルロを幸せにしてみせますから」
「その台詞は俺が言うべきものではないのか」
「あら、男女どちらが言っても良いものではありませんこと? だって、カルロに出会わなければ、私がこうやって強くなることもありませんでしたもの」
「それでも、俺なんかよりずっと君にふさわしい男はいるはずで」
「では、このように考えてはいかがでしょう? 私を支えてくれたのはカルロ。あなたがいてこその私。だから私の強さは、すなわちカルロの強さでもあるのです」
カルロに出会わなければ、きっと自分がこんな風に笑って生きる未来は訪れなかった。王子と聖女を恨みながら、日陰の妃としてひとり寂しく過ごしていたに違いないのだ。
どんな時でも、自分が立ち上がれば未来を切り開くことができるのだと知ったのはカルロに出会ったから。扱いづらい公爵令嬢ではなく、ただの子どもとして優しくしもらえたから、世界の見え方が変わったのだ。
きっとカルロにとっては当たり前のことだったのだろうけれど、守られるべき子どもとしてたっぷりと愛情を注いでもらえた。それは男女間の愛とはまったく性質の異なるものだったけれど、やせ細り枯れかけていたアンジェラの根っこを生き返らせるには十分なものだった。カルロがいたから、アンジェラはこの世界に根を張り、しっかりと生きていきたいと立ち上がれたのだ。そして周囲から注がれていた愛情だって、ちゃんと受け止め直すことができたのた。
アンジェラにとって、カルロは父のように安心でき、兄のように優しく、そして初めて知る憧れの存在だった。そんなアンジェラにとっての光に釣り合うように努力したのだ。カルロ自身にだって、「自分なんか」とは絶対に言わせない。密かに決意したアンジェラが、突然つり目がちな目元を柔らかく緩ませた。
「まあ、ちょうど良いところに宿り木が」
「寄生植物が好きなのか?」
「雰囲気の欠片もない台詞ですこと。商会を担っていく立場で宿り木の花言葉ではなく、学術的な部分を持ち出してくるなんて本当にお馬鹿さんね。でもそこがカルロらしくて、私は大好きですの」
冬至祭にはまだ早い。宿り木の下で口づけをしても、永遠の愛と幸福を得ることができるのか。それは神のみぞ知るだ。けれど、アンジェラは知っている。どんなに難しいことであっても、諦めずに立ち向かわなくては夢を叶える機会さえ得られないことを。
「カルロ、愛しているわ」
アンジェラはとびきりの笑顔でカルロに首元に腕を回して引き寄せた。
「そもそもカルロに来ていた縁談は、すべてこちらが手を回して叩きつぶしておりましたわ! ちょっと容姿の良い男性や、財力のある男性を紹介するだけで譲ってくださる方ばかりでしたから本当に助かりました」
「おい」
「カルロは気づいていませんでしたけれど、意外と女性からの人気が高かったのですよ。子どもの私はもう心配で仕方がなかったのです!」
嫉妬をちらりと滲ませて、アンジェラは組んでいたカルロの腕に自身の豊満な胸元を押し当てた。柔らかな肢体に触れてしまったと焦るカルロだが、アンジェラの拘束は解けそうにない。
「アンジェラ、密着しすぎている。寒いなら羽織るものを持ってこさせるから、離れなさい」
「あら、私はわざと押し当てているんですけれど?」
「君のことを大事にしたいんだ」
「大事にしたいのならなおさら、早めに美味しく召し上がってくださいませ」
「せめて結婚してからだ」
「もたもたしていては傷んでしまいますわ」
「だから、俺を茂みに連れ込もうとするんじゃない!」
「ふふふふ、そんな生娘のような反応をなさって。可愛らしくて、襲ってしまいたくなりますわ」
「ふざけるな。男は君が考えるよりずっと危険な生き物なんだぞ」
「あら、私、辺境伯領で剣と魔術の修行も行っておりますのよ。私が嫌だと思う行動は、カルロさまであってもとらせませんわ」
「……まさか親父とお袋の修行に耐えたのか?」
「ええ。おふたりから、お墨付きをいただきましたので、どうぞご安心くださいまし」
カルロが王都で商会の仕事に勤しんでいる間、アンジェラは男装をした状態で修業に励んでいたのだという。日頃から公爵家にてみっちり鍛錬を積んでいたこともあり、何の問題も起きなかったのだとか。それを聞いてカルロが頭を抱えた。
「正直、心配しかない」
「大丈夫です。私が、きっとカルロを幸せにしてみせますから」
「その台詞は俺が言うべきものではないのか」
「あら、男女どちらが言っても良いものではありませんこと? だって、カルロに出会わなければ、私がこうやって強くなることもありませんでしたもの」
「それでも、俺なんかよりずっと君にふさわしい男はいるはずで」
「では、このように考えてはいかがでしょう? 私を支えてくれたのはカルロ。あなたがいてこその私。だから私の強さは、すなわちカルロの強さでもあるのです」
カルロに出会わなければ、きっと自分がこんな風に笑って生きる未来は訪れなかった。王子と聖女を恨みながら、日陰の妃としてひとり寂しく過ごしていたに違いないのだ。
どんな時でも、自分が立ち上がれば未来を切り開くことができるのだと知ったのはカルロに出会ったから。扱いづらい公爵令嬢ではなく、ただの子どもとして優しくしもらえたから、世界の見え方が変わったのだ。
きっとカルロにとっては当たり前のことだったのだろうけれど、守られるべき子どもとしてたっぷりと愛情を注いでもらえた。それは男女間の愛とはまったく性質の異なるものだったけれど、やせ細り枯れかけていたアンジェラの根っこを生き返らせるには十分なものだった。カルロがいたから、アンジェラはこの世界に根を張り、しっかりと生きていきたいと立ち上がれたのだ。そして周囲から注がれていた愛情だって、ちゃんと受け止め直すことができたのた。
アンジェラにとって、カルロは父のように安心でき、兄のように優しく、そして初めて知る憧れの存在だった。そんなアンジェラにとっての光に釣り合うように努力したのだ。カルロ自身にだって、「自分なんか」とは絶対に言わせない。密かに決意したアンジェラが、突然つり目がちな目元を柔らかく緩ませた。
「まあ、ちょうど良いところに宿り木が」
「寄生植物が好きなのか?」
「雰囲気の欠片もない台詞ですこと。商会を担っていく立場で宿り木の花言葉ではなく、学術的な部分を持ち出してくるなんて本当にお馬鹿さんね。でもそこがカルロらしくて、私は大好きですの」
冬至祭にはまだ早い。宿り木の下で口づけをしても、永遠の愛と幸福を得ることができるのか。それは神のみぞ知るだ。けれど、アンジェラは知っている。どんなに難しいことであっても、諦めずに立ち向かわなくては夢を叶える機会さえ得られないことを。
「カルロ、愛しているわ」
アンジェラはとびきりの笑顔でカルロに首元に腕を回して引き寄せた。
280
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果
柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。
彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。
しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。
「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」
逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。
あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。
しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。
気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……?
虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。
※小説家になろうに重複投稿しています。
あなたをずっと、愛していたのに 〜氷の公爵令嬢は、王子の言葉では溶かされない~
柴野
恋愛
「アナベル・メリーエ。君との婚約を破棄するッ!」
王子を一途に想い続けていた公爵令嬢アナベルは、冤罪による婚約破棄宣言を受けて、全てを諦めた。
――だってあなたといられない世界だなんて、私には必要ありませんから。
愛していた人に裏切られ、氷に身を閉ざした公爵令嬢。
王子が深く後悔し、泣いて謝罪したところで止まった彼女の時が再び動き出すことはない。
アナベルの氷はいかにして溶けるのか。王子の贖罪の物語。
※オールハッピーエンドというわけではありませんが、作者的にはハピエンです。
※小説家になろうにも重複投稿しています。
【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。
猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で――
私の願いは一瞬にして踏みにじられました。
母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、
婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。
「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」
まさか――あの優しい彼が?
そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。
子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。
でも、私には、味方など誰もいませんでした。
ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。
白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。
「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」
やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。
それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、
冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。
没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。
これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。
※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ
※わんこが繋ぐ恋物語です
※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ
婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
振られたから諦めるつもりだったのに…
しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。
自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。
その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。
一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…
婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。
誤解されて1年間妻と会うことを禁止された。
しゃーりん
恋愛
3か月前、ようやく愛する人アイリーンと結婚できたジョルジュ。
幸せ真っただ中だったが、ある理由により友人に唆されて高級娼館に行くことになる。
その現場を妻アイリーンに見られていることを知らずに。
実家に帰ったまま戻ってこない妻を迎えに行くと、会わせてもらえない。
やがて、娼館に行ったことがアイリーンにバレていることを知った。
妻の家族には娼館に行った経緯と理由を纏めてこいと言われ、それを見てアイリーンがどう判断するかは1年後に決まると言われた。つまり1年間会えないということ。
絶望しながらも思い出しながら経緯を書き記すと疑問点が浮かぶ。
なんでこんなことになったのかと原因を調べていくうちに自分たち夫婦に対する嫌がらせと離婚させることが目的だったとわかるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる