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(まあいっか。エミリーが私をめて恥をかかせるためだけに、こんな大がかりなことをするはずないもの。伯母さまの暴走でなければ、きっとこれはエミリーの苦肉の策。だったら、この茶番に全力で乗ってあげましょう)

 ハリエットは心を落ち着かせるために紅茶を一口飲むと、小さく微笑む。その姿を動揺を隠して虚勢を張ったとみなしたらしい伯母は、何やら外出の準備を始めるようにメイドに指示を出し始めた。きっと後から、嫌がらせのようにハリエットの母親を訪ねるのだろう。

(本当に伯母さまったら、まったく性格が悪いんだから。まあうちのお母さまもひとのことを言えないけれど)

 ハリエットは心の中でため息をひとつ吐くと、エミリーに話しかけた。

「エミリーは一体いつ、私の好きなひとがだと気がついたの?」
「だってハリエットったら、いつもこっそり見つめていたじゃない。特に王城内の合同演習場の近くを通ったときなんてあからさまだったわ。わたしもあなたの好きなひとのことが知りたくて、ずっと一緒に同じを見ていたの。そして気がついたら、わたしも恋に落ちてしまっていて……」
「まあ!」

 そんなにじろじろと相手のことを見つめていたのだろうか。自覚がなかったハリエットは、恥ずかしさに顔が赤くなった。どうやら自分でも気がつかない間に、恋心が駄々漏れだったらしい。

「それがきっかけだったのか……」

 エミリーの隣に座る男性は、何とも言えない顔になった。なおエミリーの大層誤解を招くような物言いをいちいち止めないあたり、この件について彼も一枚噛んでいるようだ。

 伯母は伯母で眉を寄せている。なんだかんだ言って、「好きなひとを盗る、盗られる」という話題は、彼女にとっての地雷でもあるのだ。それならばわざわざハリエットをお茶会に招待しなければいいのだが、それはそれ、これはこれらしい。いくつになっても乙女心というのは複雑なものであった。

「そう、それでエミリーは彼のどんなところに惹かれたの?」
「誰にでも親切で、困ったひとを見逃せない正義感。けれど決して偉ぶらず、身分に関係なく優れたひとを育て上げる人間性。そして何より、この筋肉よ!」
「ふふふ、そうね、エミリーは昔から筋肉フェチだったものね」

 ハリエットは小さい頃の記憶を思い出して吹き出した。天使のような美少女のくせに、エミリーはお転婆で騎士ごっこをやりたがったものだ。

 どちらかと言えば騎士に守られる深窓の姫君のような佇まいをしておきながら、彼女は嬉々として棒切れを振り回していたものだった。文官系の家系であり、騎士団をあまり快く思っていないエミリーの母のせいで、その遊びはすぐに禁止されてしまったのだが。

「ハリエットは魔術師派だったものね。昔から詠唱ごっこをしていて本当に精霊を呼び寄せて大騒ぎに」
「その話はまた今度ね」

 伯母は不思議そうに首を傾げている。それはそうだ、同じひとを好きになったはずのハリエットとエミリーの好みの男性が異なっていてはおかしいではないか。やぶへびになっては困ると、慌ててハリエットは話題を切り替えた。
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