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またのご来園をお待ちしております。

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 少女と少年は手を繋いだまま、園内を駆け回る。もうあの怪しいピエロに追いかけられることもなくて、本当は走り続ける必要なんてなかったのだけれど。何だかびっくりするくらい身体が軽いのだ。こんなに風に羽根のように軽やかなら、もしかしたら空だって飛べるかもしれないなんて少女は笑う。

 隣の少年も、少女につられたのかにっこりと笑う。そうやって笑うと、この少年は不意にえくぼがぷっくりと浮かんでとても可愛らしいのだ。はっきりとした二重まぶたのくりくりとした瞳が、楽しそうにきらきらと輝いている。くすくすと二人は顔を見合わせて笑う。何もかもが楽しくてたまらない。

 ぼーん、ぼーんと時計の鐘が鳴る。もうすぐ夜が明けるらしい。この不思議な夜の遊園地は、朝日が昇ったらおしまいなのだという。誰に説明されたわけでもないのに、なぜかそれを思い出して、少女はもっと遊びたかったなあと呟いた。

 その声を聞きつけたように、ゆらゆらと桃色のうさぎが現れる。一匹、二匹、わらわらと溢れかえるきぐるみうさぎ。何だかうさぎたちはちょっぴり眠たげだ。夜通し働いて疲れてしまったのかもしれない。

「ココでクらしてもいいヨ」

 それはとても魅力的なお誘いだ。思わず頷きかけた少女を制して、条件があるのだとうさぎは言う。桃色のペンで描かれたうさぎのイラストを、別のうさぎがとんとんと束ねていた。どうやらこのうさぎは、一番古株のようだ。きぐるみに年季が入っている。

「ココでクらすなら、おキャクサマじゃない。ちゃんとハタラかないと」

 ここで働くって一体何をするのだろう。うさぎと同じように、チケットをもぎったり、風船を配ったり、甘いジュースを作ったりするのだろうか。もしかしたら、ジュースの材料に使うあの黒いガチャガチャを集めてこないといけないのかもしれない。

 今すぐ決めないといけないのだろうか。悩む少女をよそに、隣の少年は帰らないことを選んだらしい。手にしていた桃色の風船がぽんっと弾けると、目の前には可愛らしいふわふわの小さなうさぎがいた。おもちゃみたいに桃色のふわふわしたうさぎだ。ひくひくと鼻を動かす様子が可愛らしい。

「もうすぐヨがアける。みんなうさぎにモドるんだ」

 きぐるみの桃色うさぎも、次々にぽんっと音を立てて、同じようなふわふわのうさぎに姿を変える。今はまだ選べないと少女は思った。家に帰って、もう一度頑張ってみて、それでもダメならここで暮らそう。

「また遊びに来てもいい?」

 少女がおずおずと聞けば、小さなうさぎはどこから声を出しているのやら、鼻をひくひくとさせて答えてくれる。本当はもう二度と会わない方が良いのかもしれないけれど。

「またのごライエンをおマちしております」
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